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No.31 |
講 演「自分で守れる心臓・血管病」
(5/5)
一番よい運動は歩くこと/食事と併せて、ほぼ完璧
糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満はどうやって管理すればいいのか。生活習慣の修正項目として、まず血圧を守るために食塩は1日7グラム以下にしてもらいたい。これは可能ならば、の話です。いま日本人は、大体12から13グラム摂っています。北海道でも13グラムです。7というと、半分です。可能ならいいのですけれど、難しいですね。それでこれは理想的にこうですけれど、今度のガイドラインでは6グラムになります。どうしてかと言うと、欧米では全部6グラムにしているからです。
しかし、厚生労働省で出している指針「健康日本21」では、まず無理なことは言わないで、10グラムにしましょうということになっています。まず10グラムからにしてください。一般の方は10グラム以下にすると、将来高血圧の予防になります。しかし、血圧の高い方は、可能なら、7グラムにすると血圧が10近く下がります。薬がひとつ要らなくなります。これもさっき言いました、自分で守れる心臓血管病のひとつです。*
それから、適正体重の維持。これは大変重要です。お酒の制限、男性は日本酒約1合まで、女性はその半分になっています。コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える、運動療法特に有酸素運動をやる、そして煙草は止める、こういうことが基本になります。
女性の方で気をつけなければならないのは、とにかく甘いもの。女性の患者さんにカロリーのことを聞くと、ご飯は幾ら幾ら、きょうはご飯半膳しか食べませんでした、と言いながら、甘いものは除いて答える方がたくさんおられます。口に入ったものは全部カロリーです。
男性はもう絶対にお酒です。ご飯なんか食べていない、朝も食べないと言っても、二日酔いだから食べないだけです。昼は蕎麦。で、夜はまた酒を飲んで食べる。そこでお酒のカロリーのことをケロッと忘れているのですね。ご飯も食べてない、おかずも少ない。だけどビール1本でご飯1膳分あります。お酒1合でご飯1膳分あります。そういう計算をしないと絶対に体重の管理はできません。
男性はお酒、女性は甘いもの、これが肥満の敵です。この敵を攻略できないと肥満対策はできません。*
そして運動療法ですけれども、これもなかなか難しいものですね。特に北海道の場合は、冬という条件がありますので、運動を継続することが難しいのですが、一番良い運動は歩くことです。特に急ぎ足で歩くこと。この運動は特別な機械が要らないし、自分1人でもできる、短い時間でもできる、余った時間を活用してもできます。
ではどのくらいの運動をどれだけやればいいのか。適正心拍数というのがありまして、1分間で138から年齢の半分を引いたものです。例えば、60歳なら138から30引きますから108の脈拍数。ちょっと急ぎ足で歩いている程度、走る手前くらいです。これを1日30分から60分、週に3回以上やっていただくと、かなり効果があります。肥満の予防にもなります。血圧もこれだけで下がります。糖尿病は勿論良くなります。コレステロールも中性脂肪も下がります。食事と運動、このふたつを併せるとほぼ完璧になります。
努力こそが最良の治療/どうぞ、医学の進歩も念頭に
さて、それでも血圧が下がらない方は、仕方がありません、薬を飲まざるを得ません。しかし、血圧を下げる薬や糖尿病の薬を嫌だと言う方がたくさんいます。どうしてですか。糖尿病や高血圧でいったん薬を飲み出したら、もう止められない、だからできるだけ辛抱する、どうせ飲みだしたら止められないのだから5年でも10年でも先延ばししたい、とお考えなのでしょうか。
それは間違いです。大間違いです。特に、インスリン注射だけは絶対に嫌だと言う方がたくさんいます。けれども、高血圧で薬を飲んで血圧を下げ、1年後に正常で薬を止めても血圧が上がらない方が、4人に1人はいます。糖尿病でインスリンを使って血糖を下げ、正常にする。もう少し頑張って続け、その後インスリンを止める。薬を飲まなくていい人もたくさんいます。
大事なのは、本人が努力をひとつもしなければ、それは無理だということです。運動、食事をちゃんとやっていただければ、薬を止めることができます。何もしないで薬を止める、あるいは飲まない、というのはやっぱり無理なのですね。元々病気があるわけですから、そこだけはご理解をいただきたいと思います。
結局、薬が嫌なのです。分かります。副作用がない薬なんかありません。どんな薬でも副作用があります。しかし、当然ですけど効果を期待して薬を使います。副作用が効果を上回る可能性がある場合には、そんなものは薬として売り出されません。
大事なことは、医者が、あるいは患者さんも、今は薬局でよく説明してくれますので、副作用のことを含めて薬をよく理解し、何かあったら薬を止めて相談できるようにしておくことです。100人いれば99.9人の方にメリットあるからこそ薬なのです。100人に1人、1000人に1人副作用が出るかもしれません。その場合には、早く対応すればいいわけです。嫌だからというだけでは、結局、健康を守れないことになります。*
最後になりますけれど、動脈硬化の危険因子となる生活習慣病の管理には、高血圧は食塩、肥満、運動です。糖尿病も肥満と運動です。高脂血症も脂肪制限と肥満改善と運動です。肥満には当然カロリー制限と運動です。
生活習慣病は先ほど来申しあげていますように、自分で守れる、自分で治せる病気です。しかし、努力できない方は薬を使ってください。努力はしない、薬も嫌だ、ではお話になりません。こういう医者泣かせな患者さんは非常に困ります。
薬を使っても、病気が一定程度進展してしまってなかなか難しい、そういうこともあります。例えば心筋梗塞など、胸が痛くなって病院に入ってくる。あるいはちょっと歩いたらすぐ胸が痛くなる、こういう方もおります。このような時には、我々にお任せください。
これは心臓の血管の病気です。ここで完全に詰まって、ほとんど血液が通っていません。ここで、狭窄99%です。これは狭心症の方です。この狭いところにガイドワイヤーというカテーテルを通し、ここで風船を膨らませ、そこにステントという金属のメッシュを置きます。99%狭いところをゼロまで完全に元に戻し、後で詰まらないようにステントを置いておきます。こういう治療も日常茶飯事でやっております。そうするとどうなりましょうか、もう一度ご覧ください。完全に通っています。さっきはここで詰まっておりましたが、このように完全になります。*
このように、心臓血管系の病気は脳であれ、心臓であれ、大変怖い病気です。怖い病気ですけれども、ご自分で予防ができます。病気になっても、狭窄99%になっても、コレステロールを減らし、煙草を止め、肥満を改善し、運動することで進展を抑えられます。
5年、10年経つとさらに狭いところが拡がってよくなってまいります。勿論、その間、薬を使うことも多いのですが、このように良くなる可能性があります。自分の努力で良くなる可能性がある、これが脳を含めて心臓血管系の病気の特徴です。
どうぞ努力こそが、こういった病気から身を守ることであり、また努力が数字になって表れてくる病気である、ということも十分にご理解下さい。それがどうしてもできない場合は、薬を使って、あるいは、こういう治療法も使って、身体を守ることができます。ここまで医学が進歩しているということも念頭に入れていただいて、心臓血管系、循環器系の病気を皆様の手で守っていただければ幸いと思います。ご静聴有難うございました。
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