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NO.9

メタボリックシンドローム(その3)

札幌医科大学第二内科
斎藤 重幸さん


 

前回の続きで、肥満と心臓血管病危険因子の関係のお話を続けます。

5. 肥満と危険因子の関係

1)肥満と高血圧(本誌96号)
2)肥満と糖尿病

血糖をコントロールするインスリン

 今回は肥満と糖尿病の関係から始めます。年配の方は糖尿病に、痩せていて、トイレによく通い、水をよく飲み、虚脱状態で、人生もうお終いといったイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか?勿論そうした状態も糖尿病なのですが、これは進行した糖尿病です。メタボリックシンドロームで問題となるのは、自覚症状のない肥満の糖尿病あるいは糖尿病予備軍です。

 糖尿病とは血糖の値が高いままの状態が続くことです。血糖とは血液に溶けているブドウ糖の量のことです。通常1リットルの血液に1グラム前後(100r/dl)のブドウ糖が溶けています。どんなに食べ過ぎても正常の方だと、これが2g(200r/dl)以上となることはありません。1リットルの血液に2g以上のブドウ糖が溶けていたら立派な糖尿病です。血糖は極めて狭い範囲に収まるようになっているのです。そしてこの少しの血糖の上昇が多彩な合併症を起こしてくるのです。 身体には、血糖がそのレベルを維持できるように精密な機序が備わっています。食事をして糖が身体に吸収され血糖が上昇すると、膵臓(胃の後側にある臓器)のセンサーが瞬時に感知し、膵臓からインスリンというホルモンを放出します。インスリンは身体で唯一血糖を下げるホルモンです。インスリンは生体の細胞一つ一つに働いて、血液から糖を細胞の中に組み入れます。この糖が細胞のエネルギー源となるわけです(図)。それと同時に血糖値は下がります。肥満があるとこのインスリンの働きが悪くなり、糖の血液から細胞への移行がスムーズでなくなり、いつまでも糖が血液に留まる状況になります。この血液中に少し多めに残ったブドウ糖が血管の内側の細胞を攻撃したり、血液中の成分を変成させたりして、動脈硬化の始まりを作っていきます。そして、心筋梗塞や脳梗塞へと繋がっていくのです。これが糖尿病、糖尿病予備軍の状態です。

欠食に備えた身体機能が裏目に

3)肥満と高脂血症

 高脂血症とはなんでしょうか?血液中の脂肪分が多い状態ということは想像がつくと思います。さて、血液の殆どは水です。水に油脂が溶けるのか。通常は溶けません。そこで脂肪分は水に溶けるタンパク質に包まれて血液の中に存在しています。この状態をリポ蛋白といいます。血液には脂肪分が含まれたリポ蛋白として身体の中を行き来しています。

どのように?

 たとえば天ぷらを食べます。天ぷらは胃から腸へと運ばれますが、その間に消化酵素で分解されて最小単位の脂肪酸やコレステロールという脂肪分になります。リノール酸とか、リノレン酸という言葉を聞いたことがあるかも知れません。それが脂肪酸です。これらは小腸で吸収され腸の壁に取り込まれます。そこでタンパク質と一緒になり、水に溶ける形になって血液の流れに入っていきます。

 人の身体は60兆個の細胞でできているといわれますが、この細胞の殻の材料が脂質です。細胞を作るためには脂肪の成分は絶対に必要ですので、身体の隅々にリポ蛋白は流れて行き、脂肪分は運ばれます。不足すると大変なことになりますから、身体の中(肝臓)で他の材料から脂肪を作ることもできます。肝臓では、一日に食事で摂取する10倍ものコレステロールを産生しています。食事から脂肪分が摂れなくても、何とかやっていけるように身体はできているのです。現在の日本では、食事が摂れないなどということはありません。脂肪分でも糖分でも、いくらでも、食物から好きな時に得ることができます。だから、この余分に摂られた栄養物を溜めることが、肥満に繋がるのです。肥満では食事の摂取が多いのですから、必然的に血液の油分も多くなり高脂血症にもなるでしょう。

 実は肥満者で高脂血症になるのはこの他にも理由があるのです。糖尿病の項でも述べましたが、肥満があるとインスリンの働きが悪くなります。このことがリポ蛋白の代謝を悪くして、高脂血症を起こします。高脂血症といわれる状態の中には、あるリポ蛋白が低下する状態も入っています。このリポ蛋白が善玉コレステロールといわれるHDLコレステロールです。HDLはリポ蛋白質の種類を示します。悪玉コレステロールはLDLコレステロールといいますが、LDLもリポ蛋白質の一種です。

 インスリンの作用が悪くなると、このHDL(善玉)、LDL(悪玉)の産生のバランスが崩れて、LDLが多くできるようになり、HDLは少なくなります。LDLは身体全身のコレステロールを運びます。必要とする1つ1つの細胞に脂肪分を運ぶのが本来の目的です。それはそれで必要なのですが、時にLDLが多いと余計なところにもコレステロールを置いてくる。血管の壁にコレステロールを捨ててくるのです。即ち血管の壁にコレステロールが溜ってくる。これが動脈硬化の血管に最初に起こってくることです。

HDLはどうか?

