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心不全と骨粗鬆症
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札幌医科大学大学院 医学研究
札幌医科大学附属病院 リハビリテーション部
大学院生 沼澤 瞭氏
札幌医科大学附属病院 リハビリテーション部
理療専門員 片野 唆敏氏
骨粗鬆症の診断
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(2015年版)では、骨粗鬆症による骨折の有無と、二重エネルギーX線吸収法(Dual-energy X-ray absorptiometry:DEXA法)という方法で大腿骨や腰椎の骨密度を測定して診断することが、最も信頼性の高い方法とされています。
大腿骨や腰椎に骨折の既往があれば、その時点で骨粗鬆症と診断します。骨折の既往がない場合は、測定した骨密度が若い世代の平均値と比べて70%以下(%YAM 70%以下)、または、標準偏差を-2.5倍した値よりも少ない(T score -2.5 以下)状態であれば、骨粗鬆症と診断します(図4)。
さらに、骨粗鬆症による骨折のリスクを評価するために「FRAX Fracture Risk Assessment Tool)」というツールがあります(https://frax.shef.ac.uk/FRAX/tool.aspx?lang=jp)。FRAXでは、骨粗鬆症のリスク因子や骨折の既往歴などから、大腿骨の近位部骨折や骨粗鬆症による骨折について向こう10年間の発生確率を計算することができます。
心不全の場合、女性や低体重といった一般的なリスク因子に加えて、筋肉量の減少や身体機能の低下といった重度の心不全に見られる徴候、また、心不全の患者さんによく使われる薬剤(ループ利尿剤、ワルファリンなど)が、骨粗鬆症と関連することが報告されています。そのため、このような特徴を持つ心不全の患者さんは、一度骨密度測定ができる専門の医療機関を受診してみることを検討する必要があると考えられます。
骨粗鬆症の治療はどうすればいいの?
骨粗鬆症の治療には、薬物療法、運動療法、栄養療法の3つの大切な柱があります。
薬物療法ではカルシウム製剤や骨を強くする薬(活性型ビタミンD 3 製剤、副甲状腺ホルモン)や骨吸収を抑える薬(女性ホルモン薬、カルシトニン、ビスホスホネート製剤、選択的エストロゲン受容体調整薬、抗RANKL抗体)があります(図5)。
運動療法や栄養療法は、骨密度を維持し、筋力を強化することで骨折を防ぐ効果があります。
心不全の患者さんに対しては、心臓リハビリテーションをはじめとする運動療法が、生命予後や心不全の再入院を抑制する効果があることが知られています。また、継続的な運動療法によって骨密度が増加することも期待できます。Bonaiutiらの報告によると、閉経後の高齢女性において、有酸素性の荷重運動を行うことで、腰椎の骨密度が1.79%増え、ウォーキングにより腰椎と大腿骨近位部の骨密度がそれぞれ1.31%、0.92%増えたと報告されています。
さらにHoweらの報告では、運動により大腿骨近位部と腰椎の骨密度がそれぞれ1.03%、0.85%増加することが明らかにされています。このような知見から、特に閉経後の女性では骨密度の維持上昇には、骨への荷重運動が重要であることが示唆されています。これらの研究は地域在住の高齢者を対象に行われているため、心不全患者さんでも運動によって骨密度が増加するかどうかについては、さらなる検討が必要です。
しかし、高齢の心不全患者さんで骨粗鬆症が疑われる場合には、心臓リハビリテーションによる運動療法、特にウォーキングなど骨に荷重がかかる方法での運動療法が有効である可能性があります。
骨粗鬆症の治療において、大切な栄養素としてカルシウムとビタミンDがあります。カルシウムは骨を構成するミネラル成分として重要な役割を果たしています。骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(2015年版)では、骨粗鬆症の予防と治療のため、カルシウムを一日に700-800r摂取することが推奨されています。しかし、骨粗鬆症を抱える心不全の患者さんに対して、カルシウム摂取が骨密度の改善や骨折の予防に有効であるかはいまだ明確にはされていません。ある報告では、糖尿病を抱える心不全の患者さんでは、カルシウムのサプリメントでの摂取が入院の機会を増やしたことが報告されています。そのため、心不全の患者さんの骨粗鬆症を改善する目的でのカルシウム摂取には注意が必要です。
ビタミンDはカルシウムの吸収を助けることから、ビタミンDの摂取はカルシウムと並んで骨粗鬆症に対する重要な栄養療法です。一般的に高齢者ではビタミンDが不足しているため、1 日に400-800IU(10-20μg)のビタミンDの摂取が推奨されています。また、ビタミンDは紫外線に当たることで皮膚でも作られることが知られているため、1 日15分程度の適度な日光浴も骨粗鬆症の予防に役立ちます。
まとめ
さいごに、高齢化が進む日本で、心不全と骨粗鬆症はますます重要な問題となっています。心不全患者さんの健康寿命を延ばし、生活の質を向上させるためには、日常の診察で骨粗鬆症を早期に見つけ、適切に治療することが重要です。

