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NO.5 |
動脈硬化を防ぐ
DHA 青背の大衆魚に多い
藤女子大教授 栗村 幸雄
油脂類
私たちが毎日食べている油脂類は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸から出来上がっております。さらに不飽和脂肪酸はn−3系列のα−リノレン酸、エイコサぺンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、n-6系列のリノール酸、γ(ガンマー)−リノレン酸、n−9系列のオレイン酸などが含まれております。α-リノレン酸はEPAに転換され、さらにDHAに転換されます。今回はこのDHAについて説明をいたします。
疫学調査でエスキモーに動脈硬化が極めて少ないことや、血栓症や脳梗塞とDHAが強い相関があることが報告されております。日本では食生活が欧米化して乳肉製品を多くとるようになり、魚をあまり食べなくなりました。これと並行して大腸ガンや乳ガンが増加の気配をみせてきており、研究者の中で魚の脂肪の中に大腸ガンを押さえる物質が含まれているのではないかとの考えに立ってDHAの研究が進められるようになりました。さらに最近になって、糖尿病、免疫の分野でも大きな効果があることが判明しました。
DHAの機能と効能
(1)血清脂質改善作用
DHAは血中の中性脂質と低脂肪リポタンパクコレステロール(悪玉コレステロール)を低下させ動脈硬化を予防する作用があります。特に水産物の不飽和脂肪酸にDHAが多く含まれているため、これがコレステロールを調節し動脈硬化を防ぐ役割を果たしております。血栓性の疾患の予防にはn−3系列の油脂(紫蘇油、魚油)が適していると言われる理由もこうした根拠によるものです。
(2)インスリン作用不足の予防
インスリン受容体の感度高進や低脂肪リポタンパクコレステロールの産生低下が抹梢組織でのブドウ糖の利用率を向上させるので糖尿病の予防に役立ちます。
(3)抗腫瘍作用
プロスタグランジンE2という発ガンを促進させる作用をもつ物質があり、これは生体内でサイクロオキシゲネースという酵素の活性によって合成されますが、DHAはこの酵素の働きを抑える作用があることから、ガンの発生を抑える物質ということになります。特に、アラキドン酸由来のブロスタグランジン合成を抑制する作用が大きいことから、胆汁酸合成と関係が深い大腸ガンや乳ガンなど欧米に多いガンの予防に効果が期待されております。
(4)抗炎症作用
白血球の仲間にマクロファージ(大食細胞)というものがあって細菌やガン細胞などを攻撃して増殖や転移を抑える働きがありますが、DHAはマクロファージの働きを活発にさせるほか、体内免疫能を低下させると言われているプロスタグランジンE2と言う物質がアラキドン酸から産生される反応を抑える働きがあります。
DHAの摂取
高級魚でなく、比較的安い大衆魚である青背の魚の油や目玉のうしろなどに多く含まれており、極端に摂取し過ぎない限り副作用はないといわれております。
成育初期にこれを多く含んだ食物を与えると、学習能力が増えるという報告もありますが、さらに研究を重ねる必要がありそうです。
要するに私たちは栄養素として脂肪を摂取する際に、n−6系統の動物性脂肪酸を選ぶか、DHAの多いn−3系統の植物性油脂(魚油も含む)を選ぶかが重要なポイントになります。第五次改定日本人の栄養所要量では脂肪エネルギー比率は成人で20〜25%に、そしてn−6系脂肪酸とn−3系脂肪酸の望ましい摂取比率は4対1としています。


