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NO.28 |
日本小児循環器学会学術集会の報告
北海道大学病院小児科・医員
八鍬 聡さん
全国の循環器小児科医、小児循環器外科医が一堂に会して行われる日本小児循環器学会の学術集会は今年で41回目を迎え、7月6日から8日の3日間に渡り東京新宿で盛大に開催されました。
今回の学会でも様々な心疾患に対しての診断、治療などに関して、これまでの方法や新たな方法についての活発な議論がなされました。
さて、私の発表した内容ですが、皆さんは心臓の手術の中でフォンタン手術というのがあるのをご存じでしょうか。心臓には本来右心房、右心室、左心房、左心室と4つの部屋が存在しています。その中でも右心室と左心室は心臓に戻ってきた血液をまた心臓の外へ送り出すポンプの役割を担っています。いわゆる正常の心臓であれば全身から戻ってきた血液は全て右心房に入り、右心房から右心室というポンプの部屋へ移動した血液は一度心臓の外へと絞り出され肺へ向かいます。肺では呼吸で取り入れた空気の中から酸素を血液の中にいっぱい取り込んで、また心臓へ戻ってきます。肺から戻ってきた血液は左心房に入り、左心房から左心室というポンプの部屋に入ってきた血液はいよいよ全身へと送り出されます。
このように本来肺へ向かう血液と全身へ向かう血液はそれぞれ右心室と左心室という別々の部屋から送り出されます。しかし先天性心疾患の中には心室が左右どちらか一つしかない病気が存在します。そのような状況下では全身から戻ってきた酸素の少ない血液と、肺から戻ってきた酸素をたくさん含んだ血液が一つしかない心室で混ざり合ってしまい、全身へ送られる血液も酸素の含まれる量が少なく、いわゆるチアノーゼが現れてしまいます。
このような疾患を治療する方法がフォンタン手術です。すなわち全身から戻ってきた血液を心室に入らないように静脈あるいは右心房を肺へ向かう血管に直接つなげるのです。しかし、肺の血管には本来右心室というポンプの部屋から送り込まれるはずのものが、フォンタン手術後には右心室を介さずに血液を流さなければならないため、肺の血管の条件が重要なポイントとなります。
ところで、このような疾患の中にも肺の血管が元々細くなってしまっている場合もあります。肺の血管が細いことはそれ自体がフォンタン手術には不利な条件となるため、全身への血流の一部を人工血管で肺の血管へ流すような手術をフォンタン手術の前にすることもあります。
しかし、ここで注意しなければならないのが肺へ流れた血液は当然また肺から心臓へ戻ってきます。心臓へ戻ってくる血液が増えれば増えるほど心臓にかかる負担は大きくなってしまい、心臓は大きく拡大していきます。心臓が拡大すれば心臓の中の弁に逆流が生じ、また新たな問題が起きてきます。
そこで私たちは肺への血流が少ない場合にも、できるだけ肺血流を増やす手術は行わずに、すなわち心臓にできるだけ負担をかけないままフォンタン手術を目指そうというのが現在の方針であり、今回の発表の趣旨でもありました。
私たちの考え方にもまだまだ賛否両論があり、これからの経験の中でどのような方法がよいのかを見極めていかねばなりません。

