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No56 |
心臓病予防の肝腎かなめは腎臓にあり
〜心臓病と腎臓病の深いつながり〜
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三浦 哲嗣 氏
札幌医科大学 医学部 内科学第二講座 教授
皆さん、こんにちは。
それでは、今日は、約40分ほどになりますが、心臓病と腎臓病の兼ね合いについてお話ししたいと思います。
タイトルにもしましたが、肝腎かなめの意味は、辞書を引きますと、実は「かんじん」の「じん」が心臓であったり腎臓であったりしますけれども、肝臓や心臓や腎臓は人体に欠くことができない最も重要なものです。
ここで心臓と腎臓を挙げておりますが、これまでは、高血圧があると心臓に負荷が加わって心臓の病気を起こすとか、血圧が高いと腎臓病になるとか、それぞれ別々に考えられていました。しかし、どうもそうではないということがわかってきました。そういったお話をしたいと思います。
その前に、まず、北海道心臓協会の目的は、先ほど伊藤理事長からもありましたが、心臓病や血管病を減らすことにございます。では、現在、心臓病、血管病というのはどういう重要性があるかということを考えてみたいと思います。
これは、平成22年度の厚生労働省から出た成績ですが(図1)、どの病気によってどれぐらいの方が亡くなったかというのではなくて、現在の日本における病気の頻度であるとか治療の状況から考えると、どういった病気によって亡くなる確率があるかという一つの予想であります。
そうしますと、65歳の男性の場合は、悪性新生物、つまりがんでなくなる可能性が約30%、心臓病が14.8%で、脳卒中が10%、ですから、心臓や血管の病気で大体25%、4分の1ぐらいということになります。
ところが、75歳になりますと、がんと心臓や血管の病気が大体同じぐらいになります。それから年齢が進むと、がんの比率が下がって、血管の比率が上がってきます。ですから、男性の場合は65歳を超えたあたりから、がんよりも心臓や血管の病気の方が死因として重要になってくることを示しています。
女性になりますと、実は、もう65歳の時点からがんの比率は20%ぐらいで、心臓と脳卒中を合わせると30%ぐらいですから、女性の場合は、65歳で既にがんよりも心臓や血管の病気の方が死因としては大きな意味を持っていまして、これを何とか減らそうというのが北海道心臓協会を含めたこうした団体の目的であります。
ここで、まず、体の循環ということを振り返ってみたいと思います。心臓というのは血液を送り出すポンプで、収縮をして拡張をします。心臓が収縮をすると、血液が心臓から血管の方に流れていきます。そして、動脈血が体じゅうをめぐり、最後は右心室に戻ってくるというのが拡張のときで、戻ってきた血液、静脈血は肺できれいにされてまた全身に回るという仕組みになっています。収縮のとき、心臓は頑張らなければいけませんから、高血圧があると心臓に多大な負荷が加わるということはご理解いただけると思います。
そこで、血圧というものがどのように調節されているか。当然、心臓がポンプで血管は管ですから、この二つの機能によって血圧は決められております。実は、血圧をなるべく一定に保とうという働きと、もう一つは、必要なときに血液をたくさん流そうという二つの役割を循環器系が担っておりますけれども、例えば、1拍1拍、毎分毎分といったような細かい調節は神経系が非常に大きな役割を持っています。緊張したり、興奮したり、運動したりというときには、神経が心臓や血管に一生懸命シグナルを送って血圧を調節します。
ところが、何日とか1週間、2週間、あるいは年単位といったような長期的な調節には、腎臓が一番大事な役割をしています。腎臓もホルモンを出しますし、いろいろな種類のホルモンは腎臓に影響を与えまして、お互いにつながりがあるわけです。このように、腎臓というのは、血圧を決めるのに非常に大きな役割を担っています。
先ほどの脳卒中、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症が起こる原因は、皆さん、ご存じの動脈硬化であります。動脈硬化というと、動脈が硬くなる。硬くなって何が不都合かというと、これは、簡単に言えば動脈の働きが低下する、悪くなる。
では、動脈の働きは何だろうかと考えますと、まず血液を流す管だということがあります。血液を流さなければいけませんので、血管のなかで血が固まっては困ります。
それから、血圧の変動をなるべく小さくすることが動脈の役割です。ところが、動脈硬化になるとこういったことができなくなります。動脈硬化が進みますと中が狭くなって血液が流れにくくなりますし、血管の中にしょっちゅう血の塊ができるような非常に不都合なことが起こってきます。
こういったことから、動脈硬化というのは心臓血管病の原因として非常に重要になっています。
脳の血管が詰まると脳卒中になりますし、心臓の血管が詰まってしまえば心筋梗塞、そのほかにも、先ほど授賞式で研究テーマになっていました大動脈瘤であるとか、足の血管の病気であります閉塞性動脈硬化症といったように、動脈硬化ではその動脈硬化が起こる場所によってそれぞれ異なった病気があらわれます。
しかし、心臓だけに動脈硬化が起きて脳に動脈硬化が起きないということはまずありませんので、全身の病気ですけれども、どこに一番強くその表現が出るかという違いによるわけです。
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