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日本循環器予防セミナーに参加して
予防こそ治療の目標、未解決の問題は山積
北海道心臓協会は、循環器疾患の予防治療のための調査活動をする医療関係者に補助金支給を平成9年度から始めます。8年度は日本循環器病予防 セミナーに出席の札幌医大第二内科・高木覚医師に旅費補助をしました。以下は高木医師のレポートです。
私は、7月中旬に福岡市で間かれた第9回日本循環器病予防セミナー(日本循環器管理研究協議会主催、日本心臓財団後援)に参加した。日本の循環器疾患疫学研究の草分け的存在”久山町研究”の本拠地・福岡で臨床、疫学各分野の第一人者である先生方を講師とするセミナーに参加できたことは大変有意義だった。私は臨床医学に携わりつつ疫学研究を志し ており、予防医学が医学の中でいかに存在感のある学問であるかを痛感できたからだ。
生まれも育ちも北海道の私にとって七月中旬の福岡は学問どころではないかも知れぬと思いつつ、15日福岡空港に降り立った。想像通りの暑さで、 同日夕の開講式にたどり着いたときは全身汗まみれで、もうへとへとの状態だった。翌日から講義は始まったが、予想以上に堅苦しい雰囲気のスタート。このセミ ナーは約1週間、講師、受講生の隔てなく寝食を共にして過ごすのが慣例なので、果たしてやっていけるか不安になった。しかし、この日の歓迎 パーティーで、すっかり和み、その後は活発に質問、意見交換がなされた。
受講生は、北は北海道、南は沖縄と、まさに全国から集まった若手医師たち。 こんなにも熱心に予防医学に取り組む同士がいるのだとうれしくもなり、また心強くも感じた。
自分でいうのも変だが、循環器病予防医学というと、華やかさに欠け地味な印象 を持っていたが、日本の臨床医学、予防医学の第一線で活躍されている先生方 の熱心な講義を聞くと、予防医学が解決してきた事柄がいかに多く、今後解決しな ければならないことが山積みになっていることを実感した。先人たちはコレラ菌が発見される30年も前に、コレラが水系伝染病との概念を持 ち対策を打ち立てたという。疾病の原因(ある要因との因果関係)を考案して 、その発生を予防するのがまさに予防医学であると、私はこのセミナーで学んだ。 もちろん、その因果関係が既知の自然科学で合理的に説明できれば、それに越した ことはない。しかし、自然科学的に説得性に欠けるからといって因果関係を無視す ることはできない。
最近、分子生物学をはじめとして医学は目覚しく進歩し、高度医療の発展に寄与 しつつある。しかし、その一方で医学はその本来の目的である「ヒトの健康、 幸福の追求」からともすれば外れ、生命科学の深奥にのみ関心が寄せられがちな 傾向を危ぶむ声も少なくない。「人々の健康保持」を最終目標とする予防医学の 精神こそ、両者の間隙を埋めることができるものと思う。今回参加したセミナーは「循環器病医学」をテーマにしていた。厚生省死因統計 によれば、1981年以降、日本の死因の第1位は悪性腫瘍である。死因の第2位、 第3位は心疾患と脳卒中である。高齢化社会の到来を考えれば今後、日本の医療において脳卒中、心疾患といった循環器疾患の対策が、ますます重要になることは疑いの余地がない。
近年、循環器領域においても、高度医療技術の発達は目覚しく、かつては救命できなかった重篤な疾病も急性期をしのぎ、社会復帰させることも可能となってきた。 しかし、多くの患者はたとえ救命され得たとしても後遺障害を残したり、何らかの 制約を負っているのが現状である。予防と一体となった治療こそ、これからの医療 の目標と思っている。