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NO.4 |
動脈硬化の進行を予防する暮らし
(2−1)
札幌医科大学第二内科講師 斎藤 重幸
脳卒中、狭心症などの基盤に動脈硬化の始まりは症状を伴うことはありません。また動脈硬化は人知れずに、もちろん本人にも気づかないうちに進行します。そしてひとたびその正体を表すとそれは、脳卒中、心筋梗塞など命にかかわる病気の発症だったり、狭心症や閉塞性動脈硬化症といった著しく「生活の質」を低下させる疾患の出現であったりします。
一方でほとんどすべての人は加齢とともに動脈硬化が進行すると考えられています。何人たりともいえども動脈硬化から逃れることはできません。しかしながら動脈硬化の進行には個人差があります。ゆるやかな血管の変化はむしろ生理的であり、動脈硬化は老化の一つの指標であるとも考えられます。いつまでも若さを保ち、活動的なお年寄りも沢山いますが、暦年齢以上に老化が目立つ中高年者も目に付きます。この差はどこからくるのでしょうか。
予防には危険因子を減らす動脈硬化がどのようなものかはこれまでに本シリーズで述べられていると思いますが簡単にまとめましょう。動脈硬化とは
(1) 動脈硬化性疾患と称される脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、狭心症、閉塞性動脈硬化症などが起こる基盤となる。
(2) 動脈硬化は加齢により進行するが、動脈硬化を促進する病気や生活の習慣がある。これらを危険因子と言う。
(3) 危険因子の治療や「生活習慣の改善」で、動脈硬化により引き起こされる疾患を予防したり、それによる死から逃れる可能性を高くすることができる。
(4) 動脈硬化が進んでいても、病気が発症しない限りは特別な症状がない場合が多い。しかし一度それが発症すると致命的であったり、その後の生活に重大な影響をもたらす。
以上が動脈硬化の要点です。従って動脈硬化の進行を予防する暮らしとは、日常の生活のなかで、とりも直さず動脈硬化の危険因子を減らす生活そのものということになります。そのためには「(動脈硬化の進行を早める)生活習慣の改善」が必要になります。
動脈硬化の危険因子としてはこれまでに数百もの因子が検討されてきました。このなかには人種、加齢、男性であること、閉経となること、家族に動脈硬化性疾患の発症者がいるなど本人ではそれ自体防ぎようのないような事柄もありますが、一方で回避あるいは管理が可能な危険因子として「高血圧」「糖尿病」「高コレステロール血症」「喫煙」「肥満」「運動不足」「過度の飲酒」などの存在も明らかにされています。表1にそれらの主なものをまとめました。
さて、高血圧、糖尿病、高脂血症などは「病気」として認識されています。いずれも、肥満や食事の影響を強くうけます。肥満の是正、食事の改善、適度な運動などはこうした病気を良くする方向に働きますが、それだけでこれらの「病気」を治すことは難しいことが多々あります。検診や血圧の自己測定でこれらの病気が疑われる場合は医師の診療を受ける必要があります。症状の出現まで、と受診をためらっていると動脈硬化性疾患は相当進行して、とり返しがつかなくなることがあります。
脳出血・脳梗塞の危険因子
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2)高コレステロール血症 食生活と関連した高コレステロール血症 |
3大危険因子 | ||||
1. 脳出血の主要な危険因子
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高血圧(心電図異常、眼底変化、たんぱく尿) 過度の飲酒 身体活動(重労働) 寒冷 血清総コレステロールの低値 動物性たんぱく質、脂肪の不足 |
3)高血圧 | |||||
4)喫 煙 | ||||||
5)糖尿病 | ||||||
B.その他の危険因子
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2. 脳梗塞の主要な危険因子
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1)低身体活動 | |||||
1)
穿通枝系血栓 高血圧(心電図異常、眼底変化、たんぱく尿) 動物性たんぱく質、脂肪の不足 高ヘマトクリット |
2)行動様式・社会心理的要因 A型行動様式など |
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3)偏った食生活 過剰摂取:精製糖、コーヒーなど 摂取不足:食物線維、魚など |
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2)皮質枝系血栓 高血圧 血清総コレステロールの高値 HDL−コレステロールの低値 耐糖能異常 喫煙 血中ω3系不飽和脂肪酸の低値、魚介類摂取不足 |
4)高尿酸血症 | |||||
5)血液凝固線溶異常 | ||||||
6)ホルモンのアンバランス 低エストロジェン症(女性)、高および低アンドロジェン症(男性)、甲状腺機能低下症など |
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3)皮質枝系塞栓 心房細動 |
7)白血球増多 | |||||
虚血性心疾患の危険因子
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8)冠動脈の損傷をきたす因子 感染症、自己免疫異常、遺伝的異常など |
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A.主要な危険因子
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1)偏った食生活 |
9)危険因子をもたらす家族性要因 | |||||
10)経口避妊薬 | ||||||
11)その他 | ||||||
疫学ハンドブック 重要疾患の疫学と予防(南江堂)より
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