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NO.23 |
「退職後の健康管理について」
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小樽市保健所・主幹 秋野 恵美子
(注)この講演は平成14年9月3日(火)、倶知安町ホテル第一会館で行われたものです。主催、北海道教育委員会・公立学校共済組合北海道支部、主管、北海道教育庁後志教育局で開催された「平成14年度北海道公立学校教職員等退職準備セミナー・年金説明会」の一環として、北海道心臓協会へ講師派遣の要請があり、小樽市保健所主幹・秋野恵美子医師にお引き受けいただきました。 |
秋野恵美子先生は北海道大学医学部を卒業後、北海道大学医学部附属病院での勤務を皮切りに、余市協会病院内科医、斗南病院内科医として勤務された後、平成7年4月から小樽市保健所に勤務され現在に至っています。秋野先生はこの様に後志に大変ゆかりの深い方ですので会場の皆様のお役に立つ話をしていただけるのではないかと思います。
1.心臓病の話
皆様、ご紹介いただきました、小樽保健所の秋野でございます。よろしくお願い致します。きょうは「退職後の健康管理について」お話させていただきます。
今、紹介いただきましたように、余市協会病院で長い間仕事をしておりました。専門が循環器内科ですので、心臓のことでいろいろ仕事をしていまして、その中で私が1番気になったのは、働き盛りの男性の方々が心筋梗塞で入院されることです。心臓病の中でも心筋梗塞は1番重い病気ですし、ご本人も大変苦しみます。深刻な顔で来られます。その方々と診療でお付き合いをしていて気がついたことは、狭心症という病気の知識がないということです。
見分けるポイントは2つ、(1)発症は労作時に(2)持続時間は2〜5分程度
<狭心症のこと>
この病気のことが少しでもわかっていれば、こうはならなかったのに、という症例がいくつかあります。
40代のサラリ−マンの例です。心筋梗塞で入院しました。それまでの経過を聞いたところ、狭心症の症状があったが、それが病気だとは知らなかったということでした。当時それが病気だとわかっても、病院に行く気にもならなかったかもしれないともいう。とても残念なことです。
狭心症という病気は動脈硬化の病気です。心臓の動脈、つまり冠動脈が硬化することに起因する病気です。血管はパイプのようなものですが、その内側にアテロームというコレステロ−ルがいっぱい入ったものが溜まっていくのが動脈硬化です。血液の流れるところがだんだん狭くなり、心臓に必要な血液が送れなくなるのが狭心症です。最後の最後に、血栓という血液の固まったもので蓋をしてしまうと心筋梗塞になるのです。ですから、心筋梗塞になる前の段階は狭心症であったわけです。
狭心症の症状は多様で、とても一口では言えません。でも、2つだけポイントがあります。皆さんが知りたいのはどういうふうに痛くなるのかとか、どこが痛くなるのだろうか、ということだと思いますが、それが実にさまざまなのです。私が診た患者さんでは、胸の骨の所が苦しくなったという方が多いのですが、心臓も肺もない顎や喉が締めつけられる方、後の肩が張っている感じだという方、左の腕という方、極端なのは右の腕が痛いといって入院されて心筋梗塞だった方もいます。ですから、どこが痛くなるのか、どういうふうになるのかというのは、全く当てになりません。
当てになるのは2つ。1つ目は、運動をしている時、つまり労作時になること。2つ目は、持続時間がそんなに長くなく、2〜5分間であること。この2つがポイントです。
先程のサラリ−マンの例を言うと、真冬に除雪をしていて心筋梗塞になり、入院しました。同じ箇所がもう少し軽く、2〜5分の感覚で痛くなったことはないかと訊けば、前の年の除雪時にもなったという。車の運転をするので、運動と呼べるものは雪かき位で、あとは全然ないから病院に行く気にもなりませんでした、というのが彼の答えです。もし、皆さんも全然運動をしていないと、発作に気づかず、狭心症の状態がわからないままに経過し、血管が詰まってしまい、気がついたら心筋梗塞という方もいるわけです。
知識を得ておかないと、自分の命を助けられません。狭心症については、資料としてお配りした北海道心臓協会のブックレット「願いはすこやかハ−ト」にも書いてあります。お読みください。
高血圧は自分で治す、もある時代
2.血圧の話
狭心症よりもっとポピュラ−なのが高血圧でしょう。この高血圧1つをとっても、皆さんの知識は偏っていると思います。高血圧の定義をご存知ですか。140−90。ここから高血圧。ただし、「安静時で」という条件がついています。安静時の血圧で140−90になったら高血圧といいます。症状があろうがなかろうが関係なしです。週休2日のお勧めよく血圧の話になると、「血圧の上がったのくらい自分でわかるよ」という、"プロ"の患者さんがいて大変困るのですが、そういう人の言うことは絶対信じてはダメですね。とにかく、高血圧は症状がありません。140−90と言ったら、会場に不安な顔が見うけられますが、これより高い方もいらっしゃるのではないですか。自分の胸に手を当てて、症状があるかどうか考えてみてください。ないと思います。血圧が上がっても症状は全然ありません。自分で気がつくものではありません。
