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NO.26 |
市民フォーラム「願いは健やかハート」
主催:北海道心臓協会/北海道新聞社
後援:北海道看護協会/北海道薬剤師会/北海道栄養士会 協賛:武田薬品工業株式会社
約500人が参加して3月21日、札幌・道新ホールで開催された市民フォーラムは、航空会社のシステムトラブルで講師の柳田邦男氏の到着が大幅に遅れ、北大、旭川医大、札幌医大の3教授によるパネルディスカッションで急を凌ぐハプニングがありましたが、結果的には、内容豊富で大変充実した催しになりました。菊池、柳田両先生の講演および緊急パネルディスカッションのあらましを紹介します。(文責・遠藤) |
講演「生活習慣病を理解し、これを予防しましょう」
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菊池健次郎氏(旭川医科大学第一内科教授)
最近、生活習慣病が大きな問題になっており、心臓協会の重要な課題にもなっています。生活習慣病を理解し予防するのは大事で、発症してからでは大変です。きょうは予防を目指すためのお話です。
殆どが予防可能 生活習慣病は日常の生活習慣によって発症し、予防もできる病気です。心臓血管病として狭心症、心筋梗塞、心不全。脳出血、脳梗塞といった脳血管障害。糖尿病、腎不全の前段階としてのたんぱく尿。特にアルブミン尿が出る場合には要注意です。生活習慣の変化によって動脈硬化性の血管病が起きます。心臓血管病の危険因子として高血圧、喫煙、血液中のコレステロールが高くなること、糖尿病がありますが、これらは予防可能です。高齢社会でこういう病気にならないようにすることが非常に重要です。注意したいのは、おじいちゃん、おばあちゃん、叔父さん、叔母さんらに若い時に心臓血管病を発症した方がいる場合。遺伝的な体質が受け継がれる可能性があるので、兆候がなくても定期健診を受けて早期に対応すべきです。
高血圧は3,500万人 厚生労働省の調査では、医療機関を訪れる患者さんで一番多いのは高血圧の700万人ですが、実際には、40歳以上の高血圧は3,500万人以上だろうと言われています。高血圧に気付いていない人が大多数で、高血圧と分かっていても治療していない人が約半分、治療はしているが適切な血圧レベルまでコントロールしている患者さんは更にその半分位で、700万人の5倍はいると言われています。次に多いのは糖尿病で、戦後約30年間に急増しています。遺伝子の問題ではなく、生活が豊かになり、おいしいものが毎日食べられる、歩いて10分位の所へも車で行くなど運動をあまりしない等々で糖尿病が増えています。随分減りましたが脳卒中は3番目。次が癌。高脂血症でコレステロールなどが高い病気、狭心症、心筋梗塞。上位7つのうち生活習慣病で心臓血管系に関係するのが5つです。
虚血性心疾患は増える傾向 日本はアメリカ、ヨーロッパと違い脳血管障害が最も多く、脳梗塞、脳卒中は男女共アメリカに比べ4〜5倍多く、狭心症、心筋梗塞といった虚血性心疾患は約1/4と少なくなっています。昭和59年〜平成8年の推移を見ると、脳出血は随分減って、逆に虚血性心疾患が増える傾向にあります。もともと日本人は脳出血が多く脳梗塞が少なかったのですが、生活習慣の変化で脳出血は減って脳梗塞が増えています。脳梗塞は動脈硬化によって生ずる脳血管障害です。
140−90がポイント 脳血管障害の一番大きな危険因子が高血圧です。福岡県久山町での疫学調査の結果では、血圧値が高くなればなるほど男女共脳梗塞の発症頻度が高くなります。男性も女性も上の血圧が140、下が90を超えると発症頻度が高くなると指摘されています。140−90、この両方を満たすか、いずれか一方が該当するのが高血圧です。厳密には何回か測った血圧がコンスタントにこれを超えている場合ですが…。脳梗塞でも、これまで日本人に多いと言われていたラクナ梗塞だけを見ると、女性の場合は上の血圧が130を超えると頻度が増し、 140−90よりもう少し低いところから注意が必要であると考えられます。
北海道壮瞥町と端野町の疫学調査では、心臓血管病で亡くなる患者さんの死亡率が高くなる上の血圧値は、糖尿病の傾向がない方は140、ある方は130で、心臓血管病の発症を予防するためには糖尿病の傾向のある方は、ない方より低いレベルに血圧をコントロールしなければなりません。
女性は更年期以降になると女性ホルモンのエストロゲンが減ってきます。こういう状況で高血圧があってコレステロールが高めの方は、血管の一番内側にある内皮細胞の活性酸素が増えて血管内細胞を障害し、動脈硬化が促進されます。
