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番外篇
旭川医科大学第一内科/第28回日本高血圧学会事務局福澤 純さん
9月15〜17日、旭川市で第28回日本高血圧学会総会
高血圧治療ガイドラインJSH2004を徹底検討
「すこやかハート」の読者の方の中には現在高血圧の治療を受けている方もいらっしゃると思います。現在、わが国に3500万人の患者さんがいるといわれている高血圧症についての専門家が集まり、世界各国の高血圧の実態を検討したり、各自の研究成果を発表する学術会議である「日本高血圧学会総会」が旭川医科大学・第一内科・菊池健次郎教授を会長として9月15日(木)から17日(土)に旭川市(旭川市民文化会館など)で開かれます。今年が第28回目の開催にあたるこの会は過去に2度北海道で行なわれており(第2回札幌市、会長:故宮原光夫札幌医科大学教授、第12回札幌市、会長:飯村攻札幌医科大学教授)、今回が3度目の北海道での開催となります。
今年の会は"高血圧、標的臓器障害の予防と徹底管理−JSH2004の活用"をメインテーマとしています。「JSH2004」というのは昨年(2004年)発表された「日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン」のことで、日本人を対象とした高血圧の管理の指標です。高血圧治療の目的である臓器障害(脳卒中、心臓病、腎臓病など)の予防を行なうにあたって専門家である医師・研究者がどのようにこのJSH2004を活用すべきか考えようという会にしようと考えています。毎年1500−2000人の高血圧を専門とする医師や研究者が参加するこの会は今年特に注目されています。その理由はふたつあると思われます。
ひとつは開催場所が北海道、旭川であることです。旭川にはご存知のように夏休み期間の入園者数日本一の旭山動物園があります。オランウータン、ほっきょくぐま、ぺんぎん、あざらしなどの陸上や水中における動物本来の動きが観察できるよう創意工夫がなされており、他の動物園では体験できない楽しさを味わう事ができること、さらに、この時期には脂ののった鮭、いくら、毛がに、たらばがに、花咲きがに、うに、あわび、牡蠣、などの海の幸、じゃがいも(北あかり、男爵、メイクイーン)、とうもろこしなどの陸の幸、これらを使った"旭川ラーメン"、大雪山の伏流水を用いた銘酒(男山、高砂、大雪の蔵)などを楽しむことができるからです。もちろん、学会開催時間中は会場内で白熱した議論が盛んに行なわれるのですが、開催時刻が過ぎるとこれらの「お楽しみ」が特に道外からの参加者に待っているというわけです。
ふたつ目はJSH2004が正式に発表されてから開催される最初の会であるということです。冒頭に示したように現在、日本には3500万人という多くの高血圧の患者さんがいらっしゃり、その方たちに、日本人特有の生活習慣と心血管病に照準を合わせ、医療経済にも配慮したこのガイドラインが役立っているのか、問題点はないかを検討するはじめての会なのです。世界各国から参加される研究者とも徹底的な検討を行ないたいと考えています。また、このガイドラインを高血圧学会会員以外の多くの医師、コメディカル(薬剤師、看護師、検査技師、栄養士などの方)や国民全体にどのように知っていただくかを考えることも重要な事項となります。
総会では高血圧の専門家だけが議論する「場」以外にも会員以外の医師やコメディカルの方たちが議論する「症例検討」や「コメディカルセッション」という「場」を提供しています。さらに、医療従事者以外の方たちに対しても「市民公開講座」という高血圧についての知識を学んでいただく会を併催します。日本の高血圧学研究の基礎を作られた3人の名誉教授(飯村攻先生;札幌医科大学名誉教授、阿部圭志先生;東北大学名誉教授、荒川規矩男先生;福岡大学名誉教授−発表順)の先生がたに「難しい高血圧」の話を「わかりやすい高血圧」の話としてお話していただきます。