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NO.25 |
「退職後の健康管理について」
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小樽市保健所・主幹 秋野 恵美子
(注)この講演は平成14年9月3日、倶知安町ホテル第一会館で行われました。主催、北海道教育委員会・公立学校共済組合北海道支部、主管、北海道教育庁後志教育局で開催された「平成14年度北海道公立学校教職員等退職準備セミナー・年金説明会」の一環として北海道心臓協会へ講師派遣の要請があり、秋野恵美子先生に引き受けていただきました。秋野先生は北海道大学医学部を卒業後、同大附属病院、余市協会病院、斗南病院に内科医として勤務、平成7年4月小樽市保健所に勤務、現在に至っています。 |
私は専門が循環器内科です。これまで仕事をしていて一番気になったのは、働き盛りの男性の方々が心筋梗塞で入院されることです。心臓病の中でも心筋梗塞は一番重い病気ですし、ご本人も大変苦しみます。その方々と診療でお付き合いをしていて気がついたことは、心筋梗塞になる前の段階である狭心症という病気についての知識がないということです。
見分けるポイントは二つ
<狭心症のこと>
狭心症のことが少しでもわかっていればこうはならなかったのに、という症例がいくつかあります。40代のサラリーマンが心筋梗塞で入院しました。狭心症の症状があったのですが、それが病気だとは知らなかったということでした。とても残念なことです。狭心症は心臓の動脈、つまり冠動脈の硬化に起因する病気です。血管の内側にアテロームというコレステロールが入ったものが溜まっていくのが動脈硬化で、血液の流路が段々狭くなり心臓に必要な血液が送れなくなるのが狭心症、最後の最後に、血栓という血液の固まりで塞がると心筋梗塞です。ですから、心筋梗塞になる前の段階は狭心症であったわけです。
狭心症の症状は多様です。胸の骨の所が苦しくなる方が多いのですが、心臓も肺もない顎や喉が締めつけられる方、肩が張る感じの方、左の腕という方、極端な例では右胸が痛いと入院し心筋梗塞だった方もいます。ですから、どこが痛くなるのか、どういうふうになるのかは、全く当てになりません。当てになるのは二つ。一つは運動時になる、二つ目は持続時間が2〜5分間であることです。先程のサラリーマンは除雪していて心筋梗塞になり入院しました。同じ箇所がもう少し軽く2〜5分痛くなったことはないかと訊けば、前年の除雪時にもそうでした。車の運転をするので運動は雪かき位、あとは痛くならないから病院に行く気にもならなかったそうです。全然運動しないと、狭心症が分からないまま血管が詰まってしまい、気がついたら心筋梗塞という方もいるわけです。
知識がないと、自分の命を救えません。狭心症については、資料としてお配りした北海道心臓協会のブックレット「願いはすこやかハート」にも書いてあります。お読みください。
高血圧は自分で治す、もある時代
2.血圧の話
狭心症よりポピュラーなのが高血圧でしょう。高血圧の定義をご存知ですか。140−90。ここから高血圧。ただし「安静時で」と条件がつき、症状の有無は関係なしです。安静時の要件の一つは緊張していないこと、もう一つは体を動かしていないこと。健康診断はこれが当てはまるでしょうか。白衣の医者や看護師の前で緊張しない方はまずいないでしょう。また、血圧測定だ、採血だと走り回っていては安静とはいえません。健診の血圧で高血圧の判断はしません。あくまでも参考値です。病院で計る血圧も参考値です。血圧は家でゆったりリラックスして計る、これが本来の計り方です。これから退職される方も退職前の方も、ぜひご家庭用に血圧計をお買い求めください。
高血圧には薬だ、そして一生だと決めつける方が多いのですが、これは古い考え方で、今は、高血圧は自分で治す、もある時代です。薬を使わずに血圧を下げる方法は@運動A減塩(食事療法)B減量Cアルコール(適量)Dストレス対策、の5つです。非薬物的降圧療法といいますが、血圧正常な方がすると血圧は下がり過ぎるでしょうか?イイエ!低血圧の方はもっと下がりますか?イイエ!適性血圧に戻る方もいます。
「高血圧の人は運動をしていいのか」と疑問をもたれるかもしれません。高血圧であれ正常血圧であれ、運動をしたら血圧は上がります。しかし、140−90位の軽い方でしたら、200までは上がらないで安全に運動ができます。ただ、その一方で血圧が安静時でもとても高くて例えば180にもなっている方が、知識もなく「高血圧には運動だ」と取り組むのは危険です。重症な方はまず薬で適正値まで下げ、それから運動をするようにしましょう。血圧が高くない方も、重症で薬を飲んでいる方も運動はいいことです。運動を始めて2〜3ヶ月経つと血圧は下がってきます。高血圧のための運動とは、軽い運動を毎日続けることです。くれぐれも"過ぎたるは…"になりませぬように!
週休2日のお勧め
3.適度なアルコール
適度なアルコールとはどれくらいでしょう。適量は人によります。肝臓のアルコール代謝能力が違うからです。健診項目にアルコール適量が分かるものがあります。γ−GTP(肝臓の三機能の一つ)が正常ならそのまま続けていいし、60超ならダメです。一番いいのは毎日飲む量を減らすことですが難しいでしょう。お勧めは肝臓を休める日、休肝日です。5日間飲んで2日間休むと、5日間痛めつけた肝臓が2日間で回復します。このようにメリハリをつければ、毎日の量が減らなくてもγ−GTPを正常化できます。
休肝日を一日も取れないとなると、健康どころではなくアルコール嗜癖の問題になってきます。健診の採血もお酒の解禁期間中でなく、休肝日後に行って下さい。これは決してデータ捏造ではなく、本来の健康な肝臓の状態を評価することになるわけですから。
よく眠ることとセットで考えたい
4.食事の事
食事療法にもいろいろありますが、共通する事が多いのがカロリーを落とすことです。一番問題はおかずです。御飯を減らすと空腹感があり、気がつくとおかずをばくばく食べていることがあり、その方が有害です。
カロリーの落とし方には二つポイントがあります。一つは揚げ物を食べない、夕食に揚げ物は控えること。昼は食事療法などと堅苦しいことはいわず好きにとり、夕食にカロリーを落とすことが大事です。なぜか。体の中でいろいろな物質が作られたり壊されたりする現象、つまり代謝は眠っている間におきます。痩せたい方は眠る前にはカロリーを落とし、腹8分目で眠る。健康を維持するには、しっかり眠らなければいけません。食事だけがんばってもダメなのです。眠る前の夕食はぜひ軽いものにしてください。でも決して抜かないで、例えば豆腐、野菜、魚など、肉も腿肉や鶏肉などを使うようにしましょう。これでかなりカロリーは落ちます。こうすると翌朝、お腹がぺこぺこでおいしく御飯がいただけ、いいスタートになります。これが二番目のポイント、朝食はしっかりです。


