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NO.12

心房中隔欠損症のカテーテル治療
―アンプラッツァー閉塞栓―
( 1/2 )

北海道立子ども総合医療・療育センター
循環器科 横澤正人 氏


<心房中隔欠損症とは?>

 読者の皆さんは「心房中隔欠損症」という心臓の病気をご存じですか?心臓の右心房と左心房を仕切る心房中隔という壁に穴が開いている病気です(図1)。生まれつきの心臓の病気「先天性心疾患」で、1,000人に1人くらいの頻度と言われています。

図1

 通常は心臓から肺に流れる血流と心臓から全身に流れる血流は等しくなります。
 しかし心房中隔欠損症の場合は、肺から左心房に戻ってきた血流の一部が穴を通して右心房に流れ、右心室を介してまた肺に流れます。
 そのため右心房、右心室、肺といった右心系の血流が増加します。穴が大きな場合は全身に流れる血流の2倍、3倍の血流が右心系に流れることも珍しくありません。
 このように右心系への負担が増えると、疲れやすい、むくみやすい、風邪や肺炎などにかかりやすいなどの症状が出てきます。脈が急に速くなる、乱れるといった不整脈が出る場合もあります。また通常の人の場合は静脈や右心房に血栓が出来ても、肺がフィルターの役目をして、脳梗塞などの重大な塞栓症の原因にはなりません。
 しかし心房中隔欠損症を持った人の場合はいきんだりした時に瞬間的に穴を介して右心房から左心房に血液が流れることがあるため、静脈や右心房の小さな血栓が、脳梗塞などの重大な塞栓症になることがあります。「奇異性塞栓」と呼ばれています。注意しなくてはならないのはこれらの症状が出る時期で、新生児や乳児はもとより幼児、学童でも症状がほとんど出ないのが普通です。出るのは多くは20代、30代で、症状が出たときにはかなり病状が進んでいることが多く、その時期に穴を閉じても必ずしも症状が取れないことがあります。
 もう一つ注意しなければならないのは、心雑音などの診察上の所見に乏しいことです。そのため健診でも見逃されることが多い病気です。小児では小学校や中学校入学時には心電図検査を必ず行い、心房中隔欠損症をはじめとする判りにくい子どもの心臓の病気を見つけ出す努力をしていますが、100%には遠く及ばないのが現状です。

<心房中隔欠損症の治療>

 心房中隔欠損症の治療は、長い間、手術が主体でした。全身麻酔をかけて胸を開け、人工心肺という装置で人工的に体の静脈血を吸い上げて酸素の豊富な動脈血に変えてそれを動脈から送り込み、一時的に心臓を止めた状態にして、心臓を開けて穴を閉じ、再び心臓を動かすという手術を行っていました。手術としては確立された方法で、成功率はほぼ100%です。
 しかし胸に傷跡はそれなりに残りますし、退院するまでに 2 週間程度かかります。手術後の数日間は倦怠感は強いし、頻度は少ないのですが、心臓の周囲に水がたまったりするようなトラブル(合併症)もあります。
 最近になって、胸を開けることなくカテーテルを用いて心房中隔欠損症を治す方法が開発されました。それがアンプラッツァー閉塞栓による心房中隔欠損症のカテーテル治療です。現在は世界中で行われており、日本でも2006年4月から健康保険の適用となり本格的に実施されるようになりました。

<アンプラッツァー閉塞栓による カテーテル治療とは?>

図2

 閉塞栓はニッケルとチタンの合金であるニチノール製の細いワイヤーをメッシュ状に編み込んだ2つの傘(ディスク)が細い接合部(ウエスト)を介して重なるようになっており中にポリエステル樹脂が詰まっています(図2)。この2つのディスクが右房側、左房側から穴を挟み込む形で閉塞します。ニチノールは形状記憶合金で、閉塞栓は細く伸ばされた形でカテーテルに収納されており、カテーテルの外に出ると図2の形状に変化します。

<治療の適応>

 穴を流れる血流がある程度以上に多くて右心系に負担のかかっている場合が閉鎖の適応になります。穴を流れる血流がわずかの場合は将来的に症状が出る可能性が無いので適応になりません。最近は過去に奇異性塞栓を起こした場合も適応とする場合があります。
 ただし、すべての穴がこの方法で閉じられる訳ではありません。限界があります。第一に穴が心房中隔の真ん中に開いている必要があります。2つのディスクで穴の辺縁を挟み込む形で閉鎖しますので穴が真ん中からずれた位置にあると穴の辺縁の一部が欠けてしまい閉鎖できません。また真ん中からずれると、肺静脈や弁などの心臓の他の重要な構造物に閉塞栓が引っかかってしまうことがあります。第二に穴の大きさに上限があります。直径38mmが限界とされています。現在のところこのカテーテル治療が可能なのはすべての心房中隔欠損症の50〜60%程度といわれています。


  
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