NO.7 |
心臓カテーテル検査:冠動脈内画像診断
(1−1)
札幌医科大学 医学部第二内科講師 土橋 和文
今や治療の大きな柱 冠動脈形成術は年10万人
心臓カテーテル法とは、細い特殊な管(カテーテル)・針を心血管系の内腔に直接挿入することにより、より詳細な心臓・血管系の情報を得るための検査方法の一つでした。もともと痛みが加わるつらい(観血的)検査法でした。
約100年前に医療の場に導入され主に、
(1)心臓血管系の内圧・酸素濃度を直接測定することにより心負荷・短絡の程度を評価したり治療効果を判定する
(2)造影剤を心臓血管内に注入して心臓の形態・機能異常ならびに(冠)動脈の狭窄を診断する
(3)心臓の電気異常の部位程度を評価する
等の検査の目的で行なわれてきました。今ではカテーテルもより細く、著しく安全性も向上いたしました。また、1980年代に入り治療を目的とした革新的で特殊なカテーテル(バルーン=”風船”カテーテルなど)が数多く開発され、手術によらない治療方法としても発達しました。
現在では、単に検査方法のひとつではなく、薬剤・手術と並んで心臓血管疾患の治療法の大きな柱の手技の一つとなっています。
このうち最も一般的なのが、狭心症・心筋梗塞症に対して施行される冠動脈形成術です。実際、日本でも年間に10万人以上の方々が受けられています。さる要人がわざわざこの治療をうけるために来日されましたが、我が国は国際的にも極めて高い水準にあります。北海道においても多くの専門家が日夜皆様のお近くで活躍されておられます。
今回の拙書の目的は、心臓カテーテル検査法の進歩を簡単に示すことにあります。以下に冠動脈内画像診断および(冠)血管の治療カテーテルの最近の進歩について書きます。
圧・血の流れる様子を評価/血管内の超音波検査も可能に
従来の造影薬を冠動脈に注入する冠動脈造影では影絵のように狭い(狭窄)血管の部位を健常な血管との差で同定していました。しかし、全体の冠血管が均一に狭窄したり、逆に非常に幅狭い範囲の狭窄は見つけることが難しい場合があります。
最近では、圧・血の流れる様子を評価する細い針金(ドップラーワイヤー等)および管の先からの超音波検査(血管内超音波検査:IVUS)が可能となっています。
また、従来から粥状動脈硬化をきたした病理組織の検討により、同じ動脈狭窄でもコレステロールの量・炎症の度合い・血栓の付着・壁の性状などが違うことが知られていました。すなわち比較的狭窄は軽いが破れやすく危険な狭窄と、程度はきついものの安定した狭窄病変(プラーク)が知られていました。
これは、仕組みは異なりますが、赤く熱っぽい表面の薄い膿をもった”にきび”、”吹きでもの”と昔の傷跡が同じ膨隆でも全く違うのに似せて考えていただけるとわかり易いと思います。
最近では、やはりIVUSや血管内視鏡によりある程度評価できるようになっています。ただ、大多数の方ではここまでは必要ではありません。また手技的な煩雑差に加えて、大変高価なものです。
血栓吸引、硬い狭窄粉砕−進歩目覚しい治療用/再生医学治療の応用も研究
前に述べた、バルーン=”風船”カテーテルの他に、最近では治療に用いるカテーテルの進歩も目覚ましいものがあります。
金属(多くはステンレス製)のステントの他に血栓の吸引を目的としたカテーテル・硬い狭窄のみを高速で回転するダイアモンド・カッターで粉砕するカテーテルなど、最新の土木器材を見るかのごとくです。これも、トンネル掘でただ単に素堀では落盤(急性閉塞)や永年の使用での変型(再狭窄)を予防するために使うと考えれば容易に想像できると思います。
現在では単に風船で終了する方は稀であります。その他にも多くの有益な薬剤を添付したり、将来的には再生医学(病んだり変性した組織を再生する)治療の応用が研究されています。
心臓カテーテル検査法の進歩について簡単に述べてまいりましたが、最後、特にご理解いただきたいことがあります。
確かに心臓カテーテル法は心臓血管疾患の検査診断・治療において欠くことのできないものになっています。しかし、あくまで症状・診察所見および他の診断法により、専門医が必要と判断される方々に施行してはじめて価値ある情報・治療結果を得られます。安易に心臓カテーテルを施行することは専門家の間でも批判の的となっています。
また、将来の予測は最新の検査・治療手段をもっても難しいものであることを明記したいと思います。
◆訂正 季刊誌「すこやかハート」76号の文中、「心臓カテール検査」とあるのは「心臓カテーテル検査」の誤りでした。訂正しておわびします(北海道心臓協会)。