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多職種介入による心不全緩和ケアの実践
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北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室
佐藤 琢真・永井 利幸・安斉 俊久 氏
循環器緩和ケアチームの活動
心不全患者の病状に応じた緩和ケアを適切に提供するためには、診療チームからのコンサルテーションには常時対応できる体制を整えるとともに、定期的にカンファレンスを開催し、チーム内における情報共有およびアセスメントを行うことが望まれます。
循環器診療の現場で実践されるべき主要な緩和ケアの内容は、@緩和ケアニーズの評価A将来の医療及びケアについて、患者を主体に、ご家族、医療・ケアチームが話し合いを行い、患者の意思決定を支援するプロセス(ACP)B全人的苦痛の評価C苦痛への基本的マネジメントD必要に応じた専門的緩和ケアチームへの相談などが想定されており、それぞれがチームの役割を理解しながら目標を設定して取り組むことが求められます。
緩和ケアを提供するためには、まず患者・家族の苦痛や苦悩に気付くことが必要であり、包括的評価ツールの運用はその一助となり得ます。北海道大学病院の心不全緩和ケアチームでは、患者報告アウトカム尺度(PROMs)のひとつとして、ホスピス・緩和ケアで用いられる評価尺度(IPOS)を用いた包括的評価を行っています。IPOSは身体症状だけでなく社会的側面、精神的側面の評価を含むことが特徴であり、心不全を含めた非がん患者の評価に広く使われています。
本ツールは主観的評価のみならず、医療者による代理評価にも対応が可能です。当院では主観的評価を原則としていますが、身体機能や認知機能の低下、意識レベルの低下などにより、自らの症状を訴えることが難しい場合は代理評価によって症状や患者を取り巻く状況の評価を行っています。
IPOSによる評価は医療者が容易に電子カルテに反映し閲覧できるようシステム効率化を図り、業務負担の軽減や、医療者間の情報共有の強化に努め、スコアリング経過を図表化することで、経時的変化やアセスメント前後の変化を視覚的に把握しやすくし、アウトカム評価ツールとしても活用し、評価表内に自由追記が可能な欄を設けることで、スコアに反映することができない患者の症状や思いを見落とすことがないように工夫をしています。
定期カンファレンスでは全職種で毎回司会を持ち回りとすることで、医師中心の議論となることを避け、各職種が主体的に取り組むことができるよう心掛けています。
また、診療担当医のカンファレンスへの参加、カンファレンスにおける議論や介入内容のカルテ記載、緩和ケアチームによる回診などを実践することで多職種協働が患者に還元されやすい環境を整えています。
ACPの引き継ぎと地域連携
当院では多職種介入による心不全教育やACPの経過を他施設と共有し、時に引き継ぐことを目的として、さっぽろ北部心不全ネットワークが監修・発行している「地域で見守る心不全連携手帳」の運用を行っています(図4)。
本手帳は患者が医療スタッフと共に身体の状況や治療・指導内容を記入し、日々の自己管理に役立てることを主目的としていますが、患者の心不全治療内容や方針を各職種で共有することで、医療者間のコミュニケーションツールとしても使用することもできます。また、患者の人生観や価値観、将来の治療やケアに対する希望、代理意思決定者に関してステップに分けて記載することが可能です。心不全治療の内容に加えて、ACPの経過を患者、家族、医療者が共有することで、患者の心不全治療を包括的に支援できるよう取り組んでいます。