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No45 |
大切な人を突然死でなくさないために
〜あなたに救える命があります〜
(5/5)
AEDが広く使われるようになったのはアメリカから始まりました。アメリカでは1980年代、90年代からAEDの使用が始まります。そして2000年にはその当時のクリントン大統領が「全国にAEDを普及させないといけない、AEDを使って救命救急をやらないといけない」と動き出しました。2002年はアメリカにとって非常に重要な年です。ラスベガスのカジノでは、AEDが色々な所に置いてあります。カジノという所は心臓突然死が起こりやすいんですね。AEDを使わないと5%位しか救命出来なかったのが、警備員の人がAEDを使う事によって半数近くの方が救命出来るようになったという事で、アメリカは急速にこのAEDの普及が始まります。
それに若干遅れましたが、日本の場合は一番最初に導入されたのは飛行機です。航空機というのは国境が無いわけです。アメリカの飛行機も日本に乗り入れてきますし、日本の飛行機もアメリカに行くわけです。アメリカでその当時AEDを使うという事が常識になっていたわけで、日本の飛行機だけAEDを載せないというような事が出来なくなりました。その後飛行機以外の所にもAEDが設置されるようになりました。2003年には救命救急士がAEDを使って除細動を行なう事が認められるようになりました。そして2004年の7月に一般の市民の方がAEDを使って除細動をする事が自由に出来るようになりました。除細動は医療行為ですけれども、倒れている方を一般市民の方がAEDを使って除細動をしても、それは医師法には違反しないと認められるようになったわけです。
今日本全国、札幌も含めて急速にAEDの普及が進められています。皆さん御存知のように札幌市では市立の幼稚園から高校まで全校で設置が済んでいます。皆さんが目にするのは地下鉄の駅かもしれませんが、もうすでに札幌の市営地下鉄南北線、東西線、東豊線の46駅全てにAEDが設置されています。札幌市の場合は交通局の地下鉄の駅の職員500人が皆さん救命救急講習も受けているという事です。全国的に色々な所にこのAEDの配置が進んでいます。空港、駅それから新幹線のホーム、こういう沢山の人が集まるところにまずAEDを配置しようという事です。高速道路のサービスエリア、それから運動中に倒れる方も多いという事でスポーツクラブ、それからAED付き自動販売機。これはまだ全国にも数台しかないという事ですけれども、自動販売機が日本は色々な所に沢山ありますので、そういう所にAEDを設置する事によって、配置に関わるコストを下げようといったような取り組みも行われています。
先ほど旭山動物園の小菅先生とお話していたら、旭山動物園にもAEDがあり、なんとこの一年の間に1人AEDで救命された方がおられるというお話も伺いました。この機械は一般市民の方が使っていただく事を前提としている機械です。もちろん医療従事者が使うという事も出来る訳ですけれども、一般の市民の方に使ってもらえるように作られた機械です。この機械を全く見た事が無い方でも使えるように作ってありますが、今日少しだけご覧頂きました。会場のホールにも実際の機械が置いてあります。手に触れていただくことによりこれからもっと使いやすくなると思います。さらに一般の市民の方を対象とした講習会も行われております。消防署や日赤が中心になって講習会を色々な所でやっており、そういう所でこのAEDを使った救命救急に触れて頂く機会が増えています。
現在、日本では三つの会社が、それぞれ2種類位のAEDを実際の市場に出して販売しています。会社によって色、形が違いますが、基本的には殆ど機能は同じです。機械が違うからといって使い方に困るという事が無いようになっています。AEDの普及が進んでいる背景には、以前はこの機械は買わなければならなかったのが、最近はレンタルも出来るようになり、色々な所にAEDが整備されるようになったわけです。
