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運動と悪玉(LDL)コレステロールとの関係
(1−1)
札幌市中央健康づくりセンター長 医学博士 西島 宏隆
(1)悪玉コレステロールとの関係
前回は運動と善玉(HDL)コレステロールとの関係について検討してみましたが、今度は運動と悪玉(LDL)コレステロールとの関係について検討してみましょう。
動脈硬化の血管にたまってくるのが悪玉(LDL)コレステロールです。一般にコレステロールが高いというと、それは血清中の総コレステロールをさしています。しかし総コレステロールはその名の通り血清中のコレステロール全体の濃度を表わしており、実は善玉コレステロールも含んでいるのです。
通常は悪玉の占める割合が圧倒的に多いので問題ないのですが、人によっては善玉が半分近くを占めることがあります。実際の悪玉コレステロールは次の様にして計算できます。
悪玉(LDL)コレステロール=
総コレステロール − 善玉(HDL)コレステロール −(中性脂肪×0.2)例えば総コレステロール=250
善玉コレステロール=50
中性脂肪(トリグリセリド)=100
の場合には悪玉コレステロール=250−50−(100×0.2)=180となります。
単位はmg/デシリットルです。ただし中性脂肪は400以上ならこの式は使えません。悪玉コレステロールの正常値は130以下です。
運動によって上がったり下がったりするものがあると、総コレステロールの値の変化の解釈も微妙なことになるのがわかるでしょう。
(2)年齢とともに悪玉コレステロールが増加
悪玉コレステロールの値はどんなものに影響されているのでしょう。
遺伝、年齢、食物、肥満、運動などがあげられています。実際に健康づくりセンターの札幌市民のデータをみてみましよう。
図1に年齢と総コレステロールとの関係を示します。男女ともに年齢とともに増加しているのがわかります。これは悪玉コレステロールをとってもほぼ同じです。
特に女性で閉経後に増加が大きいようです。コレステロールが一番密接に関連している成人病である冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症、突然死)も、元来女性には少ないのですが、閉経後に急増してくることが知られています。
図2は、肥満と総コレステロールとの関係を示しています。肥満になると増加するのですがどんどんそうなっていくわけではなく、あるところで頭打ちになっているのが興味深いところです。摂取カロリーが多くなると一部がコレステロールの合成にまわるとされていますが、元来コレステロールは貯蔵エネルギーではないので、比例関係はそう良くないのでしよう。
やはり食物の内容の方も重要です。ついでですが、中性脂肪のほうは皮下、内臓などにたまる脂肪となるものです。図3をみて下さい。ふとるほど、どんどん増加しています。
(3)運動は悪玉コレステロールの影響を緩和
さて運動はどうでしょうか。運動では善玉が増えるので、ここでは総コレステロールではなく悪玉コレステロールとの関係を示しました。
まず図4で運動習慣との関係を示しました。運動で減る傾向はありません。しかし運動習慣はアンケートからえたもので、あまり正確でない可能性もあります。
前回に解説した最大酸素摂取量推定値=持久力との関係をみてみましよう。しかし図5をみてください。そういう関係はないようです。
食物の影響は現在の栄養評価法の限界か、はっきりした関係がでてきませんでしたが、しかし代謝病棟などでの多くの厳密な研究から動物性脂肪の摂取がコレステロール値の上昇に関係しているのは間違いのないところです。
このように多くの因子が血清コレステロール値に関与しているので多変量解析という方法でも分析してみましたが、やはり圧倒的に年齢、次に肥満の影響が大きいようです。
結局、運動は悪玉を直接下げる力は弱いが、その悪影響を緩和するかまたは拮抗する働きをしている、ということができます。例えば、運動による善玉コレステロールの増加、中性脂肪の低下、肥満の改善、などです。そして何よりも疫学的な調査、研究によると、運動はコレステロール値とは直接関係なく特に心臓疾患による死亡を低下させているという事実です。
これは運動習慣の抗血栓性、血管拡張性、ストレスに対する血圧や脈拍の増加をおさえる作用、ストレスによる不整脈がおきにくくなるなどの働きによるものです。
(4)急な運動は要注意
一方、運動自体が心臓発作の引き金になることも知られています。急にがんばらないように注意しましょう。
特にリスク因子の多い人(高血圧、高脂血症、喫煙、糖尿病、肥満など)、運動不足の程度が強い人ほど気を付ける必要があります。でもこういう人ほど運動習慣を身につける必要があります。徐々に始めて習慣にすることが運動による心臓病予防のこつです。

