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高血圧の新しい治療方針
ー高血圧治療ガイドライン2 0 1 4 ー(後編)
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札幌医科大学医学部 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座
准教授 三木 隆幸氏
3 糖尿病を合併する高血圧
糖尿病合併高血圧患者さんの血圧目標は、従来通り130/80 mmHg未満です。使用する薬剤はACE阻害薬、ARBが第一選択薬となります。140/90 mmHg以上の患者さんでは、減塩や適度の運動といった生活習慣の修正とともに、薬を開始して130/80 mmHg未満を目指します。血圧が130〜139/80〜89 mmHgの患者さんは、まず生活習慣の修正を行って血圧が低下するかを3ケ月間経過観察します。130/80 mmHg未満を達成できない場合は、薬を開始することになります(図3)。
欧米では糖尿病患者さんの降圧目標を140/90 mmHg未満に緩和する傾向にありますが、これはACCORD-BP(2型糖尿病合併高血圧患者を対象とした大規模臨床研究)などの13の臨床試験を解析した結果、心筋梗塞などの心疾患が130/80 mmHg未満まで厳格に低下させても有意な予防効果が認められなかったことによります。しかし、脳卒中の発症は血圧を厳格にコントロールしたほうが有意に低下していました。欧米では心疾患の発症が圧倒的に多いために血圧目標が緩和されましたが、日本では糖尿病患者さんにおいても脳卒中の発症が心筋梗塞よりも多いことから、より厳格な130/80 mmHg未満が目標値となっています。
糖尿病患者さんの血圧コントロールは、単剤でのコントロールが困難なことが多いことも知られています。そのため、薬が増えることがありますが、肝心なのはしっかりと血圧をコントロールすることです。合剤(2つの成分が1つの錠剤に含まれる)などを使用するのも良いかもしれません。また、起立性低血圧を認める(立ち上がった時にふらつく)こともありますので、座位に加えて、臥位・立位での血圧を測定することも大切です。4 高齢者における高血圧
我が国は平成23年において65歳以上の高齢者人口が全体の23.3%、75歳以上の人口も11.5%であり高齢者社会を迎えています。高血圧は加齢とともに増加することが知られ、65〜74歳の66%、75歳以上の80%が高血圧に罹患しています。ガイドラインでは65歳〜74歳の降圧目標は、140/90 mmHg未満、75歳以上の降圧目標は、150/90 mmHg未満とし、忍容性があれば積極的に140/90 mmHg未満を目指すとなっています。
しかし、高齢者は一般に多くの病気を合併していることが多く、同じ年齢であっても身体を調節する機能の個人差が大きいことが知られています。したがって、年齢によって一律に区分することには注意が必要で、患者さん個人の病状にあった治療が望まれます。また、血圧値の目標達成に際して、ゆっくり下げていくことも大切です。一般的に常用量の1/2量から開始しますが、開始時には、めまいや立ちくらみなどの脳の虚血症状や、胸痛などの狭心症症状がでないかを注意する必要があります。
高齢者でも減塩は治療の基本ですが、過度の減塩は発汗時などに脱水の誘因となること、極端な味付けの変化により食事摂取量が低下して低栄養の原因となる場合もあるため、注意が必要です。また適度な運動は血圧管理ばかりでなく、「ロコモティブシンドローム(運動器の障害による要介護の状態や要介護リスクの高い状態)」の予防にも有効です。しかし、高齢者の場合、狭心症や心不全、骨関節疾患などを合併している場合が多いので、運動療法の開始にあたっては主治医とよく相談することが大切です。
5 終わりに
「高血圧治療ガイドライン2014」では、家庭血圧の評価、合併症(脳、心、腎、糖尿病、妊娠)を有する高血圧、年齢による降圧目標などの変更がありました。2回の連載でそのポイントについて解説いたしました。
高血圧は症状が出ることが少ないために「病気」として捉えられにくく、治療せずに放置したり、途中で治療を止めてしまう方もいます。高血圧が動脈硬化をおこす強力な危険因子であることを理解していただき、将来の脳卒中、心臓病、腎臓病の発症を予防するために、早期発見や適切な治療がなされることを期待します。