実際どれ位AEDの効果があるのかということですが、2004年に一般市民の方の使用が認められ、2005年から極めて沢山の報告が行われていますし、最近ではAEDでどなたか心臓突然死から救命されたというだけでは、もう中々ニュースにならない位普通の事になってきています。2005年は1年間にスポーツ関連だけで、4人の方が突然死せずにすみました。それから2005年に名古屋で愛知万博、愛地球博が開催されました。この時には100台のAEDを会場に配備しましたが、半年間に数百万人の方が愛知万博に訪れたわけですけれども、そのときに4人の方がAEDで救命されました。特にその中のお一人は、地球博に来ていた大学生がAEDを使って救命したという事も話題になっていました。身近な所では2006年の4月に札幌の宮の沢屋内競技場で50歳代の男性がソフトテニスをしている時に心停止になって、職員の方がAEDを使って救命できたという事です。この時は札幌で初の救命例として北海道新聞で記事になっています。
実際にAEDを使うまでに至らずに、突然死を起こす危険性を予知できれば良いのですが、残念ながら今のところこれを予知するのは極めて難しいのが現状です。危険な不整脈が心臓突然死の原因になるとお話しましたが、危険な不整脈の兆しというのはいくつか知られています。急に心臓が早く打つ、少しの運動でも蹲るとか運動の時に胸が締め付けられるように苦しくなる、脈が途切れるとか気を失った事がある、これは非常に注意をしないといけない症状です。先ほどお話しました親戚の方で突然死した人がいる、病気で突然死した方がいる、動悸、胸の苦しさがあって突然死した方がいる。このような方は危険な不整脈である危険性があります。ただこれだけではわかりませんので、このような症状がある方が私どもの所に来られますと、危険な不整脈があるかどうかホルター心電図という24時間の心電図を記録する検査をします。先ほどお話したような普通の脈の後に非常に脈の早い不整脈が記録されますと、こういう方は危険性が高いという事になります。色々な治療が今はありますが、危険な不整脈の危険性が高い方は除細動器を身体の中に埋め込むという治療も致します。以前は機械が非常に大きかったのですが、最近は小さくなって、ペースメーカーと同じ位の大きさになりました。手のひらに収まるくらいですので、胸の鎖骨の下の所にペースメーカーと同じように入れて、危険な不整脈が起こった時には除細動するというものです。
たしかに突然死を最後の水際の所で何とか止めて患者さんが亡くならない様にしようという治療も必要なのですけれども、突然死も、やはり高血圧、糖尿病、高脂血症といわれる生活習慣病から、一連の連鎖の中で起こってくる病気です。したがって生活習慣病を早めに発見して、治療をやっておくという事もひいては最終的に心臓病、心臓突然死の予防に繋がるわけです。
私どもが経験した一人の患者さんですが、40歳代の男性で、この方もまったく元気な方でしたが、夜中の3時30分頃突然うめき声を上げて呼吸が止まった。これからが非常に大事です。横に寝ていた奥様が119番通報をして直ちに心臓マッサージを開始した。救急隊が到着するまで15分近くかかっています。心肺停止状態でした。心電図で心室細動を確認して救急隊が除細動しました。心拍は再開されて、その後私どもの所に救急で入院しました。この方はその後意識が戻って、先ほどご紹介した埋め込み型除細動器を埋め込んで今は元気にしておられますが、この時に奥様が心臓マッサージをしていなかったら、この方はもうこの時に亡くなられていた危険性もあるわけです。
今日私がお話しました事は、大切な人の命を救うことが出来るのは病院の医師でもなく、現場の救命救急士でもありません。心室細動の場合はその現場にいる皆さんがそこで心肺蘇生、迅速な119番通報をする。その勇気を持って取り組んで頂くという事が非常に重要であります。日本から心臓突然死で命を亡くす方が少しでも減りますように願って私の話を終わらせていただきます。ご清聴どうもありがとうございました。
<座長・島本和明先生>
突然死の中で多くを占めるのが心臓突然死。心臓突然死の中で多くを占めるのが危険な不整脈。放っておくと非常に危ないからなるべく早くそれを治す。その為にAEDが必要であるという事でお話を頂きました。
最後に強調されておられましたけれども、今回筒井先生がお話になった中で一番重要な事はAEDというのは医療関係者が使うものではなくて、市民の皆さんが使うものである。これを十分に理解して頂くことが今日筒井先生がお話になったお話の中で一番重要な事ではないかと思っております。怖がらないでまず開けて見るという事が一番大事でないかと考えております。筒井先生に大変有意義なお話を伺いました。
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