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NO.26 |
講演「生活習慣病を理解し、これを予防しましょう」
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倍々で悪化 タバコを吸うけれど糖尿病も高血圧もない人は、タバコを吸わないし糖尿病も高血圧もない人の1.7倍心筋梗塞になりやすいのです。糖尿病があると、ない人より2.3倍、高血圧があると2.6倍、2つあるいは3つ重なると10倍になります。糖尿病の患者さんは高血圧を合併していることが多いので、タバコを吸うと何もない人に比べ10倍心筋梗塞になりやすくなります。今、症状がある、ないは関係ありません。
アメリカ人に並ぶコレステロール 日本人はもともと血液中のコレステロールはそれ程高くありませんでした。昔風の日本食を食べているとコレステロールは高くなりません。今はハンバーグや牛肉も給食に出ますし、アイスクリーム、フライドチキン、フライドポテトなど脂肪の多いものを食べるようになり、日本人のコレステロールは高くなってきています。アメリカ人に比べ1960年代には低かったのに、1990年代には同じ位になっています。
日本人の男性の約1/4、女性は1/3が高コレステロール血症と言われています。特に女性は50代、60代には40%〜45%もコレステロールの高い方がいます。更年期以降、エストロゲン分泌が減り、運動をしない、太る、血圧も上がる、コレステロールも上がるということになりやすいので、症状がなくても検診を受けることが大切です。虚血性心疾患はコレステロールが高くなると多くなりますが、200を超え220以上になると、心筋梗塞などの発症頻度は非常に高くなります。中性脂肪は空腹時で150を超えるとリスクが高くなります。
糖尿病は全身の血管病 糖尿病がこの30年急増していますが、糖尿病になると、なぜ心臓血管病が増えるのでしょうか。心臓血管病としては心筋梗塞、脳血管障害、大動脈瘤。足の動脈が詰まり、指や足首を切断する患者さんが増えています。それから糖尿病性腎症、網膜症、非常に細い血管の障害でなる神経症などがあり、糖尿病は全身の血管病です。血糖をコントロールすることは大事ですが、血糖だけでなく、血圧、コレステロールと同時に腎臓の機能、心臓、脳の血管をチェックする必要があります。
糖尿病と心筋梗塞 日本には約1,370万人の糖尿病の人がいますが、戦後急増しています。一度心筋梗塞を起こした方と心筋梗塞は起こしたことはないが糖尿病がある方は、心筋梗塞を発症するリスクは同じ位といわれ、糖尿病は心筋梗塞の発症しやすい危険因子になります。透析導入の原因の第1位は慢性糸球体腎炎でしたが、数年前から糖尿病性腎症になりました。しかも糖尿病性腎症で透析導入する患者さんの生命予後、生存率が非常に低くなっています。心筋梗塞や脳卒中、目が見えない、足を切断しなければならないような合併症を持っている方が多いからです。
糖尿病が軽い内に予防することが重要です。末期腎不全で透析導入する増加率が高い地方は北海道と九州です。全体の発症率では北海道はほぼ中間ですが、最近の増加スピードは北海道が速いのではないかと警告する論文も出されています。
血糖も血圧もコントロール 糖尿病の方は血糖値が高く高血圧を合併する頻度が高いので、血糖と血圧をコントロールし、コレステロールも下げることが大事です。血糖を下げた場合に心筋梗塞をどの程度予防できるか。ヘモグロビンA1cを1%下げると18%、血圧を130以下にすると21%予防できます。脳卒中は血糖コントロールでは15%、血圧コントロールでは44%発症を予防できます。糖尿病で高血圧の方は、血糖だけでなく血圧も厳密にコントロールすることが脳卒中予防で重要です。
実際、糖尿病で高血圧の患者さんは下の血圧が低いほど心臓血管病の発症が少なく、80未満にした方が良いのです。先程130−85未満と言いましたが、近い内に日本高血圧学会のガイドラインは改定され、下の血圧は80未満になるのではないでしょうか。上は130よりも低く、下の血圧は80よりも低くすることが糖尿病の患者さんには望ましいのです。
