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No47 |
あなたの理解が“良いお医者さん”を作ります
〜上手な健康管理と賢い病院のかかり方〜
(1/6)
長谷部 直幸氏
本日は本当に大勢の方々にお集まりいただきありがとうございます。今日は少し変わったタイトルをつけさせていただきました。内容は、今お医者さんが本当に困っているということを皆さんに理解していただきたいということでございます。例年は、何がしか皆さんのためになる健康のお話などをさせていただくのですが、今日は私が話をして私のためになるお話をさせていただこうと思っております。
昨年、麻生総理大臣が、お医者さんには社会的な常識を欠く人が多いと発言されて、お医者さんの反感を買ったわけです。今日のお話、実は私の外来の患者さんがくださった雑誌の記事がもとになっています。「医療破壊」という特集ですが、「消える病院、命を落とす医師、さまよう患者と家族、外科医の7割が当直明けに手術、全国の病院7割が赤字経営」と書いてあります。これを見ておりますと、ひょっとすると麻生さんはやっぱり正しくて、我々医者は本当に常識が足りないのかもしれないと実は思いました。
中を見てみますと大変ショッキングです。疲れ切り廊下にへたり込んだお医者さんの写真が載っていますが、「医師酷使社会の恐るべき現実、医療の担い手は疲労困ぱい」と書かれています。「勤務医の2割が過労死ラインで、労基法違反はなぜ問われない」「医師、もう殺さないで」という奥様の記事などが載っており、この記事を読んだ私の患者さんに、「こんなにひどいとは知らなかった。先生方は何故黙っているのですか?」と問われました。何故黙っているのだろう。酷い現実は私十分よく知っておりますが、何故黙っているかと言われて、その理由は多分ここにあると思いました。
「医は仁術なり」は皆さんご承知のように医療倫理の標語です。医療・医学は人命を救う博愛の道ですので、私ども医師は、「つらい」ですとか「疲れた」、「楽をしたい」、「休みが欲しい」まして「お金が欲しい」などと言ってはいけないものだと育ちました。昔は一部の悪いお医者さんがお金もうけに走って、医は算術と揶揄されたこともあります。しかし大多数のお医者さんは「つらい」などと言ってはいけないのだと言い聞かせながら、今に至っているのだと思います。
医師は患者さんを治すことができます。患者さんを癒やすことで私たち医師自身が癒やされる。やりがい・使命感と強い意志で、身を粉にして私生活を医療にささげるがごとく、土日も昼も夜もなく、患者さんのためにと頑張る。それが「医は仁術」と思いますが、それを頑張れない現実が今あるということです。お医者さんが足りなくなり、一人のお医者さんにかかる労働条件が極めて過酷です。責任が重大になり、いつ訴えられるかわからない。家族を犠牲にして賃金が見合わない。身も心も限界に達して、やめさせてくださいとなります。
「立ち去り型サボタージュ」は虎の門病院の泌尿器科の小松先生の言葉ですが、サボタージュはサボるの語源で業務放棄を意味します。あまりいい言葉ではありません。しかし、お医者さんは、自分がいなければ多分この病院・この地域の医療は成り立たないと分かるものですから、ちょっと休ませてとはなかなか言えない。限界に達すると、やめる以外には逃れられない。勤務医の最後の抵抗手段がこの立ち去り型サボタージュであると言うわけです。
このような現実を踏まえまして「あなたの理解が良いお医者さんを作ります」というタイトルをつけたのですが、お医者さんが大変だということを皆さんに分かっていただければ、多分お医者さんはもっと良くなりますということです。
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