メインテーマは"沈黙の殺人者−高血圧の予防と管理"というちょっとぶっそうなものですが、各先生には「身近に考えよう−北海道の生活習慣病−」、「家庭血圧測定のすすめ−降圧薬治療の効果を確実に知るために−」、「高血圧の治療の仕方」という内容をお話いただく予定です。開催日時・会場は平成17年9月17日(土)、午後1時10分〜3時10分: 旭川市民文化会館「大ホール」 旭川市7条通9丁目となっております。連絡先(〒243-0013 神奈川県厚木市泉町3-14 東友ビル潟<fィカル東友内 「日本高血圧学会 市民公開講座」事務局宛 電話:046-220-0321 ファックス:046-220-1706 e-mail:jsh@mtz.co.jp)まで参加のご希望をお知らせいただけますと幸いですが、直前になってから予定が決まった方でも参加をお待ちしております。今回の会の注目を集めている内容の一部を表1でご紹介します。
表1 第28回日本高血圧学会総会内容の一部 ●基礎シンポジウム 「高血圧基礎研究:厳格な降圧の時代における臓器保護−大規模臨床試験との解離を埋める−」
日本が世界をリードする高血圧基礎研究(動物や細胞を用いた研究)の結果と多数の「ヒト」を対象とした研究結果との間にある隙間を埋めるために研究者は何を行なえばよいのかを議論します。
●ディベート 「もう医師は診察室で血圧を測るべきではない」
急速に普及している家庭血圧計による血圧測定をどのように高血圧の診断や治療に応用すべきなのかを議論します。
●キーノートレクチャー 「高血圧学会関連臨床試験からのメッセージ」
高血圧領域ばかりではなく他の領域でも日本が世界のなかで非常に遅れている分野であるヒトを対象とした「臨床試験」を外国に負けないで行なうことを目的として高血圧学会が支援するものの進行状況を紹介します。
●関連学会教育講演 「メタボリックシンドロームの診断と分子機構」
高血圧、肥満、中性脂肪異常、血糖値異常が動脈硬化性の病気に非常に関係していることが注目されています。この関係の新しい診断基準やその機序を講演していただきます。
脳卒中二次予防・利尿降圧薬巡るディベートも
表1に示した以外にもディベートでは脳卒中二次予防(一度発症した方がその後再発するのを防ぐ)には利尿降圧薬を使うべきかどうかを議論します。利尿降圧薬(利尿薬、利尿剤とよばれることが多いようです)は尿の量を多くして血管内の水分と塩分を少なくすることにより血圧を下げることを目的とする薬剤で、(1)サイアザイド系利尿薬およびサイアザイド類似薬、(2)カリウム保持性利尿薬(アルドステロン拮抗薬)、(3)ループ利尿薬に分類することができます。利尿降圧薬は降圧効果が比較的良好で、安価であることより使用されていましたが、代謝面(血糖−糖尿病、尿酸−通風や高尿酸血症、高脂血症)での問題があるためわが国では併用薬として使われることが多くなっています。しかし、近年、外国での「ヒト」を対象とした大規模試験でサイアザイド系薬剤が有用であることが発表されたり、カリウム保持性利尿薬であるスピロノラクトン(アルダクトンA)が重度の心不全を有する患者さんの転帰を改善するという結果が報告されるようになり注目されています。これらの利尿降圧薬が脳卒中の予防に有用であるという報告が最近ありましたが、利尿作用により血液濃縮がおこり脳卒中の発症が増える可能性があり、その使用を心配する考え方もあります。この点について脳卒中を起こした患者さんに接する機会の多い神経学会の専門家と高血圧学会の専門家が議論するこのディベートは注目を集めそうです。
また、旭川市旭山動物園副園長の坂東元氏には「旭山動物園の再生−伝えるのは命の輝き」というタイトルで特別企画での講演をしていただき、高血圧学会会員に旭川発の情報を届けようと思っています。国際セッションおよび併催する第7回日中高血圧シンポジウムでは経済発展著しい中国からの研究者が大勢で参加される予定で、高血圧研究の国際化に貢献できればと考えています。会期中、今年設立された「高血圧協会」の発足式や優秀な若い研究者を表彰する式(ヤングインベスティゲーターズアウォード)も開かれる予定です。以上、第28回本総会が高血圧研究の推進、普及に大いに寄与できればと念願しております。皆様のご参加をお待ちしております。