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NO.3

糖尿病
(1−1)

旭川医科大学第一内科 
平山 智也


視覚、腎、神経、血管、皮膚・爪、口腔に合併症/環境因子も発症に関与
食事、運動、経口血糖降下、インスリンで対応/血圧のコントロールも重要

糖尿病とは

 膵臓のβ細胞から分泌されるホルモン(インスリン)の作用不足により、種々の代謝異常に加え、細小血管を障害することにより、糖尿病性網膜症(図A)、糖尿病性腎症(図B)、糖尿病性神経症(障害)や、動脈硬化症を基盤とする血管障害をも合併しうる疾患群です。このため、高血圧や、高脂血症、肥満、高尿酸血症などとともに、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患を発症する危険因子として重要な疾患です。

図A 糖尿病性網膜症
(眼底出血、白斑を認める)
図B 糖尿病性腎症
(糸球体硬化を認める)

糖尿病の成因

 糖尿病は、その成因により、T型(β細胞の破壊)、U型(インスリンの絶対的ないしは相対的不足)、その他の特定の機序・疾患によるもの、妊娠糖尿病の4つに分類されます。わが国の、糖尿病患者の90〜95%はU型に属し、遺伝的素因に加えて、加齢、過食、肥満、運動不足、ストレスなどの環境因子が加わって発症すると考えられています。

糖尿病の診断

 尿に糖が出たからといって、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が正常であれば、必ずしも糖尿病ではありません。糖尿病の診断は、あくまで、口渇、多飲、多尿、体重減少などの糖尿病の特徴的な症状があり、さらに血糖値が、次のいずれかに該当する場合には糖尿病と診断されます。
@随時(食前、食後問わず)血糖値が200mg/dl 以上
A空腹時血糖値が126mg/dl 以上
B75g糖負荷試験で2時間値200mg/dl以上
 ただし、血糖値は変動が大であるので、糖尿病の症状がない場合には、1回の検査が「糖尿病型」であっても、確診のためには再検査を必要とします。
糖尿病の合併症
1)視覚障害

 糖尿病では、糖尿病性網膜症(図A)による眼底出血や白斑に加え糖尿病性白内障の合併による角膜混濁により、視覚障害をきたします。特に、急激な視力低下や視野障害をきたす場合には、硝子体出血や黄斑症などの可能性がありますので、眼科のすみやかな受診が必要です。

2)腎障害

 糖尿病歴が10年以上になると、糖尿病性腎症(図B)を合併することがあります。初期には、微量アルブミン尿レベルの蛋白尿ですので、一般検尿では異常が認められないことに注意が必要です。一般検尿で、明らかに蛋白尿が出現するようになると、腎機能が急激に低下してくることが知られており、数年で透析療法が必要になることもあります。現在、わが国の透析療法患者の総数は、20万人を突破し、その原因の第1位が、この糖尿病性腎症ですので、腎臓専門医の受診を早めに受けることが肝要です。腎機能が低下すると、浮腫(むくみ)、高血圧、貧血症状、消化器症状(便秘、下痢、食欲低下)、神経症状(手足のしびれ)、筋症状(筋力低下)、精神症状(頭痛、不眠、いらいら感)などの多彩な腎不全症状が出現します。

3)糖尿病性神経症

 糖尿病の比較的早期から、出現しうる合併症で、手や足の指先などに知覚障害(触・温・痛覚の低下〜消失)、自律神経障害(起立性低血圧、インポテンツ、発汗異常、便秘・下痢などの消化管運動障害)をきたします。

4)血管障害(閉塞性動脈硬化症)

 末梢動脈硬化により発生し、両下肢などの冷感、歩行時疼痛などが出現します。足背動脈の脈が触れづらくなります。皮膚に色素沈着や潰瘍形成を認めることがあります。

5)皮膚・爪病変

 糖尿病患者の皮膚・爪病変は多彩で、白癬菌感染(みずむし)や化膿症、潰瘍などは難治性で、QOL(Quality of life:生活の質)を損なうことも多く、フットケアは、糖尿病患者では、極めて重要です。

6)口腔病変

 う歯、歯槽膿瘍、歯周病などをおこしやすく、細菌感染をおこすと、細菌性心内膜炎などの重篤な循環器合併症の誘因となることもあります。マウスケアも重要です。

糖尿病の治療
1)食事療法

 腹7〜8分目、食品の種類を多く(30種類以上が目標)、バランスのとれた食品構成とし、1日3回規則正しく食べることが大切です。エネルギー摂取量は、標準体重〔身長(m)×身長(m)×22〕×30Kcalを目標にします。身長160cmの人であれば、1.6×1.6×22×30=1690Kcalになります。労働量に応じて、多少増減します。

2)運動療法

 運動療法の目的は、エネルギーを消費することだけでなく、インスリンの感受性を改善し血糖コントロールを是正しやすくする効果も期待されます。万歩計を用いて、1日1万歩の歩行が有効ですが、腎障害や冠動脈疾患のある場合には、運動制限が必要となることもありますので、医師の指示に従ってください。

3)経口血糖降下療法
 (@)スルホニール尿素(SU)薬

 グリクラジド(グリミクロン)、グリベンクラミド(ダオニール)錠などで、少量から服用を開始します。食事量が少なかったり、通常より活動量が多い時には、手の震え、動悸、冷汗などの低血糖症状が出現することがありますので、本剤を服用中の方は、飴玉やチョコレートなどを携行すると良いでしょう。
 (A)ビグアナイド(BG)薬
 肥満症例で有効とされており、塩酸ブホルミン(ジベトスB)などがあります。高齢者や肝、腎機能障害では、副作用(乳酸アシドーシス)が出現しやすいとされています。
 (B)α−グルコシダーゼ
 小腸でのブドウ糖吸収を遅延させ、食後の血糖上昇を抑制する作用がある。アカルボース(グルコバイ)、ボグリオース(ベイスン)などがありますが、副作用として、消化器症状(腹部膨満感、放屁)が高頻度にみられるので、高齢者や腹部手術を受けたことのある方は、腸閉塞などの危険もあるので注意が必要です。
 (C)インスリン抵抗性改善薬
 インスリン抵抗性を改善し、血糖降下作用を有します。ピオグリタゾン(アクトス)がありますが、肝機能障害に注意が必要です。
 (D)フェニルアラニン誘導体
SU薬と同様、インスリン分泌を促進するが、作用発現(吸収)が極めて早く、作用時間が短い特徴を有する。ナテグリド(ファスティック)がありますが、肝・腎障害では、低血糖をおこすことがあり、SU薬と同様の留意が必要です。
4)インスリン
 インスリン分泌障害の程度により、1回法(中間〜持続型、就寝前)、2回法(混合型、朝・夕食前)、頻回分割法(速効型毎食前など)と多彩ですが、担当医の指示に従うこと、治療内容を記載した糖尿病手帳の携帯が望まれます。

良好な血糖コントロールとは

 空腹時血糖値100mg/dl未満、食後2時間値120mg/dl未満、HbA1c値5.8%未満が望ましい。空腹時血糖値140mg/dl以上、食後2時間値200mg/dl以上、HbA1c値8.0%以上は、血糖コントロールは不良です。また、臓器合併症を防ぐ意味では、血糖コントロールのみではなく、血圧のコントロール(130/80mmHg未満)も重要です。

最近のトピックス

 高血圧治療薬として知られる、アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)には、糖尿病の新規発症の抑制効果、脳・心・腎保護効果が、大規模臨床試験の成績から明らかになってきています。

  
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