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NO.4 |
歩行・ウォーキング
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札幌市中央健康づくりセンター長 西島宏隆
今回は私が属している札幌市中央健康づくりセンターを受診する方々がどんな運動をしているのか、やっている運動と成人病・生活習慣病の危険因子との関係などについて約800人のデータを検討した結果について書いてみようと思います。そして特に運動の中でも一番ポピュラーな歩行・ウォーキングについて焦点を絞ってみました。
■運動の種類・頻度を調査
どんな運動をしているのか、どれくらいの頻度か、どのくらいの時間をかけているのかなどについては受診時の質問票からまとめました。また歩行については、買い物、通勤など生活の必要上の歩行と運動・健康のための歩行とにわけて調査しました。また歩行・ウォーキングといってもかなり程度に差がありそうです。ハイキング・山歩きなどは以前の調査結果からもかなり通常の歩行・ウォーキングとは違っていることがわかっているので別に扱いました。またゴルフについても別扱いにしました。そして歩行の時の運動強度を判定する試みとして次の質問を用意しました。「質問」運動でも仕事でも歩く時に、(A)速歩きすることがありますか(1.しない、2.時々、3.しばしば)。(B)坂道・階段などを上がりますか(1.しない、2.時々、3.しばしば)。
■強い運動ほど持久力高める
まず運動の種類と持久力との関係を示しているのが図1です。運動効果に関して総合的な健康度を表すものとしてここでは持久力(推定最大酸素摂取量)をとりました。これが将来の心血管疾患の発生率とよく関係した指標であることは今までたびたび述べてきました。縦棒の高さが、平均的にどれくらい各々の運動が持久力を高めるかを示しています。
運動頻度などについては多変量解析という方法で調整してありますので、一応おおまかに、運動頻度が同じと仮定すると効果はこのようになるということを示しています。星印は統計的に有意な結果を示しています。予想通り、運動強度の強い運動(運動時に時間当たりにしてより多くの酸素を消費する運動)をしている人たちの持久力レベルが高いようです。例えば、球技・登山・ジョギングなどです。自転車(サイクリング)に関しては持久力を測定する方法自体が自転車(座位自転車エルゴメータ・エアロバイク)を使っていますので慣れなどからある程度バイアスがかかっているかもしれません。
その次に示されている健康づくりセンターは札幌市中央健康づくりセンターに定期的に通って運動をしている人をあらわしています。このような人はたいてい皆、エアロバイク・クライムなどのエアロビックな運動を中心にしてその他ストレッチ・筋力トレーニングなどを総合的におこなっているのでこれは予想できる結果と思っています。
■はっきり出ない歩行の効果
さて最も行っている人の多い歩行運動はどうでしょうか。右端から2番目にしめされていますが効果は明らかではありません。少しマイナス側に落ちていますがこれは星印がついていないことからもわかるように統計的には有意ではなく、単に効果を証明できなかったを示しています。しかしこれはとてもショックなことです。センターでも歩くことは良いことだといって薦めているのにその効果がはっきりでないのは問題です(持久力に対する効果がすべてではないのですが)。
分析方法にも問題がありそうです。一人でいろいろな運動を行っている人も多いのでいくら多変量解析といっても何か見通しが悪くなり、本当かなという気もします。そこでここで対象を歩行以外の運動は定期的にしていない人のみにしぼってみました。生活の必要上からでも健康運動としてでもとにかく歩く以外は運動していない人は約250人でした。その結果はかなり驚くべきものでした。速歩・階段・坂道歩行など歩行の強度と持久力が関係あり、歩行時間の効果はやはり明らかではないのです。
図2の左の方に速歩と最大酸素摂取量(持久力)との関係をしめします。右の方に歩行時間と最大酸素摂取量との関係がしめされていますが、速歩に比べるとかなり右上がりの程度がなまっています。おまけに統計的に有意ではありません(偶然の結果かもしれません)。以下、肥満の程度を表す体格指数(図3)、収縮期血圧(図4)、中性脂肪(図5)の順に同様の図を示します。ほぼ同様の結果です。階段・坂道歩行に関しても同様の結果がでました。
■歩く習慣ができたら速歩へ
では歩行・ウォーキングに時間をかけることは意味がないのでしょうか。そんなことはないだろうと思います。効果を示している研究もいくつか発表されています。またここに示したのは運動の効果と思われるもののなかのほんの一部です。だいたい歩行の強度といってもマイカー族になってそもそも歩かなければそれを論ずること自体が無駄です。
このデータの意味するところはおそらく次のようなことだと思います。ある程度(一日に30分以上?)歩く習慣ができたら速歩・階段・坂道などで運動強度をあげる試みをするともっと健康上の効果があがる。注意すべきことは、そもそも歩く習慣のない人が急に速歩・階段・坂道歩行などをはじめるのは危険であるということです。膝(ひざ)など整形外科的な障害がおきてきて元も子もなくなるおそれがあります。
運動にかける時間、強度、頻度、まとめて行わなければいけないか細切れの合計でもよいか、などについては世界中で健康運動を推進する研究者たちによって研究されている重要な問題です。それについてまた次回以降に述べることにします。

