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セルフ・コントロール
(1−1)
札幌医科大学教授 心理学 澤 田 幸 展
対処法−リラックスするには
シリーズ『ストレスと循環器』の第1回目で、ストレスの典型的な兆候として、血圧の上がることを指摘しました。仕事や夫婦のトラブルといった、生活上の出来事に日々翻弄される中で、これに対処しようとする「資産」( 情緒の安定、似たような過去経験、悩みを聞いてくれる友人など)が不足していると、私達はストレスに陥ります。
そのとき、循環器の立場からみると、血圧の上がっていることが多い、というわけです。ただし、逆は必ずしも真ならずですから、気をつけて下さい。「ストレス→血圧上昇」とは言えても、「血圧上昇→ストレス」とは言えません。(高血圧の人は皆ストレスだらけかというとそうではありません。念のため)
さて、「血圧が上がる」と、つい口走ってしまいたくなるような、さまざまなストレスに日々直面する生活の中で、私達はどうしたらこれとうまくつき合って行くことができるのでしょうか。ときには、精神安定剤を処方してもらうとか、カウンセリングを受けるなど、専門家の助けに頼ることが必要ですし、また、賢明なやり方でもあります。
しかし、ここでは、自分で出来るセルフ・コントールとしてのリラックス法について、お話ししましょう。 ところで、成人病(最近は、生活習慣病と言い直されていますが)の成り立ちには、図で示したように、体質的遺伝、年齢、生活習慣、そして、ストレスの 4種類が、複合的にかかわっています(このほかに、環境汚染物質や、食品添加物なども含まれるでしょうが)。
これら 4種類のうちで、前の二つ―つまり、体質的遺伝と年齢は、自分でどうにか出来るものではありません。家系的に循環器疾患が多いから、そして、自分もそろそろ年だしと、気をつけるのがせいぜいでしょう。一方、後ろの二つ―つまり、生活習慣とストレスは、ある程度までセルフ・コントールが可能です。ここで詳しくは説明しませんが、生活習慣を改善したければ、食べ方・眠り方・運動の仕方を、工夫することです。
−リラックス法−
ストレスをセルフ・コントロールする方法は数多く知られています。皆さんは、常日頃からソファーに横たわる、風呂に入る、お酒を飲むなどして、心とからだを解放しているに違いありません。あるいは散歩をする、買い物に出る、TVを見る、音楽を聞く、カラオケで歌う、マージャン・パチンコ・競馬などに興じるなどして、気分転換をはかっていることでしょう。これはこれで―とくに、心身解放型のものは、立派なリラックス法といえます。
しかし、身も心もゆったりとくつろがせることが、リラックス法の真髄です。そのためには、もう少し本格的な方法が必要で、たとえば、自律訓練法(自己催眠法の一種)、ヨーガ、感情モニタリングなどが推奨できます。紙面の都合上、ここでは感情モニタリングに絞って、ごく簡単に紹介しましょう。
たとえば、あなたが二日酔いをしたとします。前の晩にお酒を飲み過ぎて、朝起きたら、胃のあたりがむかつく、というわけです。まずは、この胃のむかつきに、さりげなく注意を向け、アーむかつくなどと言葉に直さないで、そのまま丸ごと、味わってみて下さい。また、それがどのような感じであれ、あなた自身の感じていることですから、嫌がらずに、あるがままを受け入れながら、味わってみて下さい。胃のむかつきはなくならないでしょうが、快―不快といった執着が薄れ、それなりに味わうことができるはずです。
感情モニタリングでは、2つのことが勧められます。言葉に直さないこと(非分析)、そして、受け入れること(受容)です。自分の身の回りで起こるさまざまなことに、この心がまえで柔らかく対処することは、易しいことではありません。とくに、不快な感情に襲われた(人前で喋ろうとして、あがってしまった)ときなど、アレコレ分析し、とらわれるのが常です。そこで、最初は簡単なもの(たとえば、二日酔いの胃のむかつき)から始めて、徐々に難しいものへと、慣らして行くとよいでしょう。応用の広い、それでいて、奥の深いリラックス法として、お勧めする次第です。