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No37 |
しなやか血管、いきいき生活 〜コレステロールが高いといわれたら〜
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筒井 裕之氏
ただいまご紹介いただきましたように私は九州の生れで、昨年9月より北海道大学の一員として仕事をしています。専門は循環器内科で、心臓と血管の病気の患者さんの診療を担当しています。北海道には札幌医大の島本先生 、旭川医大の菊池先生、さらに循環器を専門とされる多くの先生方がおられます。先生方と連携して、心臓血管病の患者さんに質の高い医療を提供することを目標に掲げ、本格的に仕事をやり始めたところです。ここにお集まりの皆さんにも、今後、いろいろな形でお会いし、お話をする機会があると思います。どうぞ宜しくお願いします。
きょうのフォーラムには「願いは健やかハート」というテーマがついていますが、実にいいテーマだと思います。「健康」はまさに私たちにとって「願い」です。健やかな生活を実現することが私たちの大きな願いですが、これを脅かすものがあります。これを私たちは危険因子とかリスクファクターとか呼んでおります。コレステロールが高いのもそのひとつですが、なにせ全然症状がありません。「ん、コレステロールが高くなってきたな」とわかるのであればいいのですが、採血しないとわかりません。検診で採血検査を受け、コレステロールが高いといわれると「さぁーどうしよう…、何も症状が無いし、まあいいんじゃないか」と考える人もいるでしょう。しかし、「健やかハート」という「願い」をかなえるには、それではいけないのです。どうしたらいいのでしょうか。健康な心臓には、「しなやかな血管」がとても重要です。健康な心臓であれば「いきいき生活」ができます。多くのみなさんに、きんさん、ぎんさんのように長生きしていただくのが、心血管病の診療にあたっている私たちの願いです。そのような願いを込めて、きょうは私どもが、コレステロールが高いという病気をどのように考え、どのように治療しているのか、ご紹介させていただきます。
予防も治療も生活習慣が左右
生活習慣病という言葉があります。以前は成人病といわれました。殆んど同じ病気ですが、必ずしも成人になってからということではなく、むしろ生活習慣に問題があって病気が起きてきます。逆に、生活習慣をきちんとすれば病気を予防できますし、病気になっても治療ができるということで、最近は生活習慣病と呼ばれています。いろいろな病気がありますが、高脂血症、糖尿病、高血圧を三大生活習慣病といいます。高脂血症は脂肪が高いことで、コレステロールが高い状態を病名で高脂血症といいます。糖尿病は申しあげるまでもなく血糖値が高く、高血圧は血圧が高い。いずれも重要な生活習慣病です。私の後から、国立循環器病センター前総長で、世界的な権威であられる尾前先生が高血圧についてお話になりますので、私は高脂血症についてお話します。
きょうの私のお話には三つの大きな項目があります。コレステロールが高いといわれたが、症状は何もない。では、なぜコレステロールが高いのがよくないのか、を最初に説明します。これで、コレステロールが高いのはどうもまずいな、とわかっていただけると思いますので、コレステロールを高くしないためにはどうしたらいいのかを二番目にお話します。予防です。でもどんなに注意していても、やはり病気になってしまうことがあります。病気になったらもうおしまいかというと、そうではありません。循環器内科の医師としての私たちが、患者さんのために何をしてさし上げられるかを紹介させていただきます。
ここ30年間ほどの年次データによると、日本人は1960年頃にはアメリカの人よりずいぶんコレステロールが低かったのですが、その後、アメリカでは段々下がってきたのに、日本人はどんどん上がり、今は殆んど差がなくなりつつあります。これぐらい日本人のコレステロールが上がってきた、という現実があります。そして日本人でコレステロールが高いのは約2400万人といわれています。高血圧は約3500万人です。最近、高血圧とコレステロールの高い患者さんが非常に多くなっています。
コレステロールが高くなるのには、大きな二つの要因があります。食物中のコレステロール、特に脂肪が多いと段々コレステロールが高くなります。また、食べ物全体のカロリーが多くなれば、コレステロールが体の中で作られ、高くなります。日本人のコレステロールが高い人の割合が増えてきたことには、食生活の変化、いわゆる欧米化した食生活が密接に関係しています。まだ日本人のコレステロールがあまり高くなかった1960年当時、食事でのコレステロールの割合は10%以下でありました。それが最近では、その2倍から3倍近くに跳ね上がっています。私たちの食事が欧米化し、脂っこいものを多く食べるようになったのが、一番、コレステロールが高くなったことに関係しています。まさに生活習慣病で、食生活が非常に強く影響しています。
コレステロールと一口でいいますが、治療を受けておられる方はよくご存知だと思いますけれども、全体を示す総コレステロールと、個々いくつかのコレステロールがあります。よく知られているのがLDLコレステロール、もう一つはHDLコレステロールです。LDLが悪玉のコレステロール、HDLは善玉コレステロールともいわれます。従ってLDLは低いほうがよく、HDLは高いほうが良いということになります。ただ、この二つのバランスで決まっているわけではありません。LDLコレステロールが高くても善玉のHDLコレステロールが高いから大丈夫だ、とはなりません。やはりLDLコレステロールが高いのがどうもよろしくない、悪いほうをきちんと下げないといけない、ということが知られております。
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