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動脈瘤、といわれたら
札幌医科大学外科学第二講座 森下 清文さん
現在、動脈瘤と呼ばれているものには二つのタイプがあります。一つは血管の壁が裂ける病気で大動脈解離と呼ばれるものです。この病気は発症時にかなりの激痛が伴いますので救急病院にかかり、その後は専門医の元で治療を受けることになります。国民的スターであった石原裕次郎さんが緊急手術をしたことで有名です。もう一つは真性大動脈瘤と呼ばれるもので血管の径が拡大して破裂に至る病気です。通常、破裂するまで症状はありませんので、他の病気のために撮影されたCTやレントゲン写真で発見されることが大半ですが、一旦破裂すると命にかかわります。
大きい瘤ほど破裂しやすい
どちらのタイプの動脈瘤も放っておけば死につながる危険性のある病気ですから、瘤が大きくなった時や痛みが伴った時には早めの対応が必要です。例えば、皆さんもゴム風船をふくらませた経験があると思いますが、最初、膨らませるにはかなりの労力を必要としますが、ある程度の大きさを越えると少し空気を入れただけですぐ膨らみ割れてしまいます。同じように動脈瘤も小さなうちはなかなか破裂しませんが、大きいものほど破裂しやすいということを理解していただけるでしょう。
直径5cm以上が治療開始の指標
動脈瘤は直径が5センチを越えると一年以内に破裂する確率は約7%、5年後には約35%(3人中1人)は破裂し、6センチを越えると約15%、5年後には約75%(4人中3人)が破裂するとされています。しかしこれは体格の大きな欧米人の研究を基にしたものですので、日本人にすぐあてはめることはできません。身長が170センチの人と190センチの人では動脈瘤の大きさが同じでも身長の低い人のほうが、割合として大きいからです。ですから当施設では直径5センチ以上を治療開始の指標として考えています。つまりそれ以下であれば、降圧薬で血圧を下げ、禁煙を守っていればそれほどあわてる必要はないでしょう。しかし拡大はいつ始まるか解らないので循環器外科医や循環器内科医に定期的に受診することが大切です。
わがままをお薦めします
このように対応をきちんと行えば、問題のないことが多いのですが、動脈瘤の部分に痛みが出てきた場合は早急な治療が必要です。例え真夜中であろうが、すぐに治療のできる病院(循環器医のいる病院)に行くことが重要です。『こんな時間に病院に行ったら迷惑をかける』とか、『ぎりぎりまで我慢しよう』と思ってしまう人が手遅れになって命を落とすケースを沢山見てきました。ですから私は外来にかかっている患者さんに常日頃から、こと動脈瘤に関してはわがままになるよう薦めております。痛みがでたら迷わず病院に行くことです。
体の負担が少ないステント治療
動脈瘤治療は長い間、瘤を切り取って人工血管という丈夫な管に置き替える治療法が主流でした。医療の進歩に伴い以前に比べると格段に安全に手術が行えるようになってきましたが、体に負担がかかることは事実です。しかし、近年ステント治療という従来の治療に比較すると数段負担の少ない治療方法が開発されてきました。これは金属バネの外側に人工血管を縫い付けたステントグラフトというものを作成し、これを直径7ミリ、長さ1メートル弱のチューブの中に詰め込みます。ステントグラフトはバネでできているため畳むとこのような細い管の中にもきちんと納めることができます。股の付け根の血管を5センチほど出して、そこからこのチューブを入れ、レントゲンを見ながら動脈瘤のある場所まで進めてゆきます。そして動脈瘤のある場所でステントグラフトを押し出すとバネの力で人工血管は広がり、血液は新たなトンネルとなった人工血管の所だけを流れていきます。左側の写真に映っていた動脈瘤(卵型に飛び出している部分)はステントグラフトを広げた後の右の写真では映っていません。治療後、血液は動脈瘤には流れ込まないので、血圧がかからなくなり、破れる危険性もかなり低くなるというわけです。2004年に当施設で治療した動脈瘤の数は146例ですが、その内70例はステント治療を行いました。色々な制約があるため全症例にこのステント治療が行えるわけではありませんが、これが可能な患者さんは術後一週間で自宅退院ができますので非常に体の負担が軽減します。最高年齢98歳の方がこの治療を受けられ元気にしております。
ゴルフ、ボーリング、雪かき…ご用心
従来、動脈瘤は非常にまれな病気で当施設では1959年から1982年の23年間で150例の患者さんを治療しました。しかし最近ではほぼ同数の患者さんを1年間で治療しなければならなくなっています。この背景には食生活の欧米化、喫煙、平均寿命の延長などが考えられます。動脈瘤を防ぐためには生活習慣を改めるとともに破裂につながりやすい、ゴルフ、ボーリング、雪かきなどを避けることが重要です。