安静時の要件は2つです。1つは、緊張していないこと。もう1つは体を動かしていないこと。リラックスして体を安静にしている状態、これを安静時血圧といいます。健康診断を受ける時、これに該当していますか。ほとんどの方がしていないでしょう。白衣を着ている医者や看護師の前で緊張しない方は、まずいないと思います。また、血圧測定だ、採血だと走り回っているような状態は、とても安静時とはいえません。健診時の血圧をもって高血圧の判断にはしません。あくまでも参考値です。もちろん病院で計る血圧も参考値にすぎません。自分の血圧は、家でゆったりとリラックスして計る。これが本来の血圧の計りかたです。これから退職される方、退職前の方も、ぜひご家庭に血圧計をお買い求めいただきたいと思います。
たまたま緊張して上がった血圧は問題にしません。これも結構誤解されていまして、たまたま高いのがあると、このまますぐ何とかなるのではないかと思われる方がいますが、こういうのを問題にしているのではなくて、あくまでも安静でリラックスしている状態の血圧がいくつであるかというのが基本になります。
高血圧というとすべて薬だ、が常識になって困っているのですが、これは古い考え方です。今は、高血圧は自分で治す、もある時代です。薬を使わずに血圧を下げる方法をまとめると、(1) 運動(2) 減塩(食事療法)(3) 減量(4) アルコ−ル(適量)(5) ストレス対策、の5項目になります。これを、非薬物的降圧療法といいます。血圧が正常な方がこれをやると、血圧は下がり過ぎるでしょうか?イイエ!低血圧の方はもっと下がりますか?イイエ!適性血圧に戻る方もいます。ということは、皆やっていいということです。
こういうお話をすると、あるいは疑問をもたれる方がいらっしゃるかもしれませんね。高血圧は運動をしていいのでしょうか。先程、血圧を計るには安静でなければならないと言いました。運動をしたら血圧は上がります。高血圧であろうが正常血圧であろうが、運動をしたら血圧は上がります。しかし、高々140−90位の軽い方でしたら、運動しても200までは上がらないで、安全に運動ができます。同じ高血圧でも、180にもなっているような方が、知識をもたないで、高血圧には運動だといって運動をすると危険です。高血圧の重症な方は、まず、薬で適正な値まで下げ、それから運動をするようにしましょう。
血圧が高くない方も、重症で薬を飲んでいる方も、運動はやっていいことになっています。運動を始めて2〜3か月経つと、血圧は下がってきます。
3.適度のアルコ−ル
適度なアルコ−ルとはどれくらいの量をいうのでしょうか。適量というのは1人1人違います。肝臓のアルコ−ル代謝能力が違うからです。
検診項目の中に皆様のアルコ−ル適量を教えてくれる項目があります。γ−GTP(肝臓機能の3つのうちの1つ)が正常であればそのまま続けていい。これが60を超えている方はダメです。1番いいのは、毎日飲む量を減らせばいいのですが、なかなか難しいと思います。そこで、肝臓を休める日、「休肝日」を設けてみてはいかがでしょうか。例えば、5日間飲んで2日間休むというふうにすると、5日間痛めつけた肝臓が2日間で回復してくれる。このようにメリハリをつけてやれば、毎日の量が減らなくても、γ−GTPを正常化することができます。
「休肝日」を設けるのが1番現実的な方法です。もし、「休肝日」を1日も取れないということになると、健康どころではなく、アルコ−ル中毒の問題になります。健診を受ける時も、お酒の解禁期間中に採血に行かないで、2日間の「休肝日」の後で採血に行って下さい。これは決してデータ捏造ではなく、本来の健康な肝臓の状態を評価することになるわけです。
よく眠ることとセットで考えたい
4.食事の事
いろいろな病気、どれにでもあてはまる食事療法は、カロリ−を落とすことです。自分の摂っているカロリ−を減らせば、万病に効きます。今、ご自分の摂っているカロリ−は20代と比べて減りましたか?20代に比べて、だんだん食事の量が減ってきて正常なのです。20代で確立した食事の量をそのまま続けていると、中年太りになってしまいます。
カロリ−は自分のイメージより少し落とすのがいいでしょう。1番問題なのはおかずです。御飯を減らしたりすると空腹感があるので、はっと気が付くとおかずをばくばく食べているというようなことがあり、そちらの方が有害です。
カロリ−の落とし方には2つポイントがあります。1つは、揚げ物を食べない、夕食に揚げ物は控えることです。昼食は食事療法などと堅苦しいことはいわないで、好きにとって、夕食にカロリ−を落とすことが大事です。なぜかといいますと、体の中でいろいろな物質が作られたり壊されたりする現象、つまり代謝は眠っている間におきます。痩せたい方は、眠る前にはカロリ−を落として、腹8分目で眠る。健康を維持するためには、眠るということをしっかりしなければいけません。食事だけ頑張ってもダメなのです。眠る前の夕食はぜひ軽いものにしてください。でも決して抜かないで、例えば、豆腐、野菜、魚など、肉も、腿肉や鶏肉などを使うようにしましょう。これでかなりカロリ−数は落ちます。
こういう軽い食事にすると翌日の朝、おなかがぺこぺこで、とってもおいしく朝御飯がいただけて、いいスタ−トになります。これが2番目のポイント、朝食はたっぷりです。

