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アメリカ心臓病学会に参加して
旭川医科大学 第一内科 佐藤伸之さん
1998年3月29日から4月1日までの4日間、アメリカ心臓病学会(ACC:American College of Cardiology)主催の第47回学術会議がジョージア州アトランタで開催されました。この学会は毎年秋に開かれるアメリカ心臓協会(AHA)の学術会議に次いで大規模な循環器の学術集会で、AHAが基礎から臨床まで広い分野を対象としているのに対し、ACCは主として臨床をテーマとしている点で特色を出しております。今回私はACCで発表させていただく機会を得ましたのでここに学会の印象を述べさせていただきます。
地元ケーブルテレビが放送
アメリカでは心臓病患者が日本より圧倒的に多いため、一般大衆の心臓病に対する関心も高く、地元のケーブルテレビではACCハイライトという特集番組を設けて、その日のトピックスを放送しておりました。
そのうち循環器疾患におけるリスクファクター(危険因子)に関する話題で目を引きましたのは、閉経後の女性にホルモン補充療法を施行すると冠動脈疾患を予防しうるというものでした。循環器疾患には性差があり、女性は閉経前には冠動脈疾患が少なく、閉経以降増加することが知られておりましたが、それを裏付けるべくホルモン療法の有効性を示す報告がなされており、女性ホルモンが血管内皮機能を高め動脈硬化を抑制するとの報告もありました。
その他冠動脈疾患患者に運動・食事および脂質管理・教膏・ストレスの軽減などの系統的プログラムを盛り込んだライフスタイル修飾プログラムの有用性を示す報告や、冠動脈バイパス患者をLDLコレステロールを95mg/dlまで低下させた群と130mg/dlまで低下させた群に分けた場合,95mg/dlまで強カに低下させた群の方が冠動脈バイパスグラフトの長期開存度が良好であったとするコレステロール強化低下療法の有用性を示す報告、A型行動様式の患者はB型行動様式の患者に対して冠動脈の内皮機能が低下しており、動脈硬化や血栓形成が起こりやすいとする報告、怒りや敵意といった感情が冠動脈疾患のリスクファクターになり狭心症や心筋梗塞後の生命予後に悪影響を及ぼすこと、そして心臓リハビリや運動療法が怒りや不安、抑麓(うつ)といった感情を和らげ生活の質(QOL)を改善するばかりでなく肥満度、総コレステロール、HDLコレステロール等の数値を改善させ、冠動脈疾患の発生を予防するとの報告なども注目を集めておりました。
分子生物学や遺伝子診断の話題も
そのほか最近の臨床医学の進歩としまして、循環器疾患における分子生物学や遺伝子診断(高血圧や心筋症、突然死につながる不整脈疾患の遺伝子)の導入の話題、冠動脈狭窄部にステントという金属を挿入する最新の治療法と従来の風船療法(経皮的冠動脈拡張術)との比較、開胸を極力小さくし心臓を拍動させたままバイパス手術を行う小切開バイパス手術の長期成績の発表などがありました。
また高血圧の治療目標値をどこに設定するかという管理指針、第6次米国合同委員会報告(JNC−VI)では高血圧の治療目標値を140/90mmHgとし135〜140/85〜90mmHgの人もスーパーノーマルとして厳重に管理すること、外来血圧ばかりでなく家庭血圧も重視すること、ライフスタイルの改善の重要性や成人病危険因子を多く有する人に対する早期血圧治療の重要性などが盛り込まれておりました。
また、不整脈の分野の本学会におけるトピックスとしましては、カテーテルを用いた不整脈の根源に対する最新治療(経皮的カテーテル心筋焼灼術)に関する報告が多数なされておりましたが、日常臨床上最も頻度が高く脳梗塞の危険因子にもなり得る心房細動という不整脈に対する根治療法が今回特に注目を集めていたように思います。
そのほか外来で日常よく遭遇するめまいや失神といった訴えの中で、自律神経の関与する神経調節性失神の病態と治療法に関するシンポジウムも注目を集めておりました。
演題提出は日本が第2位
ACCには今回5969題の応募があり、そのうち約2300題が採択されました。演題提出数の第1位は当然アメリカ(44%)ですが第2位は日本でした。このことからも日本の循環器病学の研究に対する貢献度の大きさがうかがわれるかと思います。
一方でアメリカやヨーロッパでは大規模治療研究が盛んで、日本はこの分野では遅れをとっているのが現状です。研究機関と医療機関が共同して今後取り組むべき課題と思われました。
ACCの開催されたジョージアワールドコングレスセンターは、今回の大規模な学術集会を行うのにふさわしい巨大な会議場で、第一線の心臓専門医が全世界から集合しておりました。今回の学会に参加しまして循環器病学は年々専門、細分化され著しい進歩を遂げているということを改めて痛感いたしました。今回の貴重な経験を今後の日常診療に役立てるよう努力してゆきたいと思っております。
*北海道心臓協会は「研究開発調査助成事業」により佐藤氏に旅費補助を行いました。