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NO.5 |
大動脈瘤
(1−2)
札幌医科大学第二外科
鉢呂 芳一
安倍 十三夫
破裂寸前までほとんど無症状
早期診断と早期治療が大切です
大動脈瘤とは
大動脈瘤という病気をご存知でしょうか。その名のごとく大動脈に瘤(こぶ)ができた状態です。大動脈が正常より太くなっただけでしたら特に心配ありませんが、問題となるのは突然破裂して死んでしまう可能性があることです。『ラプラスの法則』という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、ある物理学の法則で、それによると大動脈が拡張すれば拡張する程、大動脈壁にかかる張力がその直径に比例して増大してゆくという現象が認められます。従って大動脈瘤は大きくなればなるほど、その壁にかかるストレスが増大することとなります。風船にどんどん空気を入れていくとどんどん膨らんでいき、パンパンと張ってついには破裂してしまう、という事が起こりますね。大動脈瘤についてもこれと同様の事が起こりうるわけです。
正常であれば成人大動脈直径は、およそ20mm〜27mm程度の大きさです。しかし、大動脈径が正常の1.5倍以上に拡大すると大動脈瘤と呼ばれます。動脈瘤の発生原因としては、ほとんどの理由が高齢化と動脈硬化によるものです。高血圧を有する方に発生することが多く、中年〜高齢の男性に好発します。他に感染症やMarfan症候群、大動脈炎症候群など大動脈壁組織が脆弱になる病気が原因となることがあります。大動脈瘤はその発生部位によって胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤と診断されますが、どの部位においても大動脈径の直径が大きければ大きい程、破裂の危険性が高まります。通常直径が5cmを超えるものでは、その年に破裂する確率が10%以上と考えられています。
大動脈瘤のやっかいな点は、破裂する寸前までほとんど無症状で経過するという点です。(例外的に大動脈瘤が反回神経を圧迫することで嗄声を認めることがあります)従って、破裂して血圧が低下し、緊急事態になって初めて大動脈瘤の存在がわかるという事もしばしばです。
大動脈瘤の存在を診断するためには、超音波検査やCT検査、あるいはMRI検査などで判明いたします。高血圧や動脈硬化性疾患(狭心症、心筋梗塞、脳動脈硬化症、下肢閉塞性動脈硬化症など)を有する方や動脈硬化の進行しやすい病態である高コレステロール血症や糖尿病をお持ちの方は、必ず一度はこうした検査を受けて、大動脈瘤がないかどうか確認しておくことが大事です。また、逆に大動脈瘤を有する方の10〜30%程度で他の動脈硬化性疾患を合併していると考えられますので、もしも大動脈瘤が発見された場合は全身の血管病変の精査が必ず必要になります。
大動脈瘤の治療には
*血圧を低値に保つように内服薬を調節する。同時に動脈硬化の進展を予防しながら慎重に経過観察をする内科的治療
*大動脈瘤部分を切り取り、人工血管に置き換える手術
*大動脈内にステントグラフトとよばれる人工血管を折り畳んだ状態で進めてゆき、瘤の部分でこれを広げることで血管の内側から瘤の破裂を防止する治療の3種類があります。保存的治療すなわち降圧治療を中心に経過観察する治療は、定期的に大動脈瘤の拡大が無いか検査が必要になりますが、自然に治癒する(大動脈径が小さくなる)ことは、まずありえません。もしも大動脈瘤が破裂してしまった場合は、およそ50%の方が死亡してしまうと言われております。従って完全な予防としては、破裂する前に外科治療を行うことになります。もちろん手術にもある程度の危険性がありますが、現在まで札幌医大では約1500症例にも及ぶ外科治療を施行しており、最近ではかなり安全に治療が行われております。

