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高血圧診療の新しいガイドライン
日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019について(前編)
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北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学
岩野 弘幸 氏
現在、日本の高血圧人口は4300万人と推定されており、実に国民の3人に1人が、成人に限れば5人に2人以上が高血圧をお持ちであるということになります。しかし、そのなかで高血圧の治療を受けられているのは2500万人程度で、そのうち良くコントロールされているのは1200万人とされています。
そして約1800万人の方は、自分が高血圧であることを知らないか、知っていても何らかの理由で治療を受けていないと推定されています(図1)。2019年に日本高血圧学会が刊行している高血圧治療ガイドラインが5年ぶりに改定されました。そこで、本稿では、前編と後編にわけてガイドライン改定のポイントを解説します。● なぜ高血圧を治療しなければいけないのでしょうか?
血圧が高くても、ほとんどの人は自覚症状がありません。しかし、高血圧を放っておくと血管が傷んで脳梗塞や心筋梗塞などの脳心血管病を起こしてしまいます。日本は世界でトップの長寿国ですが、自立した生活が送ることができる健康寿命と、平均寿命の間には大きな隔たりがあり、この主な原因となっているのが、脳血管疾患や心疾患などの高血圧に関係した疾患であることが指摘されています(表1)。
したがって、高血圧をしっかりと治療して、これらの疾患を予防していくことが健康寿命の延伸につながります。さらに、脳卒中や心血管疾患等の循環器疾患は、悪性腫瘍とならんで日本人の主要な死因となっています。私たちが健康な生活を送っていくのには、高血圧の治療を適切に行っていく必要があり、このような現状から、政府は2018年に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(いわゆる脳卒中・循環器病対策基本法)を制定しました。●血圧の測り方
当然のことですが、高血圧は血圧の値から診断されるので、その測定は正しく行われる必要があります。血圧には、診察室で計測する診察室血圧と、診察室以外で計測する診察室外血圧があり、後者の代表的なものが自宅で計測する家庭血圧です。診察室では、カフを心臓の高さに保ち、安静座位の状態で1〜2分の間隔をおいて複数回測定することが勧められています。
従来は、水銀血圧計を用いた聴診法が行われてきましたが、「水銀に関する水俣条約」に従って2021年以降、水銀血圧計の製造と輸出入が禁止され、メンテナンスができなくなることから、今回のガイドラインから「水銀血圧計は使用すべきでない」とされるようになりました。
聴診法で測定する場合は電子圧力柱血圧計またはアネロイド血圧計が用いられますが、バネ式アネロイド血圧計は原理的に衝撃や経年劣化で誤差が生じやすいため、使用に際しては注意が必要とされています。
診察室血圧、家庭血圧ともに自動血圧計を用いる場合は、手首カフ式ではなく上腕カフ式の血圧計の使用が推奨されています。そして、家庭血圧は、起床後1時間以内や就寝前の時間帯に1〜2分の安静座位の後で、原則2回計測し、その平均を記録することが勧められています。家庭血圧は、診察室血圧よりも信頼性・再現性が高く、脳血管障害や標的臓器障害との関連が強いことが多くの研究で報告されたことから、両者の差がみられる場合は家庭血圧による診断が優先されています。