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食物繊維
コレステロールを排出 大腸ガンの発生も抑える
藤女子大学 教授 栗村 幸雄
食物繊維とは
注目される食物繊維食物繊維という言葉を耳にすると、ゴボウやサツマイモの筋、豆の外皮などを想像しますが、このほかに繊維はわずかですが、魚や乳製品にも含まれています。またコンニャク、果物などに含まれるネバネバや、ドロドロした成分は水溶性の食物繊維で出来ていることは意外に理解されていません。
食物繊維は摂取されてもヒトの小腸内ではこれを分解する消化酵素を保有していないため、体内で消化、吸収されずに便として排泄されるだけの物質であることや、大腸にたどり着いてはじめて腸内細菌によって分解され腸内環境の保全に役に立っている程度であることなどから、この不足には栄養学的にあまり関心が持たれておりませんでした。
食物繊維の生理作用と効果最近になって食物繊維に対する研究・調査が進むにつれ、発ガンの抑制、虚血性心疾患や糖尿病の発生を抑えるのにも役立っているのではないかとの考えが注目されるようになりました。特に欧米で急速に増加の傾向を示している大腸ガンによる死亡率は、穀物、すなわち食物繊維の消費の少ない国では高いという、逆の相関関係にあることを示す疫学的な研究の発表がその背景にあったとも言えます。
しかし、この研究は必ずしも発ガン抑制のメカニズムを明確に証明しているものでもなく、なお一層の研究調査が期待されているところであります。
食物繊維の必要摂取量食物繊維の生理作用と期待される効果を挙げれば次のようになります。
(1)排便を促進する。(2)満腹感を与える。食物繊維が多いと当然、糞便の量が多くなります。このことは内容物の腸内滞留時間が短縮されることにつながり、食べ物とともに体内に入った発ガン物質が発ガン作用を起こすいとまも無く糞便とともに体外へ排泄されることや、腸壁に付着している発ガン物質が糞便によってはがされてしまうことなど、これらが発ガン抑制につながるのではないかと考えられる所以(ゆえん)であります。
(3)血糖の上昇を抑える。食物繊維はダイエタリーファイバーと言われておりましてダイエットを目指す人には大変有用であります。最近テレビのコマーシャルにもこの種のスポットが多くなってきております。
(4)コレステロールや胆汁酸を吸着・排泄する。食物繊維はドロドロした粘度が高い溶液になっているので胃腸内の滞留時間が長くなり、この分小腸での消化・吸収が遅れることになります。このことは血糖の増加速度が遅れることを意味し、インシュリンの分泌もわずかで済ませることができ、糖尿病に悩む人々にとっては大変心強い味方になってくれます。
(5)善玉の腸内細菌を増やす。コレステロールが血管壁に付着して動脈硬化を起こすことは周知の通りですが、コレステロールが腸壁から吸収される前に水溶性の食物繊維はこれを吸着、排泄してしまいます。また胆汁にもコレステロールが多量に含まれており、胆汁酸が腸内細菌の作用で発ガン作用のある物質に変化すると言われておりますので、体内のコレステロールを抑制する食物繊維は虚血性心疾患やガンの抑制にも効果が期待されることになります。
腸内にはいろいろな腸内細菌が繁殖しており、この中にはビフィズス菌やビタミンB1、B2、K、ナイアシン、葉酸などを合成している有用な菌もあり食物繊維を餌としております。
このほかに免疫を強めたり、外部から侵入する腐敗菌や化膿菌を撲滅する作用が認められております。
欧米人が和食を評価食物繊維に対しての関心が次第に高まって来たことから、国は第5次日本人の栄養所要量の改定に際して初めて成人の1日当たりの目標摂取量を20〜25gと定めました。これは1,000Kcal当たり10gという目安になります。実際には1人1日当たりの平均摂取量は17g程度ですので若干不足している状況ではありますので、努力して摂取する必要があります。
各国の部位別ガンの年齢調整死亡率を比較するとヨーロッパ、アメリカでは肺ガン、大腸ガンが増加の傾向を見せており、日本では胃ガンが首位ですが年々減少をたどりつつあり、代わって肺ガン、大腸ガン、乳ガンの増加が気になってきました。戦後の食料事情が悪かったころは炭水化物中心の食生活で飢えをしのいできましたが、経済的に豊かになって肉類、乳製品を中心とする欧米型の食生活を取り込む家庭が多くなり、これと平行してガン死亡のパターンも変化してきたものと受け止めてよいでしょう。
最近、欧米の先進国から食物繊維の多い日本食に対して高い評価が寄せられつつあります。特に大腸ガンを予防するうえで日本食は大きな期待が持たれ、日本食ブームを招いているようです。私たちも日本という国にこんな素晴らしい食習慣が存在することを誇りとし、「何でも欧米に追従することは良いことだ」「グルメこそ最高の幸せである」との考えからそろそろ脱却していく心要がありそうです。
