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菊池 健次郎 北海道心臓協会副理事長(2005〜)
旭川医科大学名誉教授・北海道循環器病院理事
道民を生活習慣病から守ろう
ますます高まる北海道心臓協会の役割
北海道心臓協会は昭和56年、伊藤義郎理事長の強い肝煎りで発足しました。以来、心臓血管病、 生活習慣病である心筋梗塞・狭心症などの虚血性心疾患、脳梗塞・脳出血・脳塞栓などの脳卒中に代表される生活習慣病の予防、適正管理についての最新の知識や情報の提供、健康相談、生活習慣の修正の指導などを介して道民の啓発に大きく貢献してきました。また、道内の医育・医療機関の若手研究者の先進的、独創的な心臓血管病の研究に対する助成を行い、多くの若手研究者の育成を推進してまいりました。
一方、我が国では戦後の経済発展とともに食習慣を含めた生活習慣の欧米化・脱日本化が進展しました。つまり、獣肉、乳製品を含めた動物性蛋白および脂質量/摂取比率の増加、車社会の浸透に伴う運動不足の蔓延に由来する内臓肥満、脂質代謝異常、高血圧、高血糖・糖尿病を包含するメタボリックシンドロームを有する国民が急増しました。そしてこれらの傾向は、道民では全国平均を上回ることが示されています。
北海道の疾病構造をみますと、死亡率(2005年厚生の指標)では全国平均を100としますと道民の糖尿病関連死は110、心臓・腎臓・高血圧関連死は107、心臓死104と全国平均を4〜10%凌駕しています。年齢調整をした心筋梗塞発症率は、男性は北海道が全国第1位、女性は全国第2位で、末期腎不全(透析導入)の増加率は北海道は九州・沖縄 と並んでトップクラスという芳しくない状況にあります。
これらの原因として、道民における肥満者および高脂血症の頻度が、それぞれ全国平均の男性:1.38倍、2.38倍、女性:1.47倍、1.80倍、成人の喫煙率が男性:1.25倍、女性:1.55倍と著しく高率で、食塩摂取量も1.1倍と多く、かつ、運動量(歩行数)は逆に全国平均に比べ60・70歳代の男性では80〜90%、女性では約85%と少ないことがあげられます。つまり、我が国全体が生活習慣の欧米化、車社会の進展に伴うメタボリックシンドローム(1.内臓脂肪蓄 積=内臓肥満、2.血清脂質異常:高中性脂肪、低HDL−コレステロール血症、3.血圧高値、4.高血糖)の急増を招いていますが、北海道はその傾向が全国平均に比べ著しいといえます。
我が国におけるこのような状況は成人にとどまらず、日本の将来を担う学童や中学・高校・大学生にも及んでいることが示されています。例えば、日本の学童(12歳)の肥満児の出現率は、昭和43年では約3%であったのに昭和52年には約7%と倍増し、その後も漸増し、平成12年以後は男児・女児共に10〜12%の高いレベルにあります。そして、平成14年の調査では児童・生徒の高コレステロール血症の比率が、小学3・4年生:男児13.6%、女児23.6%、小学5・6年生:男児15.6%、女児16.5%、中学生:男子10.4%、女子16.5%、高校生:男子12.0%、女子22.3%と5〜10人に1人は高コレステロール血症という状況です。さらに、学童の2型糖尿病の発症率(10万人当り)は1982〜83年:1.89人、1987〜91年:3.19人、1992〜96年:4.97人、1997〜2001年:5.11人と急増しています。また、私共が検討致しました医学部入学生(大学1年生)のBody MassIndex(BMI:体格指数)や体脂肪率は男女とも1997〜98年入学生に比し、いずれも5年後の2002〜03年入学生の方が有意に高値で、大学生の肥満傾向の進行が明らかになっております。
2006.3.21 フォーラム2006で「生活習慣病の予防は幼少児期からが大切」と題して講演 このような若年期からの生活習慣病の危険因子の増大の根底には、前述致しました運動不足と食事における脂質摂取/総エネルギー摂取(F/T)比率の増大があると考えられます。事実、平成16年度の国民健康栄養調査の結果をみますと、F/T比率が適正とされる25%未満は男性では40歳代以後の中・高齢者、女性では60歳代以後の高齢者のみであることが示されています。つまり、1〜6歳の幼児期は男女で28.4〜28.6%、7〜14歳の学童・生徒は28.3〜28.7%、15〜19歳の思春期は28.5〜29.8%、20歳代は27.1〜28.7%、30歳代は26.0〜27.9%とF/T比率が高く、とくに幼小児〜思春期、青年期の脂質(とくに動物性脂質)摂取比率が不適切に高いことが明らかといえます。この根底に横たわる食習慣と運動不足の修正、解消がメタボリックシンドロームに包含されます生活習慣病の危険因子の低減、ひいては心臓血管病(とくに動脈硬化性の心臓血管病)の発症予防、進展抑制に必要不可欠と考えられます。
さらに最近では、慢性腎臓病(CKD):尿に微量のタンパク(アルブミン)が出たり、顕微鏡的血尿(潜血反応)が陽性であったり、腎機能(糸球体濾過値GFR:血清クレアチニン値と年齢、性別から簡便に推算することができます)が50ml/分/1.73u・体表面積、より低い場合には、心臓血管病を発症する危険度が高くなることが多くの臨床・疫学研究により示されています。そして、この慢性腎臓病も生活習慣病である高血圧・脂質代謝異常・高血糖・糖尿病と密接に関連していることが指摘されています。実際に、我が国で透析治療に導入される原因疾患は、従来最も多かった慢性糸球体腎炎が減少し、糖尿病性腎症が急増し、これが第1位となり、また、高血圧性腎障害に起因する腎硬化症も増加し続けていることが日本透析医学会の統計調査により明らかにされています。そして糖尿病性腎症や腎硬化症が原因で透析導入された患者さんでは、心臓血管合併症が多く、生命予後が不良であることも実証されています。
このような日本国民、北海道民の疾病構造、生活習慣の実状や問題点を直視しますと国民、道民の食習慣・運動習慣を中心とした生活習慣の幼小児期からの修正に重点を置いた心臓血管病の予防・進展阻止についての啓発活動の推進は極めて重要、不可欠といえます。その意味でも北海道心臓協会の事業の推進の社会的、公益的意義はますます大きくなることは疑いなく、本協会のさらなる発展に関係の皆様とともに力を尽くしたいと考えております。
