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高血圧のガイドライン2009 臓器障害を合併する高血圧の治療
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手稲渓仁会病院 総合内科部長
浦 信行
はじめに
脳血管疾患を合併した高血圧の 降圧薬治療開始基準、降圧目標値わが国の高血圧患者は4000万人と推定されている。高血圧は動脈硬化の危険因子であり、動脈硬化を発症・進展させ、脳・心・腎に臓器合併症を発症する。国民衛生の動向では脳血管疾患、心疾患、腎不全による死亡は全死亡の約30%と、悪性新生物と同程度であり、高血圧はとりわけ厳密な管理を必要とする。健康日本21では収縮期血圧(SBP)の2mmHgの低下で図1のように多くの脳卒中、虚血性心疾患の発症予防、予後改善を図ることが出来る。腎合併症の発症・進展阻止に関しては多くのエビデンスがあり、今回の改訂で本質的な変更はない。脳血管疾患と冠動脈疾患に関しては降圧目標値を含めて一部の改訂が行われた。この点につき解説する。
脳血管疾患合併高血圧の降圧療法は、通常発症1ヶ月以降の慢性期から開始する。降圧目標へは、年齢などを考慮しながら、治療開始後1−3ヶ月かけて徐々に降圧する。
脳血管疾患の2次予防効果を評価したPROGRESS研究では、平均年齢64歳の患者群に対して、従来の治療に加えてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬や利尿薬を追加投与し、血圧を147/86mmHgから138/82mmHgに低下させると、再発が28%抑制されると報告した。さらにそのサブ解析では図2のようにSBPが120mmHgくらいまで低くコントロールされた群ほど、脳出血、脳梗塞の発症率が低いと報告した。2007年のESH-ESCガイドライン(欧州)では、PROGRESS研究の結果を重視して、脳血管障害慢性期患者の降圧目標として130/80mmHg未満を推奨している。しかし、主幹動脈の閉塞や高度狭窄があるような場合には、この数字をそのまま当てはめるわけにはいかないと考えられる。Rothwellらは、一側性の70%以上の頸動脈狭窄ではSBPが140mmHgまで低下しても、図3のように脳血管障害リスクは増加はしなかったが、症候性の両側の頸動脈が70%以上狭窄している例は2−3%居るが、そのような例ではSBPが140mmHgまで低下した群は脳血管障害のリスクはむしろ有意に増加したと報告した。従って、JSH2009では両側内頚動脈高度狭窄例や主幹部閉塞例を除いて、140/90mmHg未満とするのが妥当との見解となった。