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No43 |
メタボリックシンドロームはなぜ恐ろしいのか?
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島本 和明氏
きょうは「メタボリックシンドロームはなぜ恐ろしいのか?」ということについてお話させていただきます。メタボリックシンドロームという言葉は新聞やテレビなどでご存知と思いますが、敢えてこれを皆さんと一緒に考えてみようと思いましたのは、実は、ついこの間、医療法の改正がありまして、来年4月から、保険者、すなわち国民健康保険か社会保険いずれかがメタボリックシンドロームの健診を行い、そこで診断がついた場合には保健指導を行うことが決まったからです。1年後には、健診と保健指導という形で、皆さんに身近なことになるからです。
生活習慣病という言葉は皆さんご存知でしょう。以前は成人病といいまして、早期発見、早期治療でこれに対処してきました。集団健診から始まりました。しかし、最近増えている動脈硬化性の病気、脳卒中や虚血性心臓病、狭心症、心筋梗塞などは基礎に高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、あるいはタバコといった生活習慣に起因する要因があり、これらは食事や運動など生活の欧米化とともに増えてきていまして、それにつれて、動脈硬化による脳や心臓の病気も増えています。ですから、これらの病気を予防するには、できたものを早く見つけて早く治すのではなくて、一次予防といいまして、まず生活習慣を改善して病気が出ないようにしようという狙いで、厚生労働省が成人病という言葉を生活習慣病に改めたのです。生活習慣病は皆さんがならないようにし、なっている方でも、それをしっかり管理すれば病気自体がよくなるということで大変注目されているわけです。
高血圧、高中性脂肪、糖尿病、肥満…複合で増す危険性
動脈硬化性の病気はどういうものか、動画で紹介します。血管の中はつるつるの内細胞で覆われ、血球がくっつかないで循環できるようになっています。しかし、高血圧や高血糖、高コレステロール血症、あるいはタバコを吸ったりしますと、このつるつるの内細胞が障害されてきます。そうしますと単球という細胞が、本来はつかないのにくっついてしまい、内細胞から血管壁に入り込み、貪食細胞マクロファージになってコレステロールを自分の細胞の中に取り込むようになります。その結果、血管平滑筋という筋肉を膨らませて、だんだん腫れてきます。これが動脈硬化で、血管内腔が狭くなれば血が流れにくくなります。さらに、プラークといって動脈硬化層の一部に弱いところができると、こういうところが剥がれて傷がつくことがあります。そうするとそこに赤血球、血小板がくっついて血を止めようとし、血栓ができて血は止まるのですが、でき過ぎて完全に血管を閉じてしまうことがあります。血が行かなくなりますから、栄養も酸素も行かなくなります。心臓の血管でここが詰まると、この先に心筋梗塞が起きて細胞が死んでしまいます。その結果、ものすごく強い胸痛がでてきます。動脈硬化が進むとコレステロールが溜まって、血液がだんだん通りにくくなり、さらに弱い所が破れると完全に血管が詰まってしまって、その結果、心臓にくると心筋梗塞、狭いだけだと狭心症です。脳の血管にくると脳梗塞という病気になります。
さて、この動脈硬化を起こす三大危険因子は、これまでは、高コレステロール、タバコ、高血圧といわれておりました。動脈硬化の病巣にコレステロールが溜まっているということから、これが非常に悪いということは皆さんご存知の通りです。タバコも非常に悪い。高血圧は三番目にあげてありますが、これがどの程度悪いのかはよく分かっていません。三大危険因子の中でも、特にコレステロールとタバコが悪いといわれております。心筋梗塞を起こして札幌医大の第二内科に入院した男女100人を調べました。動脈硬化を悪化させるどういう要因があるのかをみますと、実は一番重要と考えられているコレステロールが高い方は男性ではわずか28%、女性でも36%、平均すると1/3しかいません。タバコを吸う方は、女性では非常に少ないのです。それでは、タバコは吸わないしコレステロールも高くない方々がどうして動脈硬化に、そして心筋梗塞になったのでしょうか。コレステロールとタバコ以外の要因としては、高血圧の頻度がすごく高いのが目につきます。中性脂肪が高い、糖尿病、肥満もあげられすが、これらはそれぞれ単独ではタバコやコレステロールよりも悪さ、危険性は少ないのですが、複数になるとコレステロールが高い方やタバコを吸う方と同じくらい危険なんだということが分かってきました。メタボリックシンドロームという言葉、こういう症候群が提唱されてきた所以です。
メタボリックは代謝という意味です。「糖代謝」とか「脂質代謝」の代謝です。シンドロームは症候群です。エコノミークラス症候群とかシックハウス症候群という言葉があります。ですからメタボリックシンドロームは代謝異常症候群と考えてよろしいでしょう。この横文字のメタボリックシンドロームは、皆様に覚えていただくのが大変でしたが、厚生労働省が取り組むことになってからはマスコミ、メディアでよく使うようになり、皆様にもお馴染みの言葉になってきたと思います。厚生労働省が提唱している日本語名は「内臓脂肪症候群」ですが、今では、皆様にはメタボリックシンドロームという言葉でご理解いただけると考えております。
メタボリックシンドロームの日本の基準を作ったのは、2年前の2005年4月で、内科学会、高血圧学会、肥満学会、動脈硬化学会など8つの学会によります。まず内臓脂肪蓄積の基準ですが、立って息を軽く吐いてお臍の周りで計った腹囲が男性85p以上、女性は90p以上ある方を腹部肥満とします。男性は40歳以上で53%ですが、女性は40歳以上で16、17%です。これが必須条件です。これの他に、中性脂肪が高いか、HDL善玉コレステロールが低いか、脂質代謝異常があるか、血圧が130/85以上か、血糖が空腹時で110以上かが条件としてあり、脂肪と血圧と血糖3つの内2つ以上が当てはまればメタボリックシンドロームとします。
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