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NO.3 |
心臓神経症とは?
(1−1)
朝里病院 内科 本江 正臣
−心と身体の関係−
私達は毎日の生活において、いろいろな思いをしながら日々を過ごしています。大きく分けると、快なるもの(喜び・楽しさ)と不快なもの(怒り・哀しみ・不安・緊張・憂うつ)とになるでしょう。
人間は、生活上の出来事や状況(自然環境・人間の活動)から刺激を受けて反応し、心に快・不快の感情をつくりそれが自律神経やホルモンを介していろいろな身体の反応(呼吸・循環・胃腸・神経等)を起こすようにできています(心身相関)。たとえば、口論で一時的に脈拍や血圧が上がる、ストレスが続き持続的に血圧が高値となる、さらにはストレスが不整脈や心筋梗塞のきっかけになっていたなどです。
また、私達は心に不安が生じた場合、忘れようとする・虚勢をはる・八つ当たりする・怒る・言い訳するなどして無意識のうちに対処していますが、人によっては不満や葛藤による不安を不快な感情としてではなく、身体の症状に置き換えて表現しているということがあります。身体の症状がいつも身体の病気に由来するとは限らないのです。心のしくみの興味深い一面です。
なお、私達が日常的に使うストレス≠ニいう言葉は、私達の心に不快な感情・精神的な負担をつくる外からの刺激をさしているものと理解されます。
−身体症状を訴える−
心臓神経症とは、「胸がドキドキする(動悸)」や「胸が痛い・重苦しい」などの心臓の症状が強くあるにもかかわらず、検査上何ら身体(特に心臓)の病気が発見されない場合に、心臓のことに意識が集中している心の病的状態であるとしてよく用いられる病名です(なお、類似の病像をさす病名がいくつかあり、医師により病名の使い方が異なるのが現状です)。
一般的には精神的に不安・緊張感が高まっている状態で、時には憂うつ感が主体のこともあります。心臓は生命に直結する臓器ですから、心臓の病気=死ぬ病気という解釈から新たな不安を起こしやすく、それがさらに心臓の症状を悪化させるという悪循環を作ってしまうことが多いようです。そして、精神症状ではなく身体の症状を訴えるため、精神科ではなく内科や循環器科をそれも救急で受診することが多いと思われます。
治療は、まず不安・緊張感を和らげることです。一般心理療法(受容・支持・保証)と薬物療法(抗不安薬・抗うつ薬など)が一般的です。特に前者では、治療者の姿勢(患者が苦痛の思いを全て語れるように、訴えを否定批判することなく共感して傾聴する)が重要になります。また治療者の技量により他の精神療法(自律訓練療法・交流分析療法など)が行われることもあります。結果的に生活の仕方や生き方を見直すきっかけになることもあります。なお、診療が内科と精神科とどちらがよいかはケースバイケースです。
−受容の重要性−
身体の症状を訴える心の病気に対して、社会の認識はまだ乏しいようです。医者は「何ともない、気のせいだ」と、家族は「病気ではないのだから気にしないで頑張れ」と否定的に言いがちです。しかし、患者にすれば「誰も自分を受け止めてくれない、不安の中こんなに頑張っているのにもっと頑張れというのか」でしょう。人間はありのままの姿を受け止められる(受容)と安心感をもつことができ(不安感の軽減)、自分を見つめ直すゆとりがでてきます。ここは「頑張れ」ではなく「そうですか、辛いですね」がベストです。受容する姿勢が医療の場に限らず家庭や社会一般の中にも広がってほしいものです。

