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高血圧の新しい治療方針
ー高血圧治療ガイドライン2 0 1 4 ー(前編)
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札幌医科大学医学部 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座
准教授 三木 隆幸氏
現在、我が国では30歳以上の男性の60%、女性の45%が高血圧と判定され、実にその人口は約4,300万人と推定されています。このように頻度の高い高血圧の治療指針として、2000年に初めて「高血圧治療ガイドライン」が作成され、統一した指針に基づいた患者指導・日常診療が開始されました。その後の高血圧治療に関する研究の進歩に伴い改定を重ねてきましたが、2014年4月に第4版となる「高血圧治療ガイドライン2014」が発表されました。高血圧は、糖尿病、脂質(コレステロール)の異常、喫煙などとともに、動脈硬化をおこす危険因子として知られており、脳卒中、心臓病、腎臓病の強力な原因疾患となります。本稿では高血圧と動脈硬化性疾患の関わりと治療について、ガイドラインで変更されたポイントを中心に2回の連載で解説いたします。
1 高血圧と脳卒中、心臓病
高血圧は心血管病(脳卒中および心臓病)の最大の危険因子です。図1は我が国おいて感染症以外で亡くなった原因(病気)の発症を高める危険因子の割合を示したものです。喫煙と高血圧が死亡の原因として重要ですが、なかでも心血管病の原因として高血圧が一番であることは明らかです。
1960年代、我が国は世界で最も脳卒中による死亡率が高い国の一つでした。
減塩指導など高血圧の管理によってその死亡率は低下してきていますが、依然欧米と比較すると脳卒中の死亡率は高い水準です。
また、食生活習慣の変化から肥満患者さんが増加し、心筋梗塞や心不全などの心臓病による死亡率も高くなってきています。これらの心血管病死亡のリスクは血圧の値と有意な関連があることが(血圧が高いほど心血管病で亡くなる患者さんが増加する)明らかですので、高血圧の早期診断、治療は非常に重要です。2 血圧の測定法
高血圧と診断するには正確に血圧を測定する必要があります。病院の外来で医師、看護師が測定する診察室血圧と、自宅で患者さん自ら測定する家庭血圧があります。その他に、自動血圧計を用いて15-30分間隔で24時間にわたって血圧を測定し(ABPM)、一日の血圧変動をみることも可能です。
今回のガイドラインでは、高血圧の診断において家庭血圧の重要性が強調されています。すなわち、診察室血圧と家庭血圧に差がある場合は、家庭血圧による高血圧診断を優先することが明記されました。そこで、家庭血圧の測定方法について説明いたします(図2)。
家庭で用いる血圧計として、上腕用、手首用に加え、最近は指用も市販されていますが、学会では上腕用を推奨しています。指用は不正確なことが多く、また、手首用も人によっては動脈の圧迫が難しく血圧測定が不正確になることがあるためです。既にこれらの測定器を購入している場合には、正確に測定できているかを判断する必要がありますので医師に相談してください。
次に、測定する時間ですが、起床後1時間以内と就寝前の2回、いずれも排尿をすませ、1−2分間の安静の後リラックスした状態で測定することが大切です。血圧は食事により変動しますので(食事中は上昇し食後は低下することが多い)、朝食前に測定するのが望ましいとされています。測定回数は1機会につき2回測定しその平均を血圧値として用いますが、測定された値はすべて記録することが推奨されています。また、1機会に多くの測定回数を求めると継続性が低下しますので、1機会に4回以上測定することは勧められていません。測定値に一喜一憂せず、できるだけ長期間測定することが肝要です。