脳卒中予防に血圧管理 脳卒中には高血圧が重要ですが、どの位の血圧値だと脳卒中が一番少ないか。上の血圧が110〜119、これより高くても低く成り過ぎても脳卒中が起こる可能性があり、特に、高くなるとその危険が増します。血圧を下げて脳卒中、心臓血管病は予防できますが、一番発症を抑制できるのは脳卒中です。心筋梗塞も30%位抑えることはできるし、心不全も抑えることはできますが脳卒中は同じだけ血圧を下げて42%も減らせます。日本人に多い脳卒中を予防するためには血圧管理が重要です。
心臓病で不整脈 生活習慣によって増えているのがアテローム血栓症の脳梗塞で、ラクナ梗塞のような細い血管でなく、もう少し太い血管が動脈硬化によって内部が狭くなり、血液や酸素が脳に行き難くなり、末梢の脳の表面に近い神経細胞が障害される病気です。心臓病で不整脈があると、特に、心房細動があると心臓の中に血液の塊ができやすくなり、それが何かの拍子に飛んで行って脳の血管にひっかかることがあります。太い血管にひっかかることが多く、広範な脳の梗塞を突然起こします。心臓病で不整脈がある患者さんは心源性脳塞栓症にも注意が必要です。
痴呆予防と血圧 65歳以上で寝たきりになる原因を厚生労働省が調べた結果(平成10年、11年調査)、全国に31万人いる寝たきりの方で一番多いのが脳血管障害で約40%、心臓病が5%、痴呆・知的障害などが約10%でした。痴呆の予防として、高血圧の60歳以上の患者さんに血圧降下薬を使った場合と使わなかった場合で、アルツハイマー型痴呆や血管性痴呆も含め、痴呆の発症頻度を半減できました。高血圧の方は痴呆予防のためにも血圧コントロールが重要です。
だんだん下がる正常血圧値 血圧はどうなっているのでしょうか。血圧は測る度に違います。ストレスがかかると上がり、安静時、夜寝ている時は下がります。現時点で最も望ましい血圧値は上が120未満、下が80未満と言われています。高血圧は上が140以上、下が90以上。両方またはどちらか一方を満たせば高血圧です。ただし、1回の測定ではなく、医療機関や保健師さんに何回か測ってもらった血圧が何時もこういう値を示した場合が高血圧です。正常血圧値は段々下がってきており、今は総ての年齢で上が130未満、下が85未満です。心臓血管病の発症する頻度が減ることから、このように決めました。
コントロールの目標値 過去に脳血管障害に罹った患者さんの再発を予防し、元気でリハビリテーションを続けて社会生活を寝たきりにならないで過ごすための血圧はどの程度がいいのか。今のところ130−80位までゆっくり下げ、このレベルを保っていると脳卒中の再発が減り、約30%予防できることが明らかになっています。高血圧の患者さんで合併症がない40歳未満の方、年齢を問わず糖尿病をもっている方は130−85未満にコントロールすることが必要です。日本高血圧学会でガイドラインを出しています。
60代、70代で合併症がない方は上の血圧を140〜150位までコントロールし、不都合がなければ最終的には140−90よりも低い所にゆっくり下げていくのが良いと考えられています。
血圧を24時間計測すると、睡眠時は夜間でも昼でも下がり、目が覚めると上がります。朝方、目が覚める頃に血圧は一番高く、脳卒中や心筋梗塞は朝の発症が多いことが明らかになっています。症状の有無は問題外 狭心症や心筋梗塞の方は、狭心痛というぎゅっと締めつけられるような症状が出ることがあるし、ある程度の年齢になった方、糖尿病のある方は、狭心痛が全くないこともあります。こういう病気の方は心電図を定期的に診る必要があります。血管を縦に切ってみると、血管内皮細胞が動脈硬化予防のために血液がサラサラと流れるようにしますが、動脈硬化が進むとコレステロールなど脂肪をたくさん含んだ組織が増えてきます。しかし、まだ内腔が広いと症状は全く出てきません。更に進んで脂肪の固まりが増えて内膜や内皮細胞に亀裂が出ても血液は流れているのでまだ症状は出ません。血管の内腔が正常の1/4にならないと症状は出ないと言われています。ですから、症状がないから大丈夫、は通用しません。この亀裂から脂肪を含んだ細胞が血管の中に突出すると血液が固まって急に血管が閉塞してしまいます。
狭心症や心筋梗塞の方で、最初の狭心痛で心筋梗塞になるのが50%、狭心症の症状が何回かあって心筋梗塞になるのが50%です。症状がないのは安心材料でありません。きちんと検査を受ける必要があります。心筋梗塞になって血管が詰まると心臓の筋肉が死んでしまい、その範囲が広くなるとポンプ作用が障害され心不全になります。不整脈も出て突然死という方もおり、心筋梗塞は恐ろしい病気です。