 HDLは血管などに余計に溜まったコレステロールを回収してきて肝臓に戻す役割をします。だから血管の動脈硬化は改善するようになります。通常HDLは50〜60r/dlですが、なかには100r/dlを超える人がいます。遺伝的にHDLが高い人たちです。このような人は動脈硬化による心臓病、脳卒中になりづらく長生きする方が多いといわれています。長寿症候群といわれています。よい意味で使われる「症候群」もあるのです。

 蛇足ですが、反対に遺伝的に悪玉のLDLコレステロールが高くなる人がいます。コレステロール値が300r/dl以上にもなる人です。これらの人では10歳代から心筋梗塞を起こすこともあります。家族性高コレステロール血症という病気です。このような病気と肥満とは直接関連しませんが、肥満者では特にHDLが低下することが多いようです。肥満がなくなるとインスリンの効きがよくなり、リポ蛋白の代謝も改善してHDLが上昇し、高脂血症が良くなることがしばしば見受けられます。

余分なエネルギーは脂肪細胞がしっかり貯蔵
6. 肥満の本態

 肥満の本態は脂肪組織にあり、脂肪細胞の1つ1つに中性脂肪という脂肪分が必要以上に溜まっていることです。この中性脂肪は食事から摂取した脂肪分からだけではなく、過剰となった糖質などからも作られます。脂肪細胞で余ったエネルギーを貯蔵しているわけです。

 1gの脂肪は9Kcalのエネルギーを出します。1 s 体重が増える( =1000gの脂肪が付く) と単純に9000Kcalのエネルギーを蓄えたことになります。一日1600Kcalもあれば生きられますから、数字の上では1s余計に脂肪があれば約4日は絶食していても大丈夫ということになります。もちろんエネルギーの他に水分や塩分は必要ですが。

 この文書をお読みの方なら体脂肪率(タニタとかオムロンのあれです)を測定したことがあると思います。体脂肪率の正常は20〜25%です。50sの人であれば、10sは脂肪ということになります。もちろん身体の細胞を作る脂肪分の重さを含めたものですから、全てエネルギーとして使えるわけではありせん。

腹部肥満、内臓脂肪蓄積型肥満、リンゴ型肥満、上半身肥満

 肥満に見える人が60sだとして、体脂肪率30%だとすると正常値を超えた10%が貯蔵分の脂肪となります。余計な脂肪は6sです。6000g× 9Kcal/g=54000Kcalの余剰なエネルギーとなるわけで、約1ヶ月の絶食でも大丈夫なエネルギーを蓄えていることになります。実際は1ヶ月も絶食することは無理で、そんなことを実行すれば死んでしまいますが。

 脂肪細胞はインスリンというホルモンが作用して脂肪細胞の中にエネルギーを貯めていきますが、インスリンが作用しているうちは無制限にエネルギーを貯めることが可能といわれています。どこまでも肥満していくことが可能な訳です。が実際は、インスリンは途中で出なくなってしまいます。糖尿病が進行すると痩せてくる理由がそこにあります。

肥満は肥満でも…
7. あなたはメタボリックシンドロームなのでしょうか?

 もう読者の多くはお分かりになっていると思います。どうも、「メタボリックシンドローム」とは「肥満」のことをいっているのだなということを。

 それはそうなのですが、このメタボリックシンドロームという話の中での「肥満」は皆さんが思っているこれまでの「肥満」とはだいぶ意味合いが違っていると思います。「りんご型肥満」、「男性型肥満」、「腹部肥満」、「太鼓腹」をご存知でしょうか。これらは「内臓脂肪蓄積型肥満」のことをいっているのですが、この内臓脂肪蓄積型肥満こそがメタボリックシンドロームの本体で、中心となるものです(写真)。

 さて次回はメタボリックシンドロームの肥満である腹部肥満のお話をしましよう。その前に、メタボリックシンドロームとは何か。「表」に診断基準を示しました。あなたはいくつあてはまりますか?

メタボリックシンドロームの診断基準

  
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