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NO.26

慢性腎臓病の新しい診療指針
「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」から

(1/1)

札幌医科大学 薬理学講座 兼
循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座
助教 安部 功記 氏


 現在、日本では約20,000人(成人の5人に1人)が慢性腎臓病(CKD)であるといわれています。CKDは末期腎不全、心臓病、脳卒中や死亡のリスクとなることから、早期に発見し、生活習慣の改善や薬物治療に取り組むことが重要な病気です。このように多くの患者さんが罹患し、重大な病気の発症につながるCKDに対して、2009年に初めて「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」が発刊されました。その後、最新の研究結果に基づいて改訂が重ねられ、2023年6月には「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」が発刊されました。本稿では、最新のガイドラインに即して、CKDの最新の検査や治療の現状について解説します。

1、慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)とは

 腎臓は、そら豆のような形をした握りこぶし大の臓器で、腰のあたりに左右1つずつあります(図1)。腎臓は血液を濾過する働きをしています。心臓から出た血液の約20%が、大動脈を通って腎臓に流れ込み、腎臓で、余分な水分や塩分、老廃物を尿として体外へ排泄する一方で、体に必要な成分を体内に留めることで、水分やミネラルのバランスを保っています。糖尿病や高血圧症などの病気があると腎機能が低下しやすく、またこれらは、心臓病や脳卒中の原因にもなります。そのため、これらの病気を有する方は、慢性腎臓病(CKD)を併発していることも多く、注意が必要です。さらに、慢性腎臓病に罹患していること自体が、将来的な末期腎不全や心臓病、脳卒中、死亡のリスクとなることが知られており、この連鎖を断ち切るには、慢性腎臓病の早期発見と治療が極めて重要です。

図1、腎臓の構造(腎不全治療選択とその実際2025年版)

 ガイドラインでは、以下の@、Aのいずれか、または両方が3ヶ月を超えて持続する状態を、慢性腎臓病と定義しています。

  1. @尿異常、画像診断、血液検査、病理診断で腎障害の存在が明らか、特に0.15g/gCr以上の蛋白尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)の存在が重要
  2. AGFR<60mL/分/1.73u

 ここでGFR(糸球体濾過量)というのは、腎臓の老廃物を排泄する機能を表す指標です。日常診療では、血液中の老廃物であるクレアチニンという物質の濃度を用いて、腎機能を評価し、年齢・性別を加味した計算式で、推定GFR(eGFR)を測定しています。腎機能が低下すると、尿から老廃物を十分に排泄できず、血液中のクレアチニン濃度が上昇し、eGFRが低下します。eGFRは将来の末期腎不全や心血管疾患、死亡のリスクと関連しています。また、蛋白尿が持続することも同様にリスク因子であるため、GFRと尿蛋白を用いた慢性腎臓病の重症度分類が作成されています(図2)。GFRが低いほど、尿蛋白が多いほど、慢性腎臓病としての重症度が高いと判断されます。ぜひかかりつけ医の先生に尿検査や血液検査の結果を確認してもらい、ご自身のCKDステージを把握しましょう。重症度が高い場合は、担当医の先生と共に適切な治療を進めていくことが大切です。

図2、CKD重症度分類(エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023)

2、CKDと生活習慣

 これまでの研究で、CKDの発症・進展を抑制するためには、生活習慣の改善と薬物治療が重要であることがわかっています。最新のガイドラインでは以下の生活習慣の見直しが推奨されています。

  • 禁煙を強く勧める(喫煙は心臓病や脳卒中のリスク)
  • 口腔ケアを推奨(口腔の健康状態は死亡率と関連)
  • 適度な睡眠時間を確保(6〜8時間の適度な睡眠が心血管疾患のリスク低下と関連)
  • 日常的な運動(腎機能改善の可能性あり)

 さらに、CKD患者さんには個別の食事療法が推奨されます。重症のCKD患者さんでは尿毒素の蓄積を防ぐために蛋白質を制限することがあります。高血圧や糖尿病の合併があれば塩分やカロリー制限が必要になります。一方で、CKD患者さんは近年注目されているサルコペニア(筋肉が減って力が入らない、動けない状態)になりやすいという問題もあり、栄養バランスの取れた食事が重要です。そのため、ガイドラインでは管理栄養士の介入が推奨されており、担当医や栄養士と相談しながら、個々に適した食事指導を受けることが勧められます。

3、CKDの治療

 生活習慣や食事療法と併せて、薬物治療も重要です。腎臓は老廃物を尿に排泄するだけではなく、赤血球をつくるエリスロポエチンや、カルシウムやリンなどのミネラルを調節し骨を作るのに重要な活性型ビタミンDの産生にも関わっています。治療では、これらの機能を補いながら、病態に応じた薬剤を使用して、慢性腎臓病の進展を抑制します。

 一方で、薬には副作用があり、特に以下の点に注意が必要です。

  • 腎機能を悪化させる薬の常用を避ける
     例:広く使われている鎮痛薬である非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は腎機能障害を引き起こす可能性があり、「常用しないことが望ましい」とされています。代替薬として腎機能を悪化させるリスクの少ないアセトアミノフェンが用いられることが多いですが、長期的な安全性はわかっておらず、必要最小限の使用にとどめることが望ましいです。
  • 腎排泄型の薬剤の調整
     慢性腎臓病では、薬の排泄が低下しているため、副作用のリスクが高まります。医療機関で薬を処方される際には、「慢性腎臓病である」ことを必ず医師に伝え、薬の用量を調整してもらうことが重要です。

 これまでに述べた生活習慣の改善や薬物治療によっても、慢性腎臓病が進行し、ステージ4(GFR<30)になった場合は、将来の腎代替療法(腎臓の機能を代行する治療)の選択と準備が必要です。腎代替療法には以下の3つがあります(図3)

  • 血液透析:シャント血管を作成し、週3回、1回3−4時間程度、通院し、2本の針を刺して、血液を出し入れし、血液透析機で老廃物を取り除きます。自宅で自分で行う在宅血液透析もあります。
  • 腹膜透析:腹部にカテーテルという管を入れる手術をし、お腹に入れたカテーテルから、透析液を1日数回出し入れして、老廃物を取り除きます。月1回程度の通院以外は、自宅で自分で行います。
  • 腎移植:健康な親族や、亡くなった方から腎臓を提供してもらい、移植手術を行います。
図3、腎代替療法の図(腎代替療法選択ガイド2020)

 これらの腎代替療法にはそれぞれメリットやデメリットがあるため、ガイドラインでは「多職種により腎代替療法の説明を行う」ことと推奨されています。担当医だけでなく、看護師、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーさんを含めた多職種からなるチームが、患者さんやご家族とじっくり時間をかけて話し合い、最適な治療方針を決定することが望まれます。

4、おわりに

 「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」をもとに、慢性腎臓病の最新の診療をご紹介しました。慢性腎臓病は初期には症状が出にくいですが、放置すると末期腎不全、心臓病や脳卒中のリスクにつながります。ですので、年に1回の健康診断や、かかりつけ医での尿検査による早期発見が非常に重要です。尿検査で異常があれば身近な医療機関にご相談されることをお勧めします。慢性腎臓病と診断された場合も、生活習慣の改善や薬物治療により進展を抑えることが可能です。万が一、進展してしまった場合も、腎代替療法を受けることができます。今回ご紹介したガイドライン以外にも腎臓病に関する詳細な情報が日本腎臓学会のウェブサイト(https://jsn.or.jp/general/)に掲載されていますので、ぜひ参考にしてみてください。


  
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