![]() |
No.35 |
高齢者の体と心〜元気に老(ふ)けたい〜 (6/6)
とかち健康フェア2004の講演から(平成16年11月21日・帯広市とかちプラザ)
老年度を用いながら治療を進めた経験について
評価例を紹介します。老人施設に入所していた82歳の女性が発熱、食欲不振が続いたため当院に入院しました。点滴などでしだいに食欲が回復し、普通の経過だとこの時点で退院ですが、この方は入院してから食欲が回復するまで約1ヶ月かかり、その間ベッドの上で過ごすことが多かったのでほぼ寝たきりに近い状態になりました。入院1ヶ月の時点でお家の方、老人施設の職員に来てもらい、医師、看護師、ケースワーカーを交えて患者さんの今後について話し合いをしました。その席で分かったのは、入院前、患者さんは歩行器を使って歩いていたので、老人施設に戻るためにはそこまで回復する必要があることでした。寝たきりの状態では再入所できません、と老人施設の方から言われました。患者さん自身は、退院してもとの施設で生活をしたいという意志を持っていたので、何とか歩けるようになってもらいたいということで、リハビリ室の職員とともに一生懸命リハビリに励んでもらいました。
この患者さんの老年度は入院1ヵ月後の時点で、日常生活度の評価は100点満点の15点で、ほとんど寝たきり、認知度が14点と中等度の痴呆を認め、うつ状態の評価では11点と抑うつ状態でした(図8)。こういった元気のない状態でしたが、ここで退院のための目標をはっきりさせてリハビリに励んでもらったところ、2ヶ月後には日常生活度が45点まで上がりました。患者さんに目標ができ、モチベーションが生まれ、意欲が出てきたせいではないかと思います。この時点で老人施設の方に来ていただいてもう一回評価していただいたところ、老人施設の再入所が決定しました。これは患者さんにとっても我々にとっても嬉しいことで、患者さんと一緒に喜びました。さらに、実際入所するまで2週間ちょっとありましたが、その間に患者さんに頑張っていただいて日常生活度が65点まで上がることができました。これは本当にすごいことだなと思います。
もうひとつ注目してほしいのは認知度です。認知度は入院1か月目では認知度が14点だったのが20点になりました。22点以下になると痴呆を考えなければいけないのですが、この方は痴呆の基準である22点に非常に近いところまで認知度も回復しています。要するに、退院の目標ができることによって、患者さんの中で日常生活度や認知度にも変化が出たということです。我々はこの患者さんのケアをさせていただいたことで非常にいい勉強をさせていただいたと思います。この方の場合は、病気と老年度は表裏一体である、病気が治っても老年度が下がってしまっては患者さんは決して退院できない、老年度を保ちながら病気の治療をすることが大事である、そのためにはリハビリ、デイルームでの談笑、あるいは体を動かせる能力に応じて自分の身の回りのことをできるだけ自分でやってもらうことが必要になってくる、ということを改めて認識させていただきました。
元気に老(ふ)けるには。
最後になりますが、今までのお話で老年期にはどういったことを心がけなければならないかが見えてきたと思います。まずはできるだけ身体機能を落とさないように心がけることです。身体機能の重要な役割を担う筋肉もそうですし、今回あまりお話しませんでしたが骨も大切です。それから痴呆で代表されるように、頭の働きもだんだんと落ちてきます。それを保つ可能性として先ほど示したのは継続する趣味を持つこと、人間関係を保って人と接する機会を失わないようにすることです。趣味は定年退職してから始めようと思ってもなかなか出来ません。早いうちから始める、あるいは若い時からの趣味があったらそれを絶やさない努力をする必要があります。
元気に老けるには、成年期には病気にならない、生活習慣病にならないことが大きな目標です。老年の方はこれに加えて、普通に生活する力を保つことが非常に大切です。成年期の方が当たり前にやっていることが、高齢になると段々困難になってきます。普通に生活する力を保つために、先ほど言った筋肉、あるいは頭と心の機能が低下するのを防ぐことが必要になります。日常生活動作は筋肉とか骨の働きが関係します。認知機能(頭の働き)、あるいはやる気(心の働き)(図9)、こういった三つの要素があってそれがバランスよく保てることによって元気に老け続けることができるのだ、ということを今日は皆さんに理解していただきたいと思います。
参考図書
- 「老年病のとらえ方」大内慰義編集 文光堂
- 日本医師会雑誌 第122巻第13号 小特集「高齢者の転倒・骨折」
- 「痴呆を生きるということ」小澤勲著 岩波新書
- 「高齢者総合的機能評価ガイドライン」鳥羽研二監修 厚生科学研究所
- 日本医師会雑誌 第127巻第11号 小特集「老年症候群と高齢者に対する総合的機能評価」
![]() |
