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脳卒中ガイドライン2009─後編
〜血液をサラサラにする薬の話〜
(2−1)
旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野
片山 隆行氏
はじめに
(ア)アスピリン前回は脳卒中の予防について取り上げました。(@高血圧、A糖尿病、B脂質異常症、C心房細動、D喫煙、E飲酒、のほか、F睡眠時無呼吸症候群、Gメタボリックシンドローム、H慢性腎臓病)
今回は脳卒中になってしまった後の再発予防について取り上げたいと思います。脳卒中後は上記の高血圧などはより厳格に治療する必要があります。更に、脳梗塞の場合は再び血管が詰まらないようにする必要があります。このために薬によって血液をサラサラにする治療が通常行われています。代表的な薬はアテローム血栓性脳梗塞(血管が動脈硬化を起こして詰まるタイプ)の場合は、
(ア) アスピリン
(イ) クロピドグレル・チクロピジン
(ウ) シロスタゾール
が用いられています。これらの薬は欧米でも広く認められています(表1)。
また、脳塞栓症(血管に血の塊が詰まるタイプ)の場合は
(エ) ワルファリン
(オ) ダビガトランが用いられています。これらの薬の効果については豊富なデータによって実証されています。以下、順に説明していきます。
(イ)クロピドグレル・チクロピジン古くからよく使われている薬です。もともとは消炎鎮痛剤として開発された薬ですが、少量使うことで血液をサラサラにする作用があります。安い薬である点も長所と言えるでしょう。注意点としては胃粘膜を傷害することがあるため、予め胃薬と併用したりします。また、気管支喘息の患者さんでは喘息発作を誘発することがあるため気を付ける必要があります。また、アスピリンにアレルギーがある方は原則的に使用できません。
(ウ)シロスタゾールクロピドグレルには血小板に作用して血液をサラサラにする作用があります。以前はこれと同等の薬剤としてチクロピジンという薬がありましたが、クロピドグレルの方が肝障害などの副作用が少ないため、こちらの方が広く用いられるようになりました。
(エ)ワルファリン血液をサラサラにする作用があるだけでなく、血管を広げる作用もありますので、脳血管に狭窄がある患者さんに合っています。但し、血管を広げる作用のためか、頭痛が出現することがあります。薬を減らすか中止することによって症状は取れます。また、心臓の脈拍を増やす作用がありますので、人によっては動悸を感じることがあります。
(オ)ダビガトラン心房細動によって脳梗塞(脳塞栓症)になってしまった場合には第1に選ばれる薬です。脳卒中の再発を60%以上抑える効果があります。薬の効き方には個人差がありますので、血液検査で定期的にチェックする必要があります。
PTINRという値を見て調節するのが標準的ですが、通常PTINRが2.0〜3.0になるように薬の量を加減します(高齢者では1.6〜2.6程度の穏やかなレベルにします)。
この薬は納豆・ほうれんそうなどによって薬の働きが中和されてしまうので、この薬を飲んでいる方は納豆・ほうれんそうは食べてはいけないことになっています。これらの食品にはビタミンKが豊富に含まれており、これがワルファリンの作用を中和してしまうのです。クロレラ・青汁などによっても影響を受ける可能性がありますので注意しましょう。また、他の薬の影響を受けて薬の効き具合が変わりやすいため、他の病院を受診したときにはこの薬を飲んでいることを医師に告げて下さい。
この薬は登場して間もないため2009年のガイドラインでも簡単に触れられているのみですが、2011年から使えるようになります。心房細動によって脳梗塞(脳塞栓症)になった方やその危険が高い方に適しています。これまでは、脳塞栓症になった場合の再発予防にはワルファリンが推奨されていましたが、前述の通り、定期的に血液検査をしなければいけない点や、納豆・ほうれんそうを食べてはいけないこと、他の薬の影響を受けて薬の効き具合が変わりやすいなどの欠点がありました。ダビガトランは血液検査で効き具合をチェックする必要がないという長所があります。効果はワルファリンと同等以上とみられています。
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これらの薬は主治医の先生の指導の通りにきちんと飲んで下さい。薬を自分で調節すると、薬が効かなくて血管が詰まりやすくなったり、逆に効きすぎて血が止まりづらくなるなどの危険があります。