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心臓病の機器診断ことはじめ
(3−3)
フォルスマンの心臓カテーテル法
カテーテル法とは血管の中に細い管を挿入し、目的とする心血管系の機能や形態の情報を得ようとする手段をいいます。生体の血管に初めてこのようなカテーテルを挿入したのは、先に述べたヘルイズでしたが、これは、英国のハーヴェーによって血液循環の正確な知識が示されてから既に1世紀を経てのことでした。
図5 フォルスマン
古川著書(1999)より更に1世紀の後、フランスのベルナールはカテーテルを血管を越えて心臓まで到達させ、この手技を「心臓カテーテル法」と命名します。これを初めて人体に応用したのは、ドイツの医師フォルスマンでした。
医師の資格を得たばかりの1929年(昭和4年)7月、彼は尿管カテーテルを自身の肘(ひじ)の静脈に挿入、 65センチメートル進めてのち地下のレントゲン室に移動し、カテーテルが右心房に到達していることを示すX線写真を撮影しました。「心臓の機能が急激に障害された時の緊急処置として、心臓内に薬液を注入するための手段」と説明していますが、人体の心臓に安全にカテーテルを挿入し得ることを示した画期的な実験でした。
その後彼は、カテーテルから造影剤を注入し、X線撮影を行う「心臓血管造影」を成功させるなどの先進的な実験を重ねましたが、例えば、カテーテルを用いて心臓内部の心電図を記録しようとした試みが、高名なヒス教授の反対によって挫折するなど、当時のドイツ医学界には受け入れられず、失望のうちに心臓カテーテルの研究から離れ、外科・泌尿器科の臨床医として生涯を送ることになります。
因みに現在は、心臓の電気生理学的検査の基本である、かのヒス教授の名を冠した「ヒス束電位」の記録に、電極付きのカテーテルが広く用いられていることは皮肉といえますし、また、バルーンを装着したカテーテルの利用が冠動脈疾患の治療法として確立されている現況は、フォルスマンの最初の実験が治療を目的として試みられたことを思う時、その慧眼(けいがん)に驚かされます。
その後心臓カテーテル法は米国のクールナンとリチャーズによって改めて注目、評価され、フォルスマンの最初の実験から10年余を経た1941年、これの臨床的な安全性と有用性が確立されることになります。図5は1995年ウガンダ発行の切手ですが、1956年フォルスマンは、「心臓カテーテル法の開発」によってクールナン、リチャーズと共にノーベル生理学・医学賞の受賞者となります。
おわりに
リヴァロッヂの血圧計の発明は、容易で安全な血圧測定を可能とし、高血圧の、ことに動脈硬化の危険因子としての理解を深めさせ、ひいては心臓病の予防に貢献してきたと考えられます。同様に、X線、心電図、心臓カテーテル法のそれぞれと、この三者の結びつきが、循環器疾患の診断と治療にもたらした功績は計り知れません。
これらは、今世紀半ば以降に登場し、生体にとってより安全な手段として利用されている核磁気共鳴(MRI)法や超音波法、またアイソトープを用いた手段などを補完しながら、循環器疾患診断の精度を更に高めていくものと期待されます。


