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最近の糖尿病診療の話題(前編)
〜カロリー制限だけではない糖尿病の食事療法〜
(2/2)
札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座
講師 矢野 俊之 氏
3.エネルギー摂取量の考え方
糖尿病の食事療法といえば、カロリー制限をイメージする方が圧倒的に多いと思います。適正な総エネルギー摂取量とバランスのとれた食事が糖尿病治療の基本中の基本であることは今も変わりありません。
一方で、高齢糖尿病では低栄養になりやすいことも分かってきました。高齢のやせ型糖尿病の方に教科書通りのカロリー制限を行うことにより、見かけ上の血糖は改善しますが、フレイル・サルコペニアになってしまう可能性が指摘されています。また、これまでbody mass index(BMI)22が健康とされてきましたが、糖尿病に限らない高齢者のデータでは最も死亡率の低いBMIは少なくとも22よりは高いことが明らかになってきました。
そのため、現在は図3のように総エネルギー摂取量を設定することが推奨されています。![]()
4.フレイル・サルコペニアも意識した食事療法
とにかく、糖尿病治療の基本は食事療法です。食事「おいしく健康に!」
- 規則的でバランスのよい食生活が理想です。肥満のある人は食べ過ぎない(腹八分目)が基本です。「ドカ食い」や「早食い」をしないようにこころがけましょう。
- 料理をよく味わいながら、1口20〜30回は噛むようにしましょう。
- 肥満のある65歳未満の人は、カロリー摂取量(kcal)=目標体重(kg)×25〜30kcalを目標にしましょう。
- 適正なカロリー摂取量(kcal)は目標体重によって変わってきます。75歳以上の人や65歳以上で病気の多い人・痩せ型の人は主治医・かかりつけ医の先生によく相談してください。図3が参考になります。フレイル・サルコペニアのある方は、[身長(m)]2×24〜25と目標体重を高めに設定したほうがいい場合があります。
- 1日のタンパク質摂取量は、一般的には総カロリー摂取量の20%までが目安です。65歳以上で、特にフレイル・サルコペニアを合併したやせ型の人では、十分にタンパク質をとりましょう。
- 総タンパク質摂取量は、高齢者では1.0〜1.2g/kg/日、フレイル・サルコペニアがある場合は1.2〜1.5g/kg/日を目標にしましょう。とはいっても、肉や卵ばかりだとバランスが悪くなります。魚や大豆製品を多くとりましょう。腎臓が悪い方ではタンパク質摂取量に上限を設ける必要があります。主治医・かかりつけ医の先生のアドバイスに従ってください。
- 食物繊維の摂取はとても重要です。食後の血糖の上がりをなだらかにし、コレステロールの増加を防ぎ、便通も良くなります。野菜、未精製穀類(玄米や大麦など)、海藻、きのこなどを多くとるようにしましょう。食事の最初に野菜を多くとるのが効果的です。果物は果糖を多く含むため適度に摂取しましょう。
- 腎臓が悪い方は野菜ばかりだとカリウムが上昇することがあります。定期的に採血を受けて、適正量を学びましょう。
- 肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を少なくし、魚類や大豆製品の摂取を増やしましょう。魚卵はコレステロールと塩分が多いので注意が必要です。
- 塩分は控えめにしましょう。1日6g未満が目標です。
- アルコールの摂り過ぎにも注意が必要です(日本酒なら1合、ビールなら1本、ワインならグラス2杯まで)。
これらの注意点は、あくまで食欲のある方に対してのものです。食欲の低下している方はまずは食べることができるものをしっかり摂取することを優先させることも大事になります。

