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飯村 攻 札幌医科大学名誉教授・札幌鉄道病院顧問
(1992〜2001北海道心臓協会副理事長)
疾病構造の変化に対応した啓蒙活動を展開
北海道心臓協会が設立されてから、はや26年、4分の1世紀が過ぎ、協会の機関紙ともいうべき「すこやかハート」の第1号が創刊(1984)されてから23年。この記念すべき100号に寄稿する機会をいただき、深甚なる感謝の念と同時に、あらためて今昔の感に堪えないものがございます。
この4分の1世紀、協会発展の道程には、諸家、諸機関のご協力、ご支援はもとより、なにはともあれ協会創設以来の伊藤義郎理事長の公私にわたる多大なご尽力と、北海道新聞社のお力添えに心からの謝意を表さなければなりません。
さて、思い起こせばということになりますが、当協会が発足した当時は、本邦の疾病構造(病気の分布)が日本の在来型から次第に欧米先進国型に変わりつつある時でした。つまり、死因の第一位を占めていた脳卒中の頻度が次第に低下し、その後はガンと心臓病が死因の上位を占めるであろうとされる時代でした。そして、死因の上位を占めていた脳卒中と、今後を見越しての狭心症、心筋梗塞などの虚血性心臓・血管病に対する予防・対策が大きく望まれるようになってまいりました。そこでいち早くというべきか、遅ればせながらというべきか、心臓・血管病の抑止対策にはまず一般の人々の予防に対する理解とそれを促す啓蒙が必須であるとし、この運動をすすめるべく創設されたのが当協会、「北海道心臓協会」ということでありました。爾来今日までたゆまない努力が積み重ねられてきたことは周知のとおりで、この行程には伊藤理事長をはじめ、諸賢、諸機関のご尽力をいただいてきたことは冒頭にも申し上げた通りです。
一方この間に本邦の疾病構造も大きく変ってまいりました。脳卒中というのは脳出血や脳梗塞、脳塞栓などを総称する病名ですが、このうち脳出血は次第に、しかも顕著に減少し、代わって脳梗塞が増えてまいりました。そして死因としての脳卒中全体の頻度は大きく低下してまいりました。代わって心臓病が増え、現在ではその上昇がやや小康を保つ状態となり、おおよそ死因の1/3がガンで、1/3が脳卒中+心臓病、その他の病気が残る1/3となっております。ただここで誤解をして頂きたくないことは、以上の割合はあくまでも死亡の原因であって、病気の発症の頻度ではありません。最近は医療の進歩と予防の甲斐もあって、脳卒中を含む死亡に到る心臓・血管病の頻度は改善いたしましたが、病気自体の頻度、つまりこれらの病気の発症の頻度はむしろ増えて、高齢化社会の出現とも相まって、病気自体やその後遺症に悩む人々の数は大幅に増えていると言わざるをえません。また、疾病構造が欧米化しつつあるとは申せ、まだ欧米に比すれば脳卒中が多く心筋梗塞が少ないなど本邦に特有な所見も残されております。つまり一言で申せば、本邦では心臓・血管病の軽症化と罹患率の上昇が認められ、このことは死亡に到らないまでも日常の活動性を著しく制約し、ことさら高齢化社会の中では介護の問題ともからめて極めて重要な問題を孕んでいると言わざるをえません。なによりも、まだまだ、病気の発症の予防や病気に罹患した際の可能な限りの回復、改善を志さねばなりません。
「北海道心臓協会市民フォーラム」の行事として恒例になった、専門医、看護師、薬剤師、栄養士による「無料健康相談」で、相談を受ける
(2005.3.26“ フォーラム2005”)次に、最近は生活習慣病という言葉を耳にすることが少なくなり、代わりにメタボリック症候群やメタボ、代謝症候群などという言葉が頻繁に使われるようになってまいりました。この症候群は既に「すこやかハート」にもたびたび解説されてきたことで、ここでその詳細を述べることは避けたいと思いますが、要は高血圧や糖尿病、高脂血症は、例えそれぞれが軽症であっても、合併すると心臓・血管病が著しく促進されて重篤な結果を招来する。そしてこれらが合併する機序の一部には腹部の脂肪の増大(腹部肥満)が重要な位置を占めるというものです。しかし、よしんば腹部の肥満がなくても、高血圧や糖尿病、高脂血症の合併は心臓・血管病を著しく促進致しますので、それぞれの発症の予防や発症後の治療には十分に意を注がねばなりません。また禁煙や減塩を心がけ、肥満や過量飲酒を避け、適度の運動をすすめるなど、当協会の活動を通じ機会ある毎に述べられてきたことの重要性は今も、そして今後も変わりはありません。このことは将に生活習慣病の予防、対策そのもので、ここに北海道心臓協会の活動の大きな意義 が見出され、またそれ故に今まで積み重ねられてきた当協会の業績に十分な評価を贈り、今後の活動により積極的な協力を配慮したいと思います。
最後に、心臓・血管病対策の現状と将来に対する展望について簡単にふれてみたいと思います。それは、死亡の直接の原因となる疾病構造が変わってきたことは先にも述べたとおりです。しかし、医療の進歩や疾病に対する知識の普及は病気を軽症化し、あるいは急性期の治療をより容易にしてはおりますが、発症頻度や患者さんの数自体は今なお増加しております。このことは、高齢化社会とも相まって、日常生活の大きな支障となっていることは周知のとおりです。最近は生活習慣の改善は勿論ですが、高血圧や糖尿病、高脂血症の診断基準がより詳細になり、より早期からのそれぞれに応じた治療対策も力説されるようになってまいりました。いずれにしても、地域社会におけるいっそう健やかで活動的な長寿を送るためには、当協会のますますの活躍とそれに対する皆様のご協力、ご支援を願わないわけにはまいりません。
次の本誌200号も、皆さんお揃いで健やかに迎えましょう。
