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静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法
:最近の考え方
(2/2)
手稲渓仁会病院 循環器内科 主任部長
湯田 聡 氏
VTEは、どのように治療するのか?
VTE治療の基本は、抗凝固療法になります(但し、急性PTEで、血圧が低下している場合には、血栓溶解療法や外科的もしくはカテーテル的血栓摘除も行います)。VTEを有する患者では、血管内の凝固活性が高まっています(“血が固まりやすい”)。抗凝固療法で、その凝固活性を抑えることにより、血管内の線溶系を亢進させ、血栓を溶解します。
本邦では、これまでVTEの抗凝固療法として、未分画ヘパリンとワルファリンを組み合わせて使用してきましたが、ワルファリンの効果が安定するまで数日要することが問題でした。2011年より皮下注射製剤ですが、採血で薬剤の効き具合をみること(モニタリング)が不要な間接的Xa阻害薬(フォンダパリヌクス)が使用可能になりました。さらに2014年より経口内服が可能な直接作用型Xa阻害薬である、エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバンが順次承認され、VTEの治療に使用可能となりました。
これらの薬剤は直接作用型経口抗凝固薬(directoral anticoagulant; DOAC)と呼ばれています。これらの薬剤(特にDOAC)の登場で、VTEの治療戦略が変わってきました。
DOACの利点として、@出血性合併症(頭蓋内出血など)が少ない、A効果発現は早い(服用して1〜2時間で安定した効果が期待できる)、Bモニタリングが不要、C食事や薬剤との相互作用が少ない(例えば、ワルファリン服用中は摂取できない納豆が摂取可能)点などがあげられます。一方、高度に腎機能が低下した例(表2)には使用できないことに留意する必要があります。また、薬価が高いことも問題点としてあげられます。
現在、本邦ではVTEの内服治療として、ワルファリンに加え、エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバンが使用可能です。日本循環器学会から発表された“肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)”では、PTE/DVTの治療については、class I の推奨でこれらの薬剤の使用が勧められています(表3)。VTEの治療にどの薬剤を選択するかは、出血の起こしやすさ、併存疾患、費用、使いやすさなどを考慮して決めることになります。最近は、より早期に効果発現が期待でき、一定の内服量で管理が可能なことから、高度な腎機能低下など禁忌に該当しない場合、従来の未分画ヘパリンとワルファリンの併用ではなく、DOACを選ぶことが多くなってきました。![]()
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VTEに対するDOACはどのように使用されるか?
VTEに使用可能なDOACの特徴を表2に示します。抗凝固薬による治療期間は、初期治療期、維持治療期(初期治療後〜3ヵ月)、および延長治療期(3ヵ月以降)に分けます。DOACは内服後1〜2時間程度で効果が期待できることから、従来のワルファリンのように注射薬剤(未分画ヘパリン、ファオンダパリヌクスなど)を併用することは必須ではありません。リバーロキサバンとアピキサバンは、注射薬剤を使用せずに単剤抗凝固療法が可能で、初期治療期(それぞれ3週間、7日間)は高用量の投与を行い、維持治療期は常用量で治療します。エドキサバンは、急性期にヘパリンなどの注射薬剤により適切な初期治療を行った後に投与開始となります。またエドキサバンは、DOACの中で唯一整形外科手術(膝関節・股関節人工関節置換術および股関節骨折手術)時、VTEの発症予防に使用可能です。
VTEに対するDOACはいつまで使用するか?
VTEに対する抗凝固療法の継続期間は、1)危険因子が一過性・可逆性の場合には3ヵ月間、2)誘因のない場合には少なくとも3ヵ月間で、それ以降は血栓塞栓症の再発を減らすことと、逆に出血性合併症(消化管出血など)を増やす可能性を勘案して期間を決定、3)がん患者もしくは再発をきたした場合には、より長期間の抗凝固療法が考慮されます。
がん関連VTEに対するDOAC
がん患者では、しばしばVTE(がん関連VTE)を発症します。従来、がん関連VTEは、急性期は注射薬剤(未分画ヘパリン、ファオンダパリヌクスなど)で治療し、その後、ワルファリンによる治療が行われてきました。しかし、ワルファリンによる治療中でも、VTEの再発がしばしば起こり、さらに出血性合併症も多く起きてしまうことが問題でした。
最近、がん関連VTEに対する、エドキサバン、リバーロキサバン、アピキサバンの治療効果について世界的な大規模臨床研究が行われ、これらの薬剤の有効性および安全性が示されつつあります。今後、がん関連VTEに対するDOACをどのように使用すべきか、ガイドラインなどで明らかにされることになると思います。

