NO.70 |
欧州腎臓学会・欧州透析移植学会
JR札幌病院 循環器・腎臓・糖尿病内科医
山下 智久氏
2015年5月28日から31日までの4日間の日程で欧州腎臓学会・欧州透析移植学会(ERA-EDTA)主催の年次学術集会がロンドン(英国)で開催されました。
この学会は腎臓領域に関する世界最大規模の学会です。腎疾患は高血圧を引き起こすことが知られており、かつ心疾患との強い関連(心腎連関)が強調されております。本学術集会では世界中から数多くの医師・研究者による基礎研究・臨床研究の最先端の報告に加え、さらに各分野の第一人者である研究者の講演や発表を聴講する機会を得ることができました。
この学会において私は、“原発性アルドステロン症(primaryaldosteronism:PA)を早期発見するためのスコアリングシステム”の疫学研究を発表させていただく機会を得ることができました。
PAは副腎からアルドステロンと呼ばれる昇圧物質が自律的に過剰に分泌することにより高血圧を引き起こす、二次性高血圧の代表疾患です。高血圧患者の10%程度に存在し、かつ本態性高血圧症と比較して心血管病(心筋梗塞や脳梗塞・心房細動などの不整脈)の合併が多いことが知られており、早期の発見が非常に重要であると考えられております。
一方、PAは古典的には低カリウム血症がその特徴として知られておりましたが、近年の疫学的検討ではPAの患者さんが低カリウム血症を呈する確率は9〜37%程度と非常に低いことが報告されており、早期発見が難しいと考えられています。
私はJR札幌病院に高血圧のため初診された無治療の患者さんの中で、本態性高血圧症と診断された患者さんとPAと診断された患者さんを比較し、すでに知られているPAの特徴(若年発症の高血圧・女性・中等症以上の高血圧症・低カリウム血症・代謝性アルカローシス・低尿酸血症・尿pHの高値の7つの因子)がどれくらいの診断予測能をもつかについて臨床疫学的な検討を行いました。
その結果として尿pHの高値と女性であることがPAの診断に強い影響を及ぼすこと、さらに尿pH7以上・女性・低カリウム血症(K<3.5mEq/L)の3者を組み合わせたPFKscoreは低カリウム血症単独と比較して有意差をもってPAをよく予測することを報告いたしました。
会場では多くの先生方から本研究へのご指摘やご助言をいただくことができ、日常診療を丁寧かつ科学的に継続することの重要性を再確認しました。また、他の研究者の報告から今後の日常診療へ還元すべき多くを学べた学会でした。
さて、英国は近代疫学の父であるジョン・スノウ(1883年にコッホがコレラ菌を発見する30年前に「汚染された井戸水を飲んでいる人はコレラに罹患する」ことを結論し、流行の蔓延を防ぐ事に貢献した医師)や『種の起源』の著者であるダーウィンなど多くの生命科学者を生んだ国でもあります。学会の合間には大英博物館やロンドン自然史博物館の見学をさせていただき、英国の歴史・伝統に触れ、先人の偉大な功績に思いをはせ、自らのモチベーションを高めることができました。
末尾になりますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました、一般財団法人北海道心臓協会に厚く御礼を申しあげ、結びとさせていただきます。