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NO.2 |
心電図検査法
(1−1)
北大医学部循環病態内科学 富田 文
最も基本的な12誘導心電図心電図とは、心臓の拍動に伴って生じる電気的活動を体表面から記録したものです。皆さんが病院で心電図を記録する場合、通常は両手、両足、胸部に合計10個の電極をつけて、いろいろな組み合わせで12の異なる心電図を記録しますが、これを「標準12誘導心電図」と呼び、単に「心電図」というときにはこの12誘導心電図のことを指します。
12誘導心電図は、胸部X線と並び循環器疾患の診療における最も基本的な検査法の一つで、ベッドサイドで簡便に行うことができ、心肥大、心筋梗塞のような心臓の異常の診断や、電解質異常などの全身状態の把握に重要な情報を与えてくれます。
しかし、記録時間がせいぜい30秒から1分と短いため、発作性あるいは一過性に出現することが多い不整脈や狭心症発作を12誘導心電図で捉えるのは困難です。
このような12誘導心電図の欠点を補うために色々な心電図検査法が開発、利用され、その代表的なものに運動負荷心電図とホルター心電図があります。また、12誘導心電図では記録できない心臓の微小な電位を体表面から記録することを可能にしたのが加算平均心電図です。
適 応
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運動負荷心電図 | ・虚血性心疾患の診断と重症度の評価 ・不整脈の診断 ・心疾患の内科的、外科的治療効果の評価 ・心疾患患者の運動耐容能の評価 ・心疾患患者のリハビリテーション |
ホルター心電図 | ・自覚症状と心電図変化との関係 ・不整脈の検出と重症度の評価 ・心筋虚血の検出と重症度の評価 ・薬効評価(抗不整脈薬、抗狭心症薬) ・ペースメーカーの作動評価 ・自律神経活動評価 |
加算平均心電図 | ・心室遅延電位の検出(重症心室不整脈の予測) ・心房遅延電位の検出(心房細動慢性化の予測) ・His束電位の検出 |
労作狭心症の診断に有用
運動負荷心電図
運動負荷心電図(写真左)は、運動負荷試験により安静時には認められない心筋虚血や不整脈を誘発、診断するのに利用され、特に労作狭心症の診断に有用です。また、心臓病患者の運動耐容能や心予備能の評価、あるいはリハビリテーションを目的として行われることもあります。
運動負荷試験の種類には色々ありますが、凸型階段の昇降を行う「マスター2階段負荷試験」、速度や傾斜が変わるベルトの上を歩行する「トレッドミル負荷試験」、固定式の自転車でペダルの重さを定量的に変化させる「自転車エルゴメーター負荷試験」などが代表的です。
昔は心電図や血圧モニターなしで行うマスター2階段負荷試験が主流でしたが、最近ではトレッドミルや自転車エルゴメーターを使用し、運動前、中、後を通じて連続的に12誘導心電図と血圧をモニターしながら、軽い負荷から段階的に負荷量を増し、自覚症状や異常所見の発現まで、あるいは目標とする心拍数まで運動を行う多段階運動負荷試験が広く行われます。
また、運動負荷心電図と核医学検査や心エコー検査などの画像診断を組み合わせることにより、心筋虚血の診断や心機能評価をさらに詳しく正確に行うことができ、広く利用されています。
携帯型、 24時間の記録可能
ホルター心電図
1961年ノーマン・J・ホルター博士により、携帯型の長時間記録可能な心電図システムが開発され、以後この検査法はホルター心電図(写真左)と呼ばれ、近年のコンピュータ技術の進歩と相まって急速に普及してきました。
その最大の利点は、携帯型記録器を用いて長時間(多くは24時間)にわたる日常生活中の心電図をカセットテープやICメモリに連続記録することであり、日常生活中に発生する不整脈や狭心症の自然発作を捉えることができます。
ホルター心電図の適応は、動悸や胸痛などの自覚症状が心電図変化を伴っているか否かのスクリーニングに用いる場合と、不整脈、虚血性変化の評価やそれらの治療効果判定に用いる場合に分けられます。
ホルター心電図を記録する際には症状日誌を記載しますが、これは自覚症状と心電図変化を対応させて評価する上で非常に重要です。自覚症状が強くても心電図に変化がなく、心臓の治療は必要ないと判断される例や、逆に、自覚症状がなくとも心電図に異常が認められて治療が必要になる例もあります。
このように、ホルター心電図は自覚症状の有無にかかわらず虚血性心疾患や不整脈治療の必要性を判断する上で重要な情報を提供してくれます。
心臓の微小な電位変化を記録
加算平均心電図
おわりに
加算平均心電図(写真左)とは、通常の体表面心電図では記録できない心臓の微小な電位変化を体表から非侵襲的に記録する方法です。単純に心電図波形を拡大しても正常波形や雑音も同様に拡大されてしまうため、微小電位だけを区別することはできません。
そこで、多数(100〜500)の心拍を重ね合わせて平均化(加算平均)することにより、いつも同じ時相に出現する電位は増幅されて残るのに対し、不規則に出現する雑音は小さくなってキャンセルされることになります。このようにして目的とする微小電位のみを取り出して、記録したものが加算平均心電図です。
加算平均心電図で記録される代表的な微小電位に心室遅延電位があり、心室局所の障害による興奮伝導の遅れや不均一性を反映していると考えられています。
心室遅延電位は特に陳旧性心筋梗塞や心筋症で、心室頻拍や心室細動の重症不整脈を有する例に高率に検出されます。「心室遅延電位で重症不整脈発生の危険を予測できるのではないか」との期待がもたれていますが、この評価に関してはまだ定まっていないのが現状です。
一口に心電図検査といっても色々な種類があり、今回紹介した検査以外にもベクトル心電図や体表面マッピング、あるいは侵襲的な心臓電気生理学的検査など多くのものがあります。各検査にはそれぞれ適応と限界があり、上手に組み合わせて利用することによって互いの欠点を補いあい、心臓の電気活動を総合的に評価できるようになります。