増える10代の肥満と脂肪摂取 なぜ糖尿病が増えてきたのか。生活習慣が欧米化し肥満が増えています。体重(s)を身長(m)の2乗で割るボディーマスインディックスは22ぐらいが良く、25を超えると肥満で、血圧も血糖値も上がります。肥満が増えたことが糖尿病、高血圧、心臓血管病増加の要因です。国民栄養調査によると、昭和54年〜平成10年に全年齢層で肥満が増え、特に10代での増加が問題で、家庭、学校での食生活指導が望まれるところです。
トータルのエネルギーは、昭和54年は2,200kcal、平成10年は1,908kcalと減っているのですが、脂肪摂取の割合は増えています。トータルエネルギーで脂肪が25%を超えると摂り過ぎです。平成2年以来脂肪の摂り過ぎとなっていて、一番脂肪を摂っているのが10代以下です。この習慣を変えないと、生活習慣病も、心臓血管病も、医療費も増え、日本の医療制度がパンクしてしまいます。
良い事がない喫煙 心臓血管病のリスクにタバコも入っています。1989年〜1999年の国民栄養調査では、男性全体の平均喫煙率は50%前後、最近50%を少し割り、下回ってきました。女性は15%前後ですが、20代の喫煙率が増えています。女性は心臓血管病にならないようにホルモンがコントロールしてくれますが、更年期を迎えるとそれが全くなくなり、タバコを吸うリスクが非常に高くなります。また、妊娠時の喫煙は赤ちゃんへのマイナス面が増えることも指摘されています。
喫煙者は非喫煙者に比べ喉頭癌に32.5倍なりやすく、肺癌は4.5倍です。全ての臓器癌がタバコを吸っていると増えることが明らかです。きょうの主題である心臓血管病で亡くなる危険度は、タバコを一日に25本位吸う人は吸わない人の約2倍です。タバコを吸わなくても、職場や家庭に喫煙者がいるだけで動脈硬化が2倍増えます。喫煙者はこのことを理解し、できればタバコを止める努力をしていただきたいものです。
タバコが追い討ち骨粗鬆症 女性は更年期になると骨塩が少なくなり、骨粗鬆症になりやすいのですが、タバコを吸うと、吸わない人より約70%に骨塩量が減ります。男性も減ります。欧米の調査では、顔の皺の出来方と喫煙にも関係があり、全く吸わない人を1とすると、1年間に吸うタバコが50箱未満では皺の寄り方が2倍、50箱以上だと約5倍になります。タバコを吸うと活性酸素が増えるのが関係しているのではないかと思いますが、喫煙は美容上も問題になるということです。
タバコを吸う人は、アルツハイマー病の発症が大体1.7倍に増えるという成績もあります。愛煙家にとって耳の痛いデータばかりですが、自分の問題だけではなく、周囲の人たちにも影響することで、アメリカなどではこういうことが訴訟にもなっています。
塩分にご注意 高血圧を予防するためには、食塩は一日7g以下です。国民栄養調査の平均は12.6gですから、相当落とさなければなりません。お浸しには醤油をかけないで、小皿に醤油とレモンやお酢を混ぜ、それにちょっとつけていただく。味噌汁は薄味で一日1杯。魚も薄味に。インスタント食品には食塩がかなり含まれていますので気をつけてください。
食事と適度な運動 体重管理には食事と適度な運動です。一日30分前後、急ぎ足程度の運動をする。お酒は次のいずれか。日本酒なら1合、ワインも1合、ウイスキーはダブル1杯、ビールは大瓶1本。肝臓を休ませる意味で、週に1日は休肝日を設けることも大事です。コレステロールや脂肪がたくさん含まれているものは控え目に。脂肪はバターよりマーガリン。植物性油の方が動脈硬化を起こし難いと言われていますが、量が多くなればカロリーも増えるので、てんぷらやフライは油をできるだけ落としていただきます。そして、最後に禁煙をお忘れなく。
要は生活習慣の改善 高齢社会で元気に生活するために、寝たきりにならないために、痴呆にならないために、生活習慣を少しでも今より良い方向に改めましょう。治療中の方は主治医に遠慮しないで聞き、納得できなければセカンドオピニオン、サードオピニオンで別の先生の意見を聞く必要もあります。これは医者から言うべきことかもしれません。
きょうの話が皆さんのお役に立てば幸いです。


