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NO.8 |
アルコール
(1−1)
市立根室病院内科
羽根田 俊、柏木 雄介、鈴木 英雄
好結果生む適度な飲酒/最大の関門は節酒の難しさ
アルコールは心臓・血管病の危険因子
飲酒が血圧を上昇させること、多量飲酒が虚血性心疾患や脳卒中などの心臓・血管病に悪影響をもたらすことは良く知られています。逆に、アルコールは好影響も有しているとも言われています。例えば、@少量飲酒者は非飲酒者に比べると動脈硬化が軽度であるAアルコール摂取量と虚血性心疾患との間にはU型の関係があり少量飲酒者は非飲酒者より死亡率が低い、という報告がされています。これらは適度の飲酒により、精神的緊張が緩和されることが関係していると考えられています。
男性の節酒目安は日本酒約1合/日以下
2000年に日本高血圧学会が作成した「高血圧治療ガイドライン2000年版」の生活習慣の修正項目の中では、前述の理由で高血圧患者さんでは飲酒制限の指導を必要としますが、飲酒を禁じるべきではないとされています。具体的には、アルコールはエタノール換算で男性は20〜30g/日(日本酒約1合)、女性は10〜20g/日以下にすべきと勧告しています。女性が男性よりアルコール摂取量が少ないのは、女性はエタノールの吸収がよく、また体重の軽い人はアルコールの影響を受けやすいことを考慮した結果です。
飲酒量が多いほど血圧値が高くなる
大阪、秋田の住民調査では、飲酒量の多い人ほど高血圧患者さんの頻度が高く、さらに収縮期および拡張期血圧が高いという結果が出ています(図1)。特に、毎日3合以上飲酒する人は、もともと飲酒しない者に比べて収縮期血圧は17mmHgも高値でした。循環器疾患基礎調査では、図2に示しますように30歳代の若い世代から70歳以上の高齢者にわたるまで、毎日飲酒する人ではもともと飲酒する習慣のない人に比べて収縮期血圧は明らかに高値でした。また、その影響の強さは、毎日飲酒する人は10歳年齢の高いもともと飲まない人より高く、10歳の加齢に相当する血圧値を有していました。
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アルコール飲料の種類とは無関係です
国際共同調査により、アルコール飲料の種類に関わらず飲酒量と高血圧との関連が認められました。そこで、血圧にはアルコールの摂取量そのものが関与していて、日本酒、ビール、焼酎、ワインなどというアルコール飲料の種類による違いはないと考えられています。
血圧上昇にはアルコール代謝系遺伝子的素因が関与?
アルコールそのものの作用で血圧を上昇させることは疑いの余地がありませんが、その機序については良くわかっていません。アルコール代謝系遺伝子でありますアルデヒド脱水素酵素2型活性の欠損者が日本人では40〜50%と高率におり、多量飲酒時にはこれらの遺伝子的素因が関与し、心拍数や心拍出量を増加させて血圧を上昇させる可能性があります。また、アルコールは全身の血管トーヌスの緊張を高めて血圧を上昇させると考えられています。
節酒の降圧効果は直ぐ現れる
節酒による血圧値の低下が期待され、多くの報告から、都合の良いことには節酒の効果は1、2週間のうちに現れることが明らかにされています。図3に軽症高血圧患者さんで服薬をしていない人を対象として、節酒による血圧の低下を調べた成績を示しています。日本酒にして平均2合程度飲酒していた30〜59歳の男性に1合程度になるように節酒してもらいました。最初の3週間はA群には節酒または禁酒を、B群には平常の飲酒習慣を保つように、そして3週後には、逆にB群に節酒を、A群には平常の飲酒習慣に戻すように指示してあります。その結果、節酒により1〜2週間で収縮期血圧が約5mmHgより大きく低下することが観察されています。
降圧薬を服用中の多量飲酒者は節酒が原則です
降圧薬を服薬中の高血圧患者さんを対象にした試験で、飲酒量を減らすと血圧が低下し、再飲酒により血圧が上昇することが明らかになっています。このように多量飲酒は降圧薬の効果を減弱させるので、多量飲酒を続けていますと降圧薬の効果が十分に現れません。そこで、降圧薬を服用している多量飲酒の患者さんは、節酒することにより本来の薬効が発揮され、降圧効果が今までよりもより良く現れることが期待されます。
健康第一です、時には「嘘も方便」の割り切りが必要/
あっ、残念きょうは生憎と別の約束がありまして…本当に残念だな
節酒には家庭での環境改善も重要
節酒のコツとしては表に示したものがあり、色々な工夫をして節酒(指導)を行う必要があります。まず、多量飲酒者には節酒が心臓・血管病の予防と治療の上で重要であることを認識してもらうことが大前提となります。しかし、多量飲酒習慣のある人は本来飲酒が好きな人であり、遺伝的にもアルコールの分解が速やかに行われる人であるので、節酒指導はなかなか困難なことが多いようです。また、「ほどほどに」という節酒指導を行うことがよくありますが、アルコールの好きな人は自分が常日頃に飲んでいる量を「ほどほど」の量と考えているので、注意が必要です。
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