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NO.6 |
閉塞性動脈硬化症
(1−2)
北海道大学病院循環器外科
国原 孝さん
軽症でも油断は禁物/生活習慣の改善、早期発見、早期治療こそ
動脈硬化はいろいろな場所の血管(動脈)に現れます。閉塞性動脈硬化症(Arteriosclerosis Obliterans、以下ASOと略します)は、手や足の血管(動脈)に動脈硬化が現れる病気です。その罹患率は欧米では55−75歳の人口の約4.5%に発生するといわれています。残念ながら、日本では正確な統計はないのですが、欧米の1/2から1/10程度の罹患率ではないかといわれています。
*ウィンドーショッピング病
その症状は、重症度に応じて4段階に分けたFontaine分類が広く用いられています。T度は無症状、冷感、しびれなど、軽症のものをいいます。U度は間歇性跛行(かんけつせいはこう)といって、歩行開始時には異常はないが、徐々に筋肉の痛み・ひきつりを感じ歩行不能となり、休息により症状の消失がみられ、再び歩行可能になる状態をいいます。ドイツでは、その状態が、商店のショーウィンドーを見ながら幾度となく立ち止まっては歩くことを繰り返す貴婦人に似ていることから、「ウィンドーショッピング病」などと呼ばれています。その症状が出る部位は動脈が閉塞している部位によって様々ですが、ふくらはぎに出ることが最も多く、ふとももやお尻に出ることもしばしばです。
写真1 似たような病気に脊柱管狭窄症があり、背骨の脊髄が通る道が狭くなって脊髄を圧迫する病気です。時にわれわれ専門家でもその鑑別に苦慮することがありますが、脊柱管狭窄症による間歇性跛行は、歩くのをやめても痛みは消失しませんが、かがむと楽になり、また歩けるという点で区別できます。その他、もともと腰痛があったり、自転車では症状が出ないなど、問診でもある程度鑑別ができますが、最大の鑑別法は、後に述べる足の血圧を測ることで、これが一定以上あれば、まずASOは否定的です。
話がだいぶ横道にそれてしまいましたが、V度は安静時疼痛、W度は潰瘍・壊疽(えそ)の出現で、V・W度は重症虚血肢といわれており、入院して治療を要する場合が多いです(写真1は足の虚血性潰瘍=76歳、男性)。放っておいて血行が悪い部分に感染が起こったりすると直りにくく、最悪の場合は、病変部が腐り(壊疽)、その部分を切断することが必要になることもあるからです。ASOによる足の傷(虚血性潰瘍)は心臓より離れたところ、圧迫されるところに発生しやすく、具体的には踵、指先、親指や小指のつけねの外側(内側)などです。
写真2:ASOのMRI動脈撮影像。左の写真では右腸骨動脈に限局した狭窄があり、経皮的血管形成術の良い適応です。右の写真では両側の腸骨動脈、大腿動脈が閉塞しており、側副血行路を介して膝窩動脈が造影されており、バイパス術の良い適応です。
ASOの診断は、足の脈を触れてみることである程度つきます。具体的には太もものつけね(大腿動脈)、膝の裏側(膝窩動脈)、内側のくるぶしの後側(後頸骨動脈)、そして足の甲(足背動脈)が触れやすいです。脈を触れるのが難しい場合、もっと簡単な検査として、患者さんに横になってもらい、足だけ挙げてもらう方法もあります。ASOがある方の足は、血圧が低いので、重力に抗して血を足先まで送ることができず、蒼白になります。次に患者さんに座ってもらい、足を下ろしてもらうと、やはりASOのある方の足は色が回復する時間が遅れます。その他、片側だけ痩せている、色が白っぽい、体毛がうすいかなどもチェックポイントです。ただしこれらの方法は、両足に病変がある場合はわかりづらく、もっと確実な診断法は、足の血圧を測定し、それを手の血圧で割った値を測ることです。足関節上腕血圧比(Ankle-Brachial pressure Index、以下ABIと略します)といい、足の血管が狭くなっているとABIは低くなり、その正常値は1.0〜1.2です。糖尿病や透析患者さんなどで血管の石灰化が進んでいる場合、ABIはむしろ高くなるので注意が必要です。最近では5分間ですぐABIを測定できる機械がありますので、上記のような症状がある場合、一度専門病院で測定してもらうことをお薦めします。
ABIが低下してASOが疑われた場合、最終的には血管造影で血管が詰まっているところを診断します。最近では技術が進歩してMRIでも血管造影に匹敵した画像が得られるようになり、外来でも簡便に正確な診断ができるようになっています(写真2)。

