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NO.4 |
不整脈
(1−2)
旭川医科大学第一内科
川村 祐一郎
「ご心配なく」9割 「治療必要」は1割
皆さんの中で、「突然ドキドキした感じがする」「時々胸がドクンとなる」「脈が抜ける」といった感じを日常生活の中で経験された方はいらっしゃらないでしょうか。また、もっと強い症状として、「動悸が何時間も続いて、だんだんつらくなってくる」「フワーッとして目の前が暗くなり、立っていられなくなる」といった経験をお持ちの方もおられるかも知れません。こういった症状を経験されたとき、「不整脈ではないか?」と考えてみる必要があります。
心臓の4つの部屋(右心房、左心房、右心室、左心室)と洞結節。橙色で示したのが刺激伝導系 御存知のように、心臓は、体中に血液を送るポンプの役目をする臓器です。図1に示したように、心臓は主に4つの部屋からなり、その部屋の壁は自分の力で伸び縮みできる筋肉(心筋とよばれます)でできており、伸び縮みの繰り返しにより血液を全身に送ります。
しかし、いくら自分の力で伸び縮みできるといっても、もし各々の心筋が統率もなく勝手に伸び縮みしていたら、体にスムーズに血液を送りだす心臓の働きは成り立ちません。そのため心臓には、心筋が伸び縮みする順番やタイミングを司る命令機構があります。この機構を「刺激伝導系」とよびます。図1を御覧下さい。刺激伝導系は一種の電気系統といってもよく、一定間隔で電気的インパルスを発生する洞結節とよばれる組織と、これを心臓の隅々まで伝える電線のような組織からなります。心臓の活動は、簡単には手首などを触ってわかる「脈」として現れます。刺激伝導系が正しく作動していれば、一般にヒトの脈は安静時で1分間60回前後、脈と脈との間隔は一定になります。
簡単にいえば、不整脈とは、この刺激伝導系に何らかの異常があって、正しい作動が乱された状態です。例えば、一定の間隔であるべき脈と脈との間に余分な作動がはさまれば「ドキン」とするでしょうし、あるべき作動がお休みすれば「脈が抜けた」ということになります。
症状が多種多様であることからもわかるように、一言で「不整脈」といっても、その種類や程度はさまざまです。実は、不整脈の90パーセントは放っておいても何ともないものです。なぜならほとんどの不整脈は、特にある種の病気(心臓病など)に伴って出ているわけではないからです。また、数からみて、たとえば1分間60回の脈のうち1回が乱れたとしても、心臓全体の活動、ひいては人間の活動からみて大きな影響はありません。こういった不整脈は「病気」には含まれません。しかし、残りの10パーセントは何らかの処置や治療を施さなければならない不整脈です。
では、「不整脈かも知れない」症状があったとき、これを放置してもよいものか、治療しなければならないものか見分けるにはどうしたらよいのでしょうか。
(1)病院へ行って心電図をとる:不整脈の有無(はたして本当に不整脈か)、不整脈の種類(刺激伝導系のどこが異常なための不整脈か)、原因(もととなる心臓病があるのか)などを診断するには、心電図検査が必須です。すなわち、症状があったら、躊躇しないで病院を受診し、心電図を記録してもらってください。上に述べた情報は全て心電図に現れるものです。
(2)1回の心電図で分からなければ24時間心電図(ホルター心電図)をとる:1回の心電図記録はおよそ30秒、長くても3分位で終了します。これでもかなりの情報は得られると思いますが、肝心の不整脈が記録されない場合がしばしばあります。このような時、医師は、24時間心電図(ホルター心電図)の装着をすすめることが多いです。これは、心電図を約24時間分の磁気テープに記録させ、後で専用の解析器を用いて不整脈の種類、数、出現時間帯などをチェックするものです。病院で患者さんに装着するのは重さ200グラム前後の小型のカセットテープレコーダで、お宅へお持ち帰りになり、翌日病院へ返して頂きます。お宅へ帰られた後はなるべく普段と同じような生活(仕事、家事、運転、散歩、ジョギングなど:但し入浴、シャワー、水泳などは器械がこわれてしまうのでだめです)をして頂くと日常での不整脈出現状況が正しく把握できるので理想的です。最近では、磁気ディスクを媒体としたさらに小型のものも開発されています。
(3)その他の検査:上記の検査に加えて、背景にある心臓病を検出するための血液検査、胸部レントゲン検査、心臓エコー検査、また、特に運動中に不整脈が出やすい方では、運動負荷検査が行われることもあります。
これらの検査により不整脈の種類、数がわかるわけですが、最初に述べたように、大半の患者さんは医師に「○○さんの不整脈は××という不整脈だったけど、これはよくみられるもので、数も少ないし、心臓の病気というわけではないので、放っておいても大丈夫ですよ」と言われると思います。実際、24時間心電図は、病気の検出というより、こう言った「安心」を得るために行われることが多いです。
しかし、一部の患者さんには、何らかの治療が必要という結果が出ることになります。不整脈そのものに対し治療が必要という場合もあれば、不整脈を起こしている原因となっている病気の治療が必要という場合もあります。いずれにしても、医師の指示に従って治療をすすめて下さい。
次に、治療が必要な不整脈の中で比較的頻度が多い「心房細動」という不整脈について解説します。

