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NO.28 |
とかち健康フェア2003
肥満と生活習慣病 -肥満を科学する-
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ひがし十勝病院(平成15年11月より"十勝の杜病院"と改称)
副院長 佐藤 篤司先生
(注)佐藤篤司先生の講演は、北海道新聞帯広支社主催、北海道心臓協会等協力で開催された「とかち健康フェア2003」の一環として2003年10月12日(日)に、とかちプラザ(帯広市西4南13)で行われました。 |
体重計に乗って「最近は2s体重が増えた」とか「最近はどうも太り気味だ」などとお悩みの方も多いと思います。また、肥満体だと血圧が上がったり、血糖が上がったりするというお話もよくお聞きしていることでしょう。では、肥満になるということは具体的にどういうことか、また、どうして肥満だと病気になるのか―こういうことについてはあまり知られていないのではないかと思います。きょうは、皆さんに肥満について詳しく勉強していただければ、と考えております。
とかちプラザ(帯広市西4南13)で講演する佐藤先生
*成人病から生活習慣病へ
まず、近年の病気の推移をみていきましょう。1960年代最初の頃は結核などの、いわゆる感染症に罹られる方が多かったのですが、抗生物質などのいい薬を使えるようになったために、そういう患者さんはどんどん減っていきました。それとは対称的に高血圧疾患、精神障害、脳血管疾患、悪性新生物(がん)、心臓病、糖尿病、肝臓病などが増えてきました。死亡順位を比較しても、戦前は肺炎、肺結核といった感染症を思わせるものが主流を占めていましたが、終戦後、これらの感染症は殆ど死亡原因になることはなくなりました。それとは別に脳血管疾患、がん、あるいは心臓病が死亡原因の主流になってきております。最近ではがんが1位、心臓病が2位、脳血管疾患が3位です。
がん、心臓病、脳血管疾患などは歳をとった人ほどなりやすい病気と考えられていた時期があったため、かつては成人病と呼ばれておりました。しかし最近になって、こういう病気は年齢とは関係なく若い人でもなってしまうことがだんだん分かり、その後、栄養の摂り過ぎやお酒の飲み過ぎ、喫煙、運動不足など、毎日の生活習慣がこれらの病気に関係していることが次第に明らかになってきました。それで、年齢以外に日常の生活が深く関係していることを広く認識してもらうため、1990年代から成人病を生活習慣病と呼び改めることになりました。
最近よく言われますが、日本人の食習慣が西欧化し、肉や脂を摂る機会が増えています。食習慣が変わってきたことにより、肥満、高血圧、脳卒中、高脂血症、糖尿病、それから大腸がん、また、いわゆる痛風と言われる高尿酸血症が増えています。それから戦後、飛行機や鉄道などの交通機関が発達し、マイカーも増えた結果、以前に比べて運動不足になる方が増え、それに伴って肥満、高脂血症、糖尿病、高血圧などが増えてきたと言われています。喫煙との関係では、がん、肺気腫(肺そのものが繊維のようにすかすかになって、呼吸が苦しくなる病気)、あるいは慢性的に気管支が炎症を起こす病気、循環器病(心筋梗塞や狭心症)が増えています。アルコールについては、飲み過ぎで肝臓病になってしまう場合があります。また、ビールの摂り過ぎで高尿酸血症になり、その結果、痛風になってしまうこともあります。
以上のように、私たちの食習慣、運動不足、たばこ、それから楽しみのひとつであるアルコールなどの度が過ぎると、このような病気になってしまうことが明らかになってきております。要するに、私たちの日常生活で、毎日何気なくやっていることが、実は少しずつ病気を引き起こしているわけです。
*早い段階での予防が肝要
皆さんが病気で一番辛い状況をあげてみます。まず、脳溢血、脳梗塞−半身麻痺になったり言葉が出なくなったり、最悪の場合は意識がなくなってお亡くなりになる方もいます。あるいは心筋梗塞−強烈に胸が苦しくなって、病院に運ばれて助かるケースもありますが、残念ながらこの病気によってもお亡くなりになることもあります。糖尿病が末期状態になると、腎臓が壊れて透析をしなければなりません。あるいは、糖尿病で目が見えなくなってしまうこともあります。このような状況になると、とても辛い症状がありますから、どなたにとっても病気として認識されます。この時期は「激痛発作期」と呼ばれています。
ただし、これらの病気はその時に初めて起きたわけではありません。こういう激しい病気を起こす前に、「疾患確立期」と呼ばれる時期があって、高血圧、高脂血症、肥満に伴うU型糖尿病などといった前段階があります。この段階では辛い症状はあまりありませんが、病院に通院する方が多くなります。
これを更に遡ってみると、「軽症病態期」と呼ばれる状況があります。皆さんが毎年受けている健康診断(健診)は、この段階で皆さんの病気を拾い上げ、早い内に治してしまおうという目的で行っております。ですから、血圧やコレステロールがちょっと高いかとか、血糖値、尿酸が高いかどうか、肥満の度合いも測られることになります。健診で引っかかって外来を訪れ、治療の対象になった場合は薬を飲んでいただき、それによって「疾患確立期」「激痛発作期」へ進展するのを予防できます。早い内に病気を抑えてしまえば、後々、悪い病気になることが予防できるわけです。
更にその前の段階があります。すなわち、塩分を摂り過ぎている時期(高血圧に深く関係すると言われます)、脂肪や肉など脂分の多い食事を摂り過ぎている時期(高脂血症に深く関係すると言われます)、あるいは食べ過ぎや運動不足が続いて肥満になりつつある時期です。また、お酒の飲み過ぎが続いていたり(尿酸が上がったり、肝臓病になる可能性が出てきます)、たばこを吸い続けている時期(肺がんなどと関係します)も同様です。明らかな病気を持たれていない方の大半は、この時期にいます。
*肥満の方の半数は病気を持っています
ここで私が問題にしたいのは肥満です。肥満は脂分の摂り過ぎや運動不足、栄養の摂り過ぎなどの状況が重なり合っての結果です。しかも肥満は糖尿病、高脂血症、動脈硬化、高血圧などいろいろな病気を引き起こす可能性を秘めています。痛風や骨粗鬆症も、実は肥満がある程度関係していることが分かっております。肥満の方は実際どれ位病気を持っているのでしょうか。統計によると、約50%強の方が病気を持っていることが分かっています。糖尿病だけもっていらっしゃる方もいれば、コレステロールが高いだけ、あるいは血圧が高いだけの方もいますし、高血圧とコレステロール血症を併せ持った方もいます。治療している方も、そうでない方もいます。治療しない状況で何年も過ぎてしまった場合、先程あげた脳梗塞、心筋梗塞などを引き続き起こす可能性が出てきます。
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