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動脈硬化と脂質
(2−1)
川崎医科大学糖尿病内科助教授 旭川医科大学非常勤講師 衛藤 雅昭
はじめに
近年の日本人のライフ・スタイルの変化、特に食習慣の欧米化や運動不足により、動脈硬化症が増加しつつあります。その原因の一つとして高脂血症の増加があげられます。高脂血症は高血圧、喫煙とともにその動脈硬化の危険因子として最も重要であります。高脂血症はそれ自身では自覚症状を伴うことはほとんどありませんが、将来引き起こすであろう動脈硬化症を予防するために、早期発見、早期治療することが重要であります。高脂血症は生活習慣病の1つとして位置づけられており、その治療および予防の基本は食事療法、運動療法を中心としたライフ・スタイルの改善であります。
動脈硬化症とは血管壁に脂質、繊維などが蓄積
血管の壁面に、脂質、繊維、カルシウムなどが蓄積し、血管が硬くなってくることを動脈硬化といいます。動脈硬化が進行してくると、血管内壁に様々な成分が付着し、血管内腔が狭まり、また血管自身ももろくなってきます。ついには、血液の流れが悪くなったり、血管が完全に詰まったり破裂して、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞、腎硬化症、下肢閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化症を引き起こします。
動脈硬化は一種の老化現象であり、だれでもある程度年をとればおこりますが、高脂血症をはじめ、高血圧、喫煙、糖尿病、肥満などの危険因子があると、著しく促進されます。
自覚症状のない高脂血症
脳梗塞、狭心症、心筋梗塞,腎硬化症などの原因に
高脂血症とは
血液中に含まれている脂質(血清脂質)は主としてコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)、リン脂質、遊離脂肪酸の4種類があります。
LDL(悪玉)は動脈硬化形成 HDL(善玉)は動脈硬化抑制
臨床上、コレステロールと中性脂肪が重要であり、これらが何らかの原因により正常範囲を越えて、血清コレステロールの値が220mg/dl以上あるか、あるいは血清中性脂肪が150mg/dl以上あるときは、「高脂血症」と診断されます。
脂質はアポ蛋白という蛋白と結合してリポ蛋白を形成し、血液中に溶け込んでいます。血清リポ蛋白は比重の軽いものから順にカイロミクロン、超低比重リポ蛋白(VLDL)、低比重リポ蛋白(LDL、レムナント)、中間比重リポ蛋白(IDL)、高比重リポ蛋白(HDL)に分けられます。
コレステロールは主としてLDL、HDLに、中性脂肪は主としてカイロミクロン、VLDLに分布されています。リポ蛋白のうち、VLDL、IDL、LDLは動脈硬化を促進します。
一方、HDLは動脈硬化を抑制します。とくに、LDLは血管壁に侵入して動脈硬化を形成しやすいので、悪玉コレステロールといわれ、一方、HDLは善玉コレステロールといわれています。悪玉のLDLが高値のとき(LDLコレステロール140mg/dl以上)「高コレステロール血症」、中性脂肪が高値のとき(150mg/dl以上)「高中性脂肪血症」といわれることもあります。
善玉のHDLコレステロールが異常に少なくて、体内のコレステロールが回収されない場合も異常状態であり、「低HDL血症」(HDLコレステロール40mg/dl以下)と呼ばれますが、これも一種の高脂血症です。
高脂血症を表1にまとめました。表1 高脂血症
高コレステロール血症 血清コレステロールが220mg/dl以上あるいは血清LDLコレステロールが140mg/dl以上 高中性脂肪血症 血清中性脂肪が150mg/dl以上 低HDL血症 血清HDLコレステロールが40mg/dl以下