No45 |
大切な人を突然死でなくさないために
〜あなたに救える命があります〜
(1/5)
北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学教授
筒井 裕之氏
今年の北海道心臓協会市民フォーラム「願いは健やかハート」では、旭山動物園の小菅園長先生から「命」という事でお話をいただきます。私は心臓の病気を担当する医師として、今日は「命」を守るという立場で皆様にお話をさせていただこうと思います。人は寿命がありますから、必ず命が終わります。皆死を迎えないといけないわけでありますけれども、この「死」というものがあまりにも突然に起こりますと、その方にとってはあまりにも無念な出来事という事になります。ご家族にとっても、非常に大きな衝撃が起こるわけであります。今日お見えの方の中には、自分はもうポックリ逝きたいと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、残された方に非常に影響が大きいですし、自分の旦那さんにはポックリ逝って欲しいというのはあまりよろしくない考えであります。(笑)
今日は皆さんと共に「大切な人をなくさない為に我々に何が出来るのか」という事をお話させていただこうと思います。先ほど「ポックリ逝く」なんていう事を申し上げましたけれども、医学ではこの「ポックリ逝く」というのを「突然死」と言います。「予期していない突然の病死」という事です。この中で心臓の病気が原因になっている突然死を「心臓突然死」と言います。突然死というのは色々な病気で起こるわけですけれども、心臓が原因で起こる心臓突然死が突然死全体の7割位を占めていると言われています。残りはいわゆる脳卒中ですとか出血ですとか、心臓以外の病気による死亡です。したがって心臓突然死というのは、心臓の病気が原因となって瞬間的に亡くなってしまうという事です。実際には症状が起こって1時間以内に亡くなられた場合を心臓突然死と言います。前の日までは普通にお休みになって、朝気付いたときにはもう亡くなっていたというのも突然死という事になるわけです。心臓突然死という事ですから、心臓に何か病気がある方がなるという事が一番考え易いのですが、実際にはそういった前もって心臓病があるという事が判っていない方が突然に心臓の病気で亡くなるという場合もあります。
これはまだ皆さんの記憶に新しいかもしれません。2002年の11月21日、当時47歳だった高円宮様が突然亡くなられました。高円宮様は元々非常に元気な方で、サッカー協会の名誉総裁を務め、御自身もサッカーをなさったりしていわゆるスポーツマンでありました。47歳という非常に若くして亡くなられましたが、その当時の新聞には心室細動と書いてあります。これが不整脈の一種ですが、心臓突然死を起こす非常に恐ろしい危険な不整脈です。
交通事故死よりも多い心臓突然死
心臓突然死というと、皆さんにとって高血圧とか糖尿病などに比べるとあまり馴染みの無い病気かと思いますが、日本全国でどれくらいの方が心臓突然死で命を落としているかという統計があります。突然亡くなるという事で皆さんにもっと馴染みが深いのが、不幸にして交通事故かもしれません。交通事故で亡くなる方は、北海道が非常に多く、北海道と愛知県が不名誉な記録を毎年競い合っていますが、この交通事故で亡くなる方は年々減ってきています。一時期は年間一万人近くの方が交通事故で命を落としておりましたけれども、毎年減ってきて平成19年は全国で年間に5,700人という数です。日本で心臓突然死を起こす方の正確な数は実のところ分かっていないのですが、なんと3〜5万人位の方が日本全国で突然、心臓の病気で亡くなっているといわれています。これは一年間ですから、一日あたり全国のどこかで100〜150人の方が心臓の病気で突然亡くなっていることになります。交通事故で亡くなる方と比べるとなんと10倍近くもあるわけですから、いかに重要な問題かというのがご理解いただけるのではないかと思います。
心臓突然死はアメリカでも非常に大きな問題であります。アメリカは日本よりも人口が2倍ほどですけれども、アメリカでは心臓突然死で年間に45万人位の方が亡くなっています。約80秒間に1人の方が亡くなっています。アメリカの統計によると、脳卒中が16万人、肺がんが15万人、この二つが非常に多い病気です。乳がんが4万人、エイズで4万人、このような患者さんを全部足しても45万人にはいかない訳ですから、米国では脳卒中などの病気よりも、心臓突然死の方が多くて死因の第1位であると言われています。