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高血圧の新しい治療方針
ー高血圧治療ガイドライン2 0 1 4 ー(前編)
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札幌医科大学医学部 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座
准教授 三木 隆幸氏
3 高血圧の診断
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我が国を含めた世界のガイドラインのいずれにおいても140/90mmHg以上を高血圧とすることは共通です。診察室血圧140/90mmHg未満は正常域血圧であり、その中の亜分類として、至適血圧(120/80mmHg未満)、正常血圧(120-129/80-84mmHg)、正常高値血圧(130-139/85-89mmHg)と表記することとし、正常域血圧と正常血圧の定義に誤解が生じないようになりました(表1-1)。120/80mmHg未満の至適血圧と比べると、正常血圧、正常高値血圧の順に心血管病の発症率が高いことや、正常血圧、正常高値血圧の患者さんは生涯のうちに高血圧へ移行する確率の高いことが明らかにされています。
家庭血圧では135/85mmHg以上が高血圧の基準値であり、135/85mmHg未満を正常域血圧とし、125-134/80-84mmHgは正常高値血圧、125/80mmHg未満を正常血圧と定めました。診察室血圧から収縮期、拡張期血圧とも5mmHgを引いた値が家庭血圧の診断基準に相当します(表1-2)。
高血圧の診断手順を示します(図3)。
健康診断や家庭血圧で血圧高値を指摘された患者さんが病院やクリニックを受診すると、診察室で血圧を測定すると同時に、患者さん自身が測定した家庭血圧の結果をクリニックに持参するか、あるいは医師の勧めにより治療開始以前に家庭血圧を測定することが多くなります。家庭血圧の高血圧診断基準は前述したように確立されていますので、高血圧は患者さんの診察室血圧及び家庭血圧のレベルによって診断されます。この際、両者に差がある場合は、家庭血圧による高血圧の診断を優先します。それは家庭血圧の方が診察室血圧よりも、心血管病の発症や生命予後の予測に有用であるという成績が示されているからです。
また、診察室血圧と家庭血圧を診断に用いることで、白衣高血圧、仮面高血圧の診断と治療へ応用することができます。白衣高血圧は、家庭血圧は正常域であるのに、病院やクリニックで測定する診察室血圧が高血圧である場合を言います。白衣高血圧は家庭血圧も高い持続性高血圧と比較した場合、臓器障害は軽度で心血管予後も比較的良好であることが知られています。しかし白衣現象も必ずしも良性というわけではなく、将来、持続性高血圧に移行して心血管イベント(心血管系の病気)のリスクになることがあることから、注意深く観察する必要があります。
一方、仮面高血圧は、診察室での血圧が正常域血圧であっても、診察室外の血圧が高血圧を示す状態です。仮面高血圧の患者さんでは、高血圧による臓器障害や心血管イベントのリスクが正常域血圧や白衣高血圧と比較して必然的に高く、持続性高血圧患者さんと同程度であることが知られています。仮面高血圧の患者さんでは、通常の朝・晩の血圧測定に加え、昼間の時間帯の測定やABPMを用いた血圧変動の測定を行うことが望ましいと考えられています。![]()
4 降圧目標
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一般的な降圧目標は140/90mmHg未満で、今までのガイドラインとは変わりませんが、一部の患者さんでは目標値が変更となりました(表2)。
まず、若年者・中年者では、ガイドライン2009における目標値130/85mmHg未満から140/90mmHg未満に変更となりました。これは今までのガイドラインにおいて、降圧治療の開始基準と降圧目標にずれがあったのを修正したことによります。臓器障害を伴うことが多い後期高齢者では、150/90mmHg未満が降圧目標となりました。症状や検査所見の変化に注意して慎重に降圧治療を進めることが必要ですが、後期高齢者においても最終的な降圧目標は140/90mmHg未満となっています。
このように、若年・中年者、後期高齢者では目標が緩和されたように見えますが、良好に血圧コントロールができている患者さんの血圧をあえて高くする必要はありませんので、注意が必要です。
心筋梗塞後の患者さんの目標は130/80mmHgでしたが、今回のガイドラインでは、心筋梗塞後や狭心症など冠動脈疾患を合併している患者さんの目標は140/90mmHg未満となりました。
一方で、心血管病のリスクが高い糖尿病合併患者さん、蛋白尿陽性の慢性腎臓病患者さんでは130/80mmHg未満を降圧目標としています。
年齢による降圧目標と合併疾患の存在による降圧目標が異なる場合には、まずは年齢による目標値の達成を原則とし、忍容性(薬の副作用に耐えられる程度)があれば合併症の存在によって設定された低い降圧目標を目指すことになります。例えば80歳の糖尿病患者さんの場合は、まず150/90mmHg未満を達成し、そのうえで臓器障害などに注意しながら130/80mmHg未満を目指すことになります。
高血圧治療には、減塩、適度な運動といった生活習慣の修正が重要で、さらに降圧薬を使用して血圧管理を行うことになります。合併疾患の有無による降圧目標の差異、具体的な治療法、二次性高血圧(ある特定の原因により生じる高血圧)などについては、次回解説したいと思